未解決の問題、あるいは、りんごの匂い
もし、
りんごなんてないどこかの、
りんごなんてないいつかの、
りんごなんて知らない誰か、
人間でさえない知能ある誰かに、
りんごの匂いを伝えたくなったら、
どうやって伝えよう。
化学者なら、
揮発成分の分析結果を
化学構造式と
構成比で
伝えるだろうか。
でも、
それだと、
りんごの匂いを嗅いだとき、
どんな気持ちがするのか、
そこまではわからない。
心理学者なら、
おおぜいのさまざまな人たちへの
アンケートの結果をまとめて、
グラフや
図式で
伝えるだろうか。
でも、
それだと、
りんごの匂いを嗅いだ私たちが、
どんな顔をするか、
そこまではわからない。
気持ちが軽くなるような、
ふわっとした甘さと、
笑いながら走りたくなるような、
むずがゆい酸っぱさと、
胸が騒ぐような、
鼻に抜けるような青さの混じった
りんごの匂いは、
きっと、
それでは伝わらない。
慌ただしい食卓の賑わい。
もの憂い病床の退屈。
まぶしい果樹園の日差しの中。
そんなところで、
いっしょに食べてみないことには、
嗅いでみないことには、
伝わらないだろうか。
それが
かなわない相手だとしても。
あなたなら、どうしますか。
スキひとつじゃ足りないっていう気持ちになることがもしあったら、考えてみていただけると、とてもわかりやすくてうれしいです。