#2 玉蜀黍
夏の太陽の強烈なパワーを溜め込んだ黄色い粒の規則的な列に齧り付く。
薄皮がプチッと弾けると、口の中に夏の間蓄えていた強い甘みとほんのりとした塩気が広がり、思わず笑みが溢れる。
母は玉蜀黍を茹でる時にはたっぷりの塩を入れた。甘みが引き立つように。色が鮮やかになるように。
古い台所の磨りガラスから射し込む陽の光が、湯気の粒一つ一つを映し出す。遠くで風鈴が鳴る。グラグラと煮立つ大鍋に揺れる沢山の黄色が眩しくて、思わず顔を背けた幼い私の頬を母の優しい手が撫でた。
「ただの風邪だから」
そう言った母が再び台所に立つことは無かった。
母の葬式の後、八百屋で玉蜀黍を買った。喪服には似合わない程の突き抜けた黄色を抱えて歩く。
家につくとその足で台所へ向かい、しばらく仕舞いこまれていた大鍋にお湯を沸かす。調味棚から塩を取り出す。母がそうしたように、玉蜀黍を茹でる時にはたっぷりの塩を入れる。
甘みが引き立つように。
色が鮮やかになるように。
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