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中村屋酒店の兄弟

本日紹介したい映画は白磯大知監督の映画である『中村屋酒店の兄弟』です。


主演はダブル主演で、藤原季節と長尾卓磨の二人です。

簡単にストーリーを説明すると

とあるところに男の兄弟がいます。兄(ヒロフミ)は実家の酒屋を継ぎ、認知症の母の介護をしながら店を守っています。弟(カズマ)は東京に上京しています。ある日弟のカズマが帰ってきます。その後、カズマは母が認知症ゆえに兄のヒロフミを自分の息子であることを忘れ他人だと思っていること、店の経営が芳しくないことを知ります。兄は弟が東京で強盗をし指名手配犯であることを知ります。数週間弟は実家の酒屋の手伝いをしますが、母が病気で亡くなった後、東京に帰ることを決意し兄弟はまた離れます。

40分足らずの短編映画ですが、テーマが一貫していて非常に面白い作品です。

この映画を一言で言うならば、「超日本的」と言えるでしょう。
それは大きく3つの点から言えます。

まず第一は「言わない」の日本文化の再現にあります。

日本語は基本的に主語がなく、日本人は全てを言葉細かく説明しようとする英語圏とはその言葉の使い方が大きく異なります。
英語のように「私はこう思う(I think)→なぜなら(because)」などの話し方は一切出てきません。
故にこの映画の中の役者の台詞ではほとんどが含意そのものになります。いわゆる“含み”と言うやつです。簡単な言葉を言い、本心は全てその言葉に含ませます。それを表すかのようにカズマからもヒロフミからも「ありがとう」というセリフが大切なところで出てきますが、何に対しての「ありがとう」かが言葉では語られません。この含意をどう読み解くかで観客は試されます。ほぼ全てが含意で阿吽呼吸で言葉にしないことで兄弟の関係性を強く印象付けます。しかも大切な会話になればなるほど言葉がシンプルになり、含みが大きくなります。最後カズマが東京に帰るとヒロフミに告げる時も、カズマは理由を言わず、ヒロフミも理由を聞きません、察するのです。まさに日本人独特の言語感覚を表現しています。

第二としては、そのような含意、語らない精神が脚本の構成にも現れているところです。

この映画の大切なポイント、例えば、兄が認知症の母を飲酒運転で連れ回すシーン、どうして弟が悪さをしたのか、ラスト弟が東京に帰るシーンにも理由が描かれません。故に見る側が、その裏のストーリーを兄弟のやりとりの中から汲んでやるしかありません。最後カズマが東京へ向かう表情をよりで追いかけますが、彼が何を考えているのかも分かりやすい手がかりは一切ありません。これは説明がないのではなく、説明しないことで、この映画の一貫したテーマを強調しているのです。
言わぬ、語らぬ、察する、と言う日本的人的な関係性を脚本の構成でも体現しています。

第三は、日本的な規範意識です。

カズマが強盗をして帰ってきている事が分かったとき、兄のヒロフミはそれをかばいます。これは日本人の規範意識の代表的な表れです。
西洋映画では、自分の気持ちより公的な規範(法律)に正義を見出すので、弟のカズマを警察に突き出すのが良い事なので、もしこれが西洋文化の映画ならカズマを警察に突き出すでしょう。西洋人はそれが正義だから良いのです。
しかし、日本の文化は逆で、知っていても言わず、それをかばうことに深い情を感じその人を評価します。故に、警察に突き出さない、しかもそのことをカズマにも言わない、西洋ではそれは不正になりますが、
日本人の規範意識では、カズマはむしろ“深い情のある人”として評価されます。警察に突き出すと薄情者になるわけです。だからこのストーリーはその日本人独特の規範意識のをうまく表現しています。そして弟のカズマも兄が知っているけど言わないことを察して
自ら東京に戻ります。ここでもその理由は言いません。

このような意味でこの映画は日本人的な「言わぬことの美学」をうまく体現しています。
若手の監督ながら、この日本人独特の感性をうまく映画の中に落とし込んだ点はあっぱれと言わざるを得ません。

ただ、批判する点を挙げるとあまりにも、展開が早いと感じます。
せめて小さなレトリックを使ってもっと長く回すところは回すと言ったメリハリを極端につけないと、彼らの中で流れている時間を表現できません。
見る側の時間と、彼らの時間の流れが違うから映画は面白いのであって、こちらの見易さなんてどうでもいいのです。
彼らの中に流れる時間感をもう少し工夫するだけで、彼らの身体性、時間感覚に観客をもっと引き込む事が可能でだったはずです。
言葉と時間は当然関係します。極端に言わざるの彼らの時間感は、今日の忙しい現代社会人の時間感覚と大きく異なるはずです。そのように、言わない事が時間感覚などの他の領域にも影響し合っていることをうまく表現できたならもっと素晴らしい映画になったのではないかと思います。

若き監督のこれからの活躍に期待します。

#映画
#映画批評家

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