いつか 今のあなたを なんで若くちっぽけなことで 悩んでいたのと 笑うようになるまで 生きて
あなたの心が、体が 冷たい海の底に沈む 重たい まっくろな 石みたいになってしまったときは あたたかいおふろにつかって ゆらゆら こころがほどけるのをまとう それからまっしろなせっけんを 手の中で するする 転がして 花びらを洗うみたいなやさしさで 自分を洗おう そうして、あたたかい肌と、せっけんの香り それら全部 ありがたいと 思い出して、陸にあがろう
かたわらに 寝そべる犬の すこやかな 寝息に今日も しあわせがある
ねえ、うさぎ 君は今夜も そこで餅をついているの? 何度も何度も繰り返して 疲れることはないの? うさぎは笑う 「僕がここからいなくなったら あなたは悲しむくせに」 ねえ、うさぎ 生きる意味ってなんだろう? 「月の満ち欠けに 意味や目的がないのと同じさ ただ、生まれて 終わりの日まで 満ちたり欠けたりしながら生きるだけ でも―― 月がこぼす光が 僕らを照らすように あなたも生きているうちに たくさんの言葉や想いなんかをこぼして そのいくつかは知らぬ間に ふっと
一つ夢 醒めれば忘る 手触りは 詩をしたためて 結晶にする
雨に濡れた蝶々は 飛べなくなって 木の枝の先に留まった いつも花の蜜に夢中で 空を見上げたのは初めてだった そこに 虹をみつけた
ツバメはあんなに小さい体で 5000kmも飛んで渡る 身軽な方が遠くへ行ける
ねむれない夜 魚の群れを 天井に 泳がせる空想をする 誰かの役に立てなくていい 自分のために生きていいよ それはいつか 人のためになる 魚はそう言って 光った
雨降る夜 地面の下の 大都会 幻の街 揺らいで光る
太陽の光で くしゃみがでること 明るい光で 頭が痛くなること プラネタリウムで 懐かしい気持ちになること 毎日青い空や白い雲を 飽きもせず眺め続けること 君がかつて一日中星空が浮かぶ惑星に 暮らしていた名残り
コンタクト 外す 世界の輪郭を ほどく 心が おかえりと言う
私たちは星屑に浮かぶ砂時計 砂と砂に挟まれた ガラスの最も細い部分で 一粒一粒が降る間だけ 色や形や模様や光を 写し取って記憶する
アメジストは山ブドウの朝露のタルト 水晶は氷河の砂糖菓子 ラピスラズリは流星群のチョコレート 藍晶石は青い鳥の羽のキャンデー アイオライトは月夜の羅針盤のゼリー レシピは山猫だけが知っている
あなたの言葉を ポケットに入れて 心がくすんだり 反対に煌めいたりするときに ふと取り出して 頬ずりしたり 転がしてみたり 光に透かしてみたりしている
なんであのときあの道を 選ばなかったのだろうと悔やむ 今のあなたにしか 行けない道を行くための伏線
この世の中の あなたの他は素通りしていくかすかな煌めきを 拾って愛でるあなたが素敵