見出し画像

#講義録・指圧応用実技 2024.10.2 〜腰が痛いお客さんが来たら試したい立位と座位で行う動作分析〜

臨床でよく出会う症例として、肩こりと腰痛があります。どちらも日頃の姿勢や生活習慣により起こりやすい慢性的な症状です。
この2つの症状を楽にすることができれば、マッサージ師として必要な最低限の施術スキルは身についていると考えています。今日の授業では、そのために必要な動作分析の話をしました。

腰は体の要と書くように

漢字はそれだけで意味を持っています。
腰という字を分解すると月と要、月はにくづきと言い体のことを表しているので、体の要であることを意味しています。

捻挫をして足首をくじいたあと、腰が痛くなることがあります。または、いつも同じ側に重たいカバンを背負っていると腰が痛くなることもあります。かようにも腰は下半身からも上半身からも影響を受けています。
伸長170cmの人であればその半分、地上85cmのところに骨盤が位置しています。以前の患者さんで右の腰が痛い、ウエストポーチをいつも右側に掛けていて…と訴える方がいました。これは直接、腰に負担をかけているようなものです。

一例ですが、痛みが出るときはその部位またはその近くの部位を使い過ぎているか、または使っていなくて症状が表れると考えます。

野球のピッチャーが試合後に肩まわりをアイシングしているように、使い過ぎたところはケアをする必要があります。
その反対に病院に入院してしばらく歩かないでいると足腰の筋力が衰えて動かしづらくなります。使い過ぎているところもあれば、反対に体のなかで使っていないところもあります。そこを見極めて、施術するポイントを絞り込んで行きます。

腰痛のお客さんに行う医療面接

腰が痛い患者さんを目の前にしていきなり施術を始めるのではなく、まずはいまの様子の聴き取りから始めます。

・痛む場所はどこか
・腰の痛みはいつからか
・痛みは当初から楽になっているのか、酷くなっているのか
・どんなふうにすると痛みが楽になるか
・腰の痛みのためにできないことは何か

https://amzn.to/47NCzBH

このようなことを順に質問していきます。

痛む場所はどこか?

ひと口に腰が痛い…と言っても、その場所はさまざまです。
左右どちらかなのか、全体的に痛むのか。腰椎のあたりなのか、または骨盤なのか。
言葉で言いづらいようであれば、「痛む場所を指差してください」と伝えて教えてもらいます。そしてその時、施術者も必ず手で触れて確かめることをします。最初のコミュニケーションはこのようにして始まります。

腰の痛みはいつからか

症状が出てからの期間が長ければ長いほど、治癒していくにも時間を必要とします。反対に急性のものであれば、1回~数回で痛みが消えることもあります。
とにかく早く楽にしてほしい…
これは患者さんに共通する気持ちなので、どれくらいかかるのかを伝える時はていねいに説明したいものです。

痛みは当初から楽になっているのか、酷くなっているのか

訴える症状の経過を尋ねます。
痛みが出てから痛くなったり楽になったりを繰り返すパターン。ずっとおなじ痛みが続いているパターン。痛みが少しずつ楽になってきているパターンなど…患者さんが100人いれば100通りのストーリーがあると考えます。

時間と共に楽になってきていればいいのですが、痛みが増悪している場合はより詳しく確かめる必要があります。

どんなふうにすると痛みが楽になるか

痛みはあるものの、こうすると痛みが楽になることを知っているのは本人にとっても心強いものです。ただどうしても、自分だけではケアできないので他者の手を借りる…これが治癒を促す本質になります。

ヒトの体には24時間365日、自己治癒力が働いています。
それを最大限に働かせるための徒手療法であり、それは西洋医学に限ったものではありません。湿布を貼っても痛みが引かない場合、原因は湿布を貼った部位以外にあると考えるのが自然です。
また、どんなふうにすると痛みが強くなるのかも聞いておくとよいでしょう。

腰の痛みのためにできないことは何か

整形外科で用いられるRDQという指標があります。
24問の質問に対してはい、いいえで回答する評価スケールです。

質問票のなかには、
・腰痛のため、手すりを使って階段を上る
・腰痛のため、服を着るのにいつもより時間がかかる
・腰痛のため、靴下やストッキングをはくとき苦労

https://yamagami-seikei.com/img/youtsu.pdf

…などのように、腰の痛みと日常生活の関連性を聞き取る質問です。

腰の構造を理解する

腰は骨盤と腰椎から構成されます。
しかし図をよく見ると、ほかにも欠かせない箇所があります。

腰椎、骨盤と股関節

それは、股関節。
上半身の体重を脚へ伝える中継地でもあり、地面を支えて立つための土台にもなります。
この点を踏まえて図を眺めると、力のかかる箇所が3つ見つかります。
ひとつは腰椎と仙骨の間(L5-S1)、そして左右の股関節です。この3か所にかかる力が偏りなく、均等になることで腰の痛みは軽減していくものと考えます。

「痛む場所を指差してください」と伝えると、多くの人は腰(腰椎)のあたりを触れますが、始めに見るべきは骨盤とそれにつながる骨、腱や筋肉ということになります。
さて次に、骨盤周囲の筋肉や関節の動きを確かめるための【モノサシ】を紹介します。

歩行分析で観察すること

腰は体の中心、だからこそ全身の部位が直接的にまたは間接的に影響を及ぼしています。
この視点に立って、歩くという動作を観察します。
基本的には平らな場所でまっすぐ歩いてもらいます。そのときの腕の振り方、足の運び方、背中が左右にぶれていないか…などを見ていきます。

授業のなかでモデルになった男性は、歩くときに首を揺らすようにしてバランスを取っていたのが特徴的でした。

立位で行う腰の動作分析

立位の検査では、いくつかの動きをしてもらいます。
ひとつは前屈、後屈。
もうひとつは左右への側屈です。患者さん自身で動いてもらったあと、腰に痛みやツッパリ感があったかどうかを聞き取ります。

自分で動いてもらう場合、本人が自覚できるときもあれば何も変わらないと気付かないこともあるので、写真を撮っておくよいでしょう。

治療院にて撮影

座位で行う腰の動作分析

立つときと座るときで異なるのは、股関節の存在です。
座っているときは座骨という左右の骨で体重を支えるため、基本的に股関節や脚の影響は受けないと考えます。
おもに腰椎と骨盤、そして胸郭の動きを確かめます。

この状態で胸の前で腕を組み、体を左右に捻ってもらいます。
左右差がある場合は、どちらかを振り向く角度が小さくて腰の突っ張りを訴えることがあります。施術前後で比較する場合には、洋服のシワのでき方をみるとわかりやすいでしょう。

治療院にて撮影

次に施術者は相手の骨盤に触れて、骨盤の前傾と後傾を促します。
骨盤が後ろに倒れると背中を丸める姿勢になります。
骨盤を立てるように前方に転がすと背骨が伸びていきます。

このときの骨盤と背骨の動き、力の伝わり方を確かめるようにします。
どこかに詰まるような(人によって表現はさまざまですが)感覚があれば、そのこともメモしておきます。

まとめ

授業で紹介したのは、比較的シンプルですぐにやりやすい動作分析です。
伝える立場として記させていただくと「新しいことを知ったからよかった」で終わらせるのではなく、今日学んだことは繰り返し、いろんな人に試してみてほしいということです。

徒手による姿勢と動きの評価は、施術者の手と目を用います。
慣れてくれば数分でできるものなので、1週間で5人やってみる!と決めていろんなケースを見ていくと、やがてそれらは自分自身の財産となります。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。