しかと
文様は「鹿の子(kanoko)」で、鹿の背中に現れる柄を模しています。色は「深支子(kokikuchinashi)」で、クチナシの実の色を模しています。
「しかと」という言葉は、花札の10月の絵柄に描かれている鹿がそっぽを向いていることに由来しています。
また、「クチナシ」という植物の名前は、クチナシの実は熟しても口が開かないことに由来しているという説があります。和歌でも、掛詞に使われています。
秋っぽい柄と色の組み合わせに、ちょっと無理やり名前を付けてみました。笑
文様:鹿の子(kanoko)
正円と組み合わせた四角を規則正しく配置した文様。
鹿の夏毛の柄を模しています。
(出所:一般財団法人奈良の鹿愛護会ブログ)
ご参考)
鹿に「鹿の子」文様が現れるのは春~夏だけ。
秋になると毛が抜け変わり、模様は消えてしまう。
「鹿の子」文様と呼ばれはするものの、子どもに限らず全ての鹿にこの文様が現れる。
模様は各個体に固有で、模様は一生変わらないそう。
神聖で繁殖力の高い鹿をモチーフとした「鹿の子」文様は、縁起が良い柄、子孫繁栄を象徴する柄とされてきました。
ご参考)
縁起が良いとされてきたのは、鹿が古くから神聖な動物と考えられてきたからです。
牡鹿の角は春に生え始め、秋に立派に成長し、ポロリと落ちてまた春に生え始めます。
そのサイクルが稲作によく似ていたため、「土地の精霊」に見立てられていたようで、弥生時代に制作された銅鐸にも鹿が描かれています。
また鹿は、繁殖力が非常に高い動物です。
1年で生体になるのは犬など他の動物と同様ですが、
妊娠率が70%以上と非常に高いことと、10才を越えても妊娠率が低下しないことが大きな要因です。
今年生まれた小鹿が1年後には子供を生み、翌年には親も子供も子供を生み…と、どんどん個体数が増えていきます。
鹿の子柄の布地は、「鹿の子絞り」という技法で染められます。
奈良時代にはその技法の原型があったようですが、鹿の子絞りの着物が本格的に普及し始めたのは江戸時代だそうです。
布を細かく糸で絞って染めることによって染まらない部分を作りながら染めるため、非常に手がかかる技法です。
そのため江戸時代には、鹿の子絞りを全面に施した「総鹿の子」の着物は贅沢品として規制されました。
また、京都で生産される、絹の布に鹿の子絞りを施した「京鹿の子絞」は、伝統工芸品として国から指定されています。
(詳しくは、https://colocal.jp/topics/art-design-architecture/artscrafts/20150615_49760.html)
今の日本では「鹿の子編み」が有名ですね。よくポロシャツに使われる生地です。
表面に凹凸ができるため、肌に触れる布の面積が小さく、通気性が良いのが特徴です。
(出所:Hashiba Grand, Inc.ウェブサイト)
塗り:深支子(kokikuchinashi/#EFBB2C)
深い支子(クチナシ)と書いて、コキクチナシと読みます。クチナシは白い花を咲かせ、深い橙色の実をつけます。そのクチナシの実の色を表現した色です。
クチナシの花
クチナシの実
クチナシの実は古くから天然色素として使われ、処理の方法によっては、黄色だけでなく青や赤の色素を抽出することができます。
栗きんとんや栗の甘露煮の「黄色」は、栗とクチナシの実を一緒にゆでることで出る色なんです。
考えてみると、栗だけではあんなに黄色くはならないですね。
ただ、注意が必要なのは、クチナシの実から抽出した色自体は、「支子(クチナシ)色」です。
これに赤い染料を加えることで、深支子(コキクチナシ)の色、つまりクチナシの実の色にしています。