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【大阪考】#2 大阪基礎考察1/大阪人は全員面白いわけではないので、むやみに無茶ブリしないでください。

僕が東京勤務だった時のこと。
大阪人の同期が出張で、目黒だったか中目黒だったか、
ちょっと気の利いたバルで飲んだ夜のことだ。

カウンターで僕ら二人が談笑していると、
ふと右隣のカップルの彼女のほうと目が合った。
いやむしろ、しばらくこちらを見ているので、その視線に耐えきれず目を合わせた、というのが正しい。
そして目が合うと同時ににっこりと微笑みかけてきたではないか。
なぜか理由は分からないが、こちらもニカッと笑顔を作ってみる。
もちろん、サムアップのポーズも入れて。
するとカラカラと笑いながら彼女が口を開いた。
「お二人、大阪から来られたんですかぁ?大阪人が二人集まると漫才が始まる、っていうけど、ホントなんですねー」
とのたまう。
そこへカウンターの左隣の女性二人組が、
「私たちも気になってたの!横で漫才してるじゃん!って!」

そういう時、僕ら大阪人のリアクションは、というと・・・

僕「あら、気が付きました?いやいや、声がデカくてすんません!せっかくなんで自己紹介させてもらうと、僕が「メリー」、こっちが「ゴーランド」で、『ジェットコースター』っていうコンビでやらせてもらってます」
友「なんでやねん!コンビ名は『メリーゴーランド』やないか。なんで『ジェットコースター』になるねん」
僕「わかり切ったボケやのに、そんな目くじら立てるなや、『ジェット』君」
友「わかってたんか、『コースター』君、て、おい、それこそコンビ名、変わってもてるやないか」
僕「ま、気を取り直して漫才させてもらおか。今日もお客さんたくさん来てくれはって、一番前の列なんか、ほらベッピンさん、そのお隣もべっぴんさん、一つ飛ばして・・・べっぴんさん
友「こら、飛ばすな、飛ばすな。あ、飛ばしてええか・・・」

とさっそく漫才のつかみのセオリーと「型」をやってみる。

なんて、できるわけないやないか

実際、その時の僕らのリアルなリアクションは、
「いや、その・・・、そんな、普通にしゃべってただけなんで・・・」
「いや、うるさかったっすか・・・?スイマセン・・・?声、落とします・・・
なのだ。

なにしろ、「面白い話」をしているわけではない。
むしろ、面白くない話をしていたと思う。
確かに会話の中に「なんでやねん!」「ホンマかいな!?」「知らんけど」は入っていたとは思うけれど。

そしてこんなシチュエーションは我々を地獄の時間へといざなうのだ。

「またー、そんなこと言ってぇ。チョー面白いじゃないですかぁ。ナンデヤネン!ってホントに言うんだぁって」
反対側の女性二人組も、
ホンマカイナー!とかも言ってた言ってた!どっちがボケでどっちがツッコミ?」
勝手にコンビに仕立て上げてくるのだ。

僕らは正直タジタジである。
「なんでやねん」、というのはたぶん普通に会話の中で「なんでそうなるの?」という疑問があったので出ただけだろうし、「ホンマかいな」も、おそらく「そんなことあるの?」という驚きからくる通常の感嘆詞だと思う。
どっちがボケで、どっちがツッコミ、という決まりがあるわけではない。
普通の人が普通にしている会話をしていたまでである。もちろん、ちょっとボケたり、ちょっと話を盛ってみたりはするけれど。
つまり断じて漫才はしていない会話していただけなのだ

女性陣が我々を「チョー面白い」と言うものだから、カップルの彼氏がついに口を開く。
「大阪人てやっぱり面白いよねー、すべらない話、とかすぐできるんでしょ?

ついに来た。。。地獄の一丁目である。なんとなく、地獄の二丁目のバス停もうっすら見えてくる・・・。
どう見てもイケメンではない見知らぬ男二人に彼女も反対側の女性もケラケラ笑い興味津々だ。
どう見てもオレのほうがイケメンだと思う(実際に我々より数段イケメン)のに、大阪人ってだけで注目浴びやがって、コイツらの鼻を明かしてやる・・・。
笑って柔和に言っているけれど、大阪人をリスペクトしているようなオブラートをかけながらも、そんな軽度の悪意が感じられる実にトゲトゲしい「すべらない話、とかすぐできるんでしょ?」なのだ。

誤解です。誤解。
僕らは漫才をしていたわけではないし、面白い話をしていたわけでもない。
なにしろ、シロートである。
なのに、「ナンデヤネン」「ホンマカイナ」が聞こえただけで、「すべらない話ができる」という飛躍はやめてくれい・・・。

我々は芸人ではないので芸などない。話芸なんかめちゃくちゃ難しいと知っているのに、なんてことを言うのだ。
こうして「いやぁ・・・、まぁ・・・」ともじもじしていると、
ついに雷のごとき鉄槌のような、我々にはタブーとされるあの『ひとこと』が発せられる。
『なんか』おもしろい話、してよー!」

ああ、まさに、地獄が始まる・・・。

      ーーー*ーーー

これに似たようなことを多くの大阪人が経験していると思う。
おそらく、こういうときに胸を張って、ひとくさりトークをぶちかまして、イケメン彼氏を返り討ちにできる人もいることはいるだろう。
でも、そんな「技術と強心臓」を両方とも備える人はそれほど多くはないのが実情である。

ここで重要なのは「大阪人じゃない人=大阪以外人」の
「大阪人への誤解」
「大阪ことばへの誤解」
「『面白い話』に対する認識の違い」である。
一つ一つ考察していこう。

まず、「大阪人への誤解」について。
まず、誰が言ったか「大阪人が二人になれば漫才が始まる」と。
それは絶対ではない。
これは大阪人と大阪人以外の人との「漫才」というものの認識の違いからくるものだ。

大阪人は「漫才」は練りに練られた「ネタ」であり、アイデアと技術の粋であると思っている。
つまり、我々大阪人が日常に交わす会話とは全く異質なものである。
大阪人以外の多くの人は「漫才」を「面白い人が二人で人前で面白いことをしゃべること」という認識が強い傾向にある。
つまり、「漫才」は会話の延長線上にあるイメージなのだ。
なにしろ、テレビに出ているウマい漫才師は会話の延長かのようにネタをかけるのだから、そう思うのも無理はない。
もっと言えば、大阪人の中にも「漫才は会話の延長線上」と思っている人が実際多くいるのだから当然のことであるので、「大阪人以外は分かってない!」と見下しているのではなく、当然そうなる、と思っている。

つまり、大阪人の会話はテレビのお笑い芸人の「しゃべり」のようであり、そんな会話を日常にしているからこそ、面白い話をしている、面白い話ができる、と誤解されてしまうのである。
もちろん、幼少期からいわゆる「お笑い」に接する時間や密度は大阪以外の人よりは長時間だし高密度だとは思う。かといって、歌舞伎のように世襲でもない限り、どれだけ長時間・高密度であっても、本人が興味を示さなければ「笑い」も体得できるものではないのだ。なにより、とびぬけた才能が無いと「笑い」は作ることはできないのだ。
そう、「大阪人だから面白いはず」というのは誤解なのだ。
これは「アメリカ人だから、アメリカンジョークばかり言う」というのが絶対でないのと同じことなのだ。

なので、大阪人もフツーな人がほとんどなのだ。

そして、「大阪ことばへの誤解」である。
なんでやねん」「ホンマかいな」は漫才でツッコミとして発せられたり、お笑い芸人がテレビで使うことによって、日常会話で使われることがあまりない言葉、と認識している大阪以外人が意外と多いのである。
~でんがな」「~まんがな」なんて実際に全然使いまへんがな。とか言いながら、実際にでんがな・まんがなは使われることは少なくなっているわけだが、
「なんでやねん」「ホンマかいな」は日常生活で普通に使っている言葉である。
大阪以外人同士の会話では発せられることのない言葉なので、特殊な言葉に聞こえているのではないだろうか。
なので、普通の会話で「なんでやねん」「ホンマかいな」が出てくるとは思っていないからこそ、僕ら二人の会話が「漫才の部品」を扱っているせいで「漫才に聞こえて」しまうのではなかろうか。
たしかに大阪人はどこへ行っても大阪弁のまま会話をする人が多いのは間違いない。東京では日本のあらゆる地方から人が集まっているのに、言葉は「関西弁以外の言葉」と「関西弁」である。
そのため、異質な言葉でありながら、ある程度市民権を得ている(いや、むしろ無理やり聞かされているのかも・・・)からこそ、その分誤解が発生しやすいのではないだろうか。

「大阪ことば」は面白い話の一つの要素として使われる。そのため、普通の会話で使ったとしても、面白い話をしているように聞こえてしまうのかもしれない。
ちなみに、右隣の彼女も、左隣の女性二人組も、「言葉」に反応していたが、「話」に反応しているわけではない
使っている言葉がオモシロイのできっと面白い話をしているのだろうと思ったようだが、実際に僕らの会話はどう考えても面白いものではなかったはずなので、「面白い」をとらえる場所が違う、ということなのだ。
僕も東京時代にこれに気が付いていれば、もっと東京の人を楽しませることができただろうに、と思ったりする。
勝手に「大阪人の面白い」を要求されたと思っていたが、そうではなく「万人にとっての面白さ」を求められていたのだし、もっと言えば、「大阪以外人から見た大阪人」として期待に沿うようにふるまえばよかったのだ、と気が付いたりするのだ。

よく誤解されるが僕もふくめて多くの大阪人は、「大阪の笑いは東京の笑いより『上』」とはこれっぽっちも思っていない
大阪人の笑いと、大阪以外人の笑いは『別物』である。ゆえに、両方、難しいのだ。
このことは「大阪のお好み焼き」と「広島のお好み焼き」に対する大阪人の認識にも似ているが、これはまた別の稿で

そして最後に「『面白い話』に対する認識の違い」、これがなかなかに難しい。
落語を思い起こしてほしい。いきなり、面白い話が始まるわけではない。まくら、といわれる導入があり、その導入からスムーズにネタに入っていく。
つまり、「面白い話」には導入や前提が必要なのだ。
簡単に言えば「お題」である。
お題を頂ければ、なんとかおもしろエピソードはひねり出せるかもしれない。これは、大阪人でなくても、できる人はできる。
落語は全国共通の話芸なのだから。
ただ、おそろしいことに、「『なんか』面白い話」というフリが飛んでくる。これこそが地獄なのである。
導入なし、前提なし、お題もない。これでどうやって面白い話をひねり出せ、と言うのだ!

大昔、「よしもとギャグ100連発」というビデオ(実際にVHS時代である)が出たときに、
ギャグを羅列してどこがオモロイねん。前後の話があって、『このギャグくるでぇー』と思いながら見るのが吉本新喜劇やないか」と吉本のエライさんが言っていたが、いざ発売してみるとバカ売れしたという話がある(実話かどうかは知らんけど)が、
つまり、大阪以外人は導入なし・前提なしの笑いも受け入れることができるのである。
ということは、この『なんか』という地獄のトビラを開く呪文は当たり前の話なのである。

大阪人は笑いに前提や導入を必要とする。いったん共有の話題で認識を前提の上に乗せておき、笑いに持っていく。これに慣れて、というかこうして笑いを構築していたものだから、急に面白い話はできないのである。
そして、「面白い話」である以上、笑いを必要とする。どこにフリ(伏線)を置いて、どこでオチを付けて、どこで笑いを起こさせるか・・・、と計算しないといけないのだ。
つまり、大阪人は「メンドクサイ人種」なのである。
『なんか』面白い話してよ、と言われて、前提なしに「コマネチ!」なんてことをする勇気はないのだ。
もし、『なんか』を振られて、見事に切り返せるのなら、それはかなりな特殊能力である。

3つの誤解・認識から考察してみたが、
大阪人もほとんどが普通の人である。普通の人だからこそ、「『なんか』面白い話してよ」という無茶ブリはしないであげていただきたい

      ーーー*ーーー
『なんか』おもしろい話、してよー!

そういわれても、こう答えるしかない。
「いや、僕ら、シロートなんでそんな面白い話とかできないっす。大阪人なんですが、そんなに面白いほうでもないんで、ごめんなさい!」
素直に謝るしかない

でも、やっぱり大阪人の悲しいサガではあるが、培われたサービス精神を発揮してみたい、とも思う。
「『なんか』面白い話、って、お題ないんかーい!お題ちょうだい、お題!といっても急には出てこないよね。なので、こういう時は「オールジャンル」ということで、なんでも話するでぇ。そやねぇ、面白い話と言えば、「たこ焼きの話」と「たこ焼きの話」と「たこ焼きの話」があるんやけど、どれにする?」
とお題をもらいたい旨をさりげなく盛り込む。

ピンとくるタイプの相手なら、
「全部同じたこ焼きじゃん!ナイスボケー!」となり、
ひと笑い取ったことになり、『なんか』面白い話はミッション完了

しかし、
このボケがボケと認識できないタイプが多くいる、というのが現実
たこ焼きの話が3種類ある、とマジメにとらえてしまい、
「えー、どのたこ焼きの話がいいんだろ?」と返されることになるのだが、その時は
「いやいや、ここは「全部同じ話やないかーい」ってツッコミやないかーい!ってついツッコんでしもたわー」とつっこんであげると、周りがウケるし、相手もツッコミをしてもらったかたちになり、いいボケをしたような錯覚を得させることができるので、ミッション完了。

もし可能なら、勇気を振り絞って、
「すべらない話できるんでしょ」とトゲのある発言をしてくれた彼をその場で立たせ、隣に立って彼を自分の相方に仕立てて、
「いやー、僕らもコンビ組んで長いんやけどね、キミはほんま、ええ相方やわ。僕のネタをいっつもオモロイ!って言ってくれて、漫才の時でも隣でニコニコしながら、ツッコミもやってるんかやってないかわからんくらいソフトでね。おかげで僕も好きにしゃべれるわ。って、漫談ちゃうねんから君もちゃんとしゃべらなあかんやん。そやな、今日は君もしゃべる練習してみよか。今日はお客さんも良く笑ってくれていいお客さんばっかりやから、君のしゃべりの練習も気長に付き合うてくれるはずやで。まずは自己紹介やな。僕が「メリー」で、君が「ゴーランド」やから我々のコンビ名は「ジェットコースター」!って君、コンビ名間違えてどないすんねん、僕らのコンビ名は「メリーゴーランド」やないか。僕のボケも拾ってもらわんと困るで、「ジェット」君。てことは僕も「コースター」ってことで、コンビ名は「プーさんのハニーハント」!ってぜんぜんちゃうがな。って、君、結局全然しゃべらへんやないか。練習やねんから遠慮してたらあかんて。え、なんて、ハチミツないと声が出ないって?そらあかん!すぐに浦安行きの馬車を探そ!ってメリーゴーランドは回るばかりで進まへんな。話も進まへんからこのへんでやめさせてもらうわ!」
とまくし立てて、「ツッコミが大人しいタイプの漫才コンビ」でひとネタ打って、大阪人の面目を躍如してほしい。
でも、あんまりやりすぎると、やっぱり無茶ブリされてしまう普通の大阪人が増えるのでほどほどに・・・

こうして今夜もどこかで地獄のトビラが開かれているのかも、しれない。知らんけど。

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