街金融の錆びついたトタン広告に思う。
台風が連続して来る時期ではあるが、地上ではまだ青々とした草むらの中に潜む「小さな演奏家」達が、得も言われぬ「妙音」を奏でている。
そのまろやかで心地よい響きを耳👂にしながら、本日の早朝も、自分は自転車を漕いで、駅へと向かう。そう…これから現場に向かうのだ。
自転車を駐輪場に置いて、鍵をかけ、地下鉄o駅に向かう。
o駅には遅くとも5時23分にホームに行かないと、現場に間に合わなくなる危険性がある。ので、半ば急ぎ足で向かう。
地下鉄n線に乗り、最初の乗換駅で、h線に乗り換える。そこから渋谷へ向かい、2番めの乗換駅で地上鉄道の t 線に乗り換えてからあとはまっすぐに目的地へ向かえばいい。
目的地の駅で降りると今度は、目黒通り沿いの、ゆるい勾配の歩道を真っすぐ歩いて現地につく。そこで2時間ほど仕事をしてから、今度はトンボ返りで、文京区は本郷の現場へと向かうのだ。
前置きが長くなってしまったが、現在、メンテナンス会社に籍を置いている私は、週に3回、目黒と本郷の現場で仕事🧹をしている。毎度ながら、ヒジョーに疲れる😣。
まぁもっとも、これは一年くらい前から続いているので、慣れてはいるのだが…。
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駅前で、人がティッシュを配る光景を、ときおり見かける事があるだろう。今から20年くらい前までは、お決まりのようにスーツを着た、身なりの良い人物が、毎日のようにティッシュ配りをしていたのだ。
いつしか、そんな光景は過去のものとなり、今では「塾関係」や「住宅関係」といった人たちが時々やる程度になっている。
20年ほど前、毎日のように駅前に立ってティッシュ配りをしていたのは、ひところ隆盛を極めていた「街金融」もしくは「サラ金」と呼ばれる「消費者金融」の社員たちだったのだ。
私はその頃、新橋の現場で今とだいたい同じ仕事をしていたのだが、その新橋駅前にもそのサラ金の社員がティッシュを配っていたものだった。
彼らがそこで配るティッシュにはきまって「武富士」のロゴや広告が入っていたものだった。
武富士といえば思い出されるのは
「SYNCHRONIZED LOVE」なる楽曲に合わせてレオタード姿の男女が踊る、いわゆる「武富士ダンス」のCM。
今もYouTubeに映像がアップされているのを見たり出来るが、自分のような’80年代が青春ど真ん中だった者にとっては、脳裏にしっかり焼き付いて離れないCMだ(東京では、どのTV局のチャンネルをつけても必ずと言っていいほどこのCMは流れていたと思う)。
この武富士は1966年の創業と聞く。’70年代から急激に成長を遂げ、’80年代から21世紀初頭までのおよそ30年間、街金融業界トップに君臨していた当時の最大手。
上述の派手で印象的なダンスCMと相まって、社員が駅前で頭を深々と下げ「いってらっしゃいませ!」と声を張り上げていた。
それが一時期、ある意味「風物詩」みたいになっていた時代が続いていた。(よそのサラ金「アイフル」とか「プロミス」なんかの社員も、駅前ティッシュ配りをやっていたような気がするが…🙄)。
ティッシュ配りとともに、街金融の代名詞みたいになっているのが、ホーロー看板というかトタンの看板。中でも「マルフク」という電話関連のローン会社の看板は、ひところは街と言わず、田舎と言わず、あちこちで見かけたものだった。
「マルフク」の他にも「カードでお金」「車ローン」などの類いもあったようである。
そんなローン会社の看板も何時しか、そのほとんどが姿を消し、辛うじて残っているのは、社名も読みづらいほどに薄れて劣化したプラスチックの看板とか、あと真っ赤に錆びついたトタン看板…だったりする。
本稿のタイトル写真は、そんなボロボロに錆びたローン会社の看板を撮影したもの。家の近所に貼ってあったものだ。流石に社名は殆|《ほとん》ど消えてしまっているが、「即・現金化」の文字は今もハッキリと残っている。
2006年12月に制定され、2010年6月から完全施行された「改正貸金業法」。それは「利息制限法」と「出資法」とのあいだにあった「グレーゾーン金利」(法定上限金利の差)を明確に否定し、金利を最高でも年20%に引き下げた法律である。
この「改正貸金業法」により、武富士、アイフル、プロミス等大手サラ金やマルフクなどの中小の街金融の経営が軒並み悪化し、創業者と暴力団との繋がりが世間に知れ、業績も評判も悪化した武富士はその後、紆余曲折を経て2017年に会社更生法の手続きを終えて倒産した。それ以外の各社はアイフルを除いて軒並み大手銀行の傘下に入り、生き残りを図っている。
その頃には既に、街金融の社員によるティッシュ配りの光景は姿を消し、また、街のあちこちに貼られていた電話ローンやカードローン、車のローンなどの看板も殆ど見かけなくなっていた。
今はタイトル画像のような錆びついたトタン看板が、往時の街金融繁栄を忍ばせている。
それらを見るたびに「街金融の世話にだけはなりたくないな」と倩ら思う私なのである。
《参考文献》中公新書「サラ金の歴史ー消費者金融と日本社会」小島庸平著(中央公論新社刊・2021)
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