「誰のどんな課題に何を訴求するか?」提供価値を定めるフレームワークの紹介
はじめに
こんにちは。木村隆志と申します。とある人材系大手企業内スタートアップで新規事業を横断的に支援するマーケティング部門の責任者をしています。最初に、過去記事の「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」からお読みいただけると全体感が掴めるかと思います。
この記事の想定読者
この記事は、主に以下の方を想定しています。
B2Bで新規事業をこれから立ち上げようとされている方
新規事業をローンチしたばかりの方(0→1フェイズ)
事業開始から数年経つがまだPMF(プロダクトマーケットフィット)している実感がない方
※2桁億・3桁億の売り上げを出している事業は対象外ですのでご了承ください。
過去記事「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」にて、「0→1フェイズのマーケティングは「誰のどんな課題にどんな訴求」が起点」であると書きました。今記事では、その「提供価値」を定めるためのフレームワークについてご紹介します。
前提知識
まず、提供価値ということを考えるにあたり、いくつかの既存のフレームワークを紹介した後に提供価値のまとめ方について記述します。それぞれの見出しを見て、既知の方は読み飛ばしてもらって構いません。
前提知識①「プロダクトコーン」
まずはシストラットコーポレーション社が提唱する「プロダクトコーン」です。商品・サービスの価値は「規格(スペック)」「ベネフィット」「エッセンス」の3層構造になっているという考え方です。
ビオレ社の「毛穴すっきりパック」を例にとると、以下の構造になっています。
生活者は、規格(商品の機能、スペック)から得られるベネフィット(得するコト、モノ)と、さらにそこから生まれるエッセンスに期待して購入するという考え方です。シンプルでわかりやすいですね。
前提知識②「スペック・メリット・ベネフィット」
次に、「スペック・メリット・ベネフィット」というフレームワークを紹介します。個人的にファインドスターグループのFiNEコラムがわかりやすかったため、引用させていただきます。
紹介されている事例はB2BではなくB2Cの化粧品ですが、わかりやすく整理されています。
前提知識③「FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidence」
次は、「FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidence」です。(からの引用です。以下の要素に分けて考えられています。
B2Bの営業を例に出されているので、B2B新規事業の提供価値定義の考え方の参考になります。前出の「プロダクトコーン」や「スペック・メリット・ベネフィット」と異なるのは「Evidence(証拠)」があるところですが、論理的に意思決定がなされるB2Bにおいて重要と言えるでしょう。
前提知識④イノベーター理論
ちなみにここで「イノベーター理論」との関係性について触れておきます(イノベーター理論とは何かについてはここでは割愛します)。先ほどのプロダクトコーンはイノベーター理論と結びつけ考えることができます。
イノベーター理論図
プロダクトコーン × イノベーター理論
イノベーター理論の図に、プロダクトコーンの図を重ねてみます。イノベーターはいわば有識者で判断基準を持っているため、商品サービスのスペックを言うだけで価値を想像できますが、一般的にはそうではなく、多くの人はその商品がどんな便益をもたらすかまで言わないと購買に動きません。さらに後期採用者向けには「みんなが言っている(やっている・知っている)」という情報が必要でしょう。B2Bでは、意思決定が論理的に行われるため、イノベーターやアーリーアダプターに対してもEvidence(証拠)情報は必須です。
ここまでのまとめ
「プロダクトコーン」・「スペック・メリット・ベネフィット」・「FABE」は、大まかには似たようなことを言っていると思います。イノベーター理論との関係で説明した通り、ターゲットの知識や導入フェイズに応じて、ボトム寄りかトップ寄りかが変わることに留意します。
提供価値のフレームワークとその要素
提供価値を整理する際に、私が使用しているフォーマットをご紹介します。
以下の要素があります。
いくつかの変遷を経て現在はこれに落ち着いています。「価値」をベネフィット」にしてもいいでしょうし、「RTB」を「メリット」や「スペック」としてもいいと思います。
「課題」
一つひとつの要素について解説します。まず「課題」についてです。「~がない」「~できない」で表現される顧客のペインポイントです。特にB2Bでは「Burning Needs」と呼ばれる喫緊の課題を挙げるのが良いです。
※「課題」と「問題」は本来区別すべき単語ですが、ここでは便宜上同義としており、顧客の「ペイン」を表すと考えてください。
フォーマットには課題の欄を3つ設けています。必ずしも3つじゃないといけないことはありませんが、後述するRTBとの座りがいいので3つにすることが多いです。
課題とRTB(Reason To Believe)は対応
Burningな課題を3つ挙げたら、それに呼応する形で解決策あるいは特徴をRTBの柱に掲げましょう。
「So What?」と「Why?」の繰り返し
価値とRTBはピラミッドストラクチャーになっています(ピラミッドストラクチャーについての説明はここでは割愛します)。価値の言葉は「〇〇で~~できます」という構文で考えますが、RTBはその〇〇に当てはまる特長を説明したものという構造になっています。価値の言葉から見るとRTBは「Why?(なぜ?)」に答える形になっており(「Reason」ですから)、RTBから見ると価値の言葉は「So What?(つまり?)に答える形になっています。
実際の例
ここから、実際に当社の事業での実例を紹介していきます。紹介するのは、当社のコミック(マンガ)用いた研修プロダクト、提供価値をブラッシュアップするワークを行ったときのものです。
顧客の課題の3層構造仮説
この研修プロダクトはコンプライアンス違反防止・ハラスメント防止や、管理職のコミュニケーション力向上など、企業の中の様々な題材を扱います。お客様の課題は大きくは3種類に分けられるのではないかという仮説が挙げられています。
ベネフィットの3層構造仮説
さきほど、課題とRTBは対応すると述べました。今仮説では、顧客の3つの課題に対して、当社の研修事業のベネフィットも3レイヤー対応させられるのではないかと考えました。
ワークセッション資料
議論を通じて、「会社が変わる」というベネフィットは大きすぎ、コミック研修プロダクトという商材特性からは若干距離が遠いためチューニングをすることにしました。
埋めた提供価値シート
議論と顧客への調査を経て(調査のプロセスは割愛します)、提供価値シートをまとめました。顧客の課題と、それを解決するためのプロダクト・サービスの価値の言葉をまとめ、それを支える理由(RTB)とファクトなどを一枚に整理したものです。なお、これはキャッチコピーとしてそのまま使えるものというより全体の設計図です。webサイト、web広告、展示会のタペストリー、テレマーケティング等々、メディア/チャネルに応じてクリエイティブ/トークは最適化する前提です。
課題とRTBの対応関係
課題とRTBが対応していることと、価値とRTB、RTBの見出しと本文それぞれがピラミッドストラクチャーになっていることを下図でご確認ください。
価値とRTB、RTBの見出しと本文のピラミッド構造
後続の作業
前述の通り、この提供価値シートはキャッチコピーとしてそのまま使えるものというより全体の設計図です。webサイト、web広告、展示会のタペストリー、テレマーケティング等々、メディア/チャネルに応じてクリエイティブ/トークは最適化していきます。この企画のこのクリエイティブでは課題①にフォーカスする、別のクリエイティブでは課題②にフォーカスする、といった具合です。
実際のクリエイティブ例
提供価値シートを基本の設計図としてクリエイティブを制作したものを紹介します。下記は展示会で使用する垂れ幕です。
左が課題①に、右が課題②に対応したクリエイティブです。展示会の垂れ幕という性質上、ブースに足を止めるためにAttentionを重視し文字を極力少なくしています(顧客の反応を見てクリエイティブはブラッシュアップさせる前提です)。
まとめ
いかがでしたか。B2B新規事業の提供価値=「誰のどんな課題に何を訴求するか」を定めるためのフレームワークと具体例をご紹介しました。新規事業をローンチしたばかりの方、グロース手前の事業をご担当されている方のお役に立てれば幸いです。また、同じようにB2B新規事業で奮闘されている同士の方、いらっしゃったらぜひコメントをいただけますと幸いです。
※この記事で紹介した内容は、私個人の経験に基づいています。これは当社の公式な手法を代表するものではなく、結果に関して保証するものでもありません。実践に際しては、自己責任でご判断ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?