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エアポート成田の行方

12月初頭に台湾旅行をした。リウマチを患った年の10月のプラハ、12月のアフリカ、ルワンダ行きが最後だったから海外に出るのは11年ぶりということになる。その間の私には2年間の激痛の日々に続いて5年間の車椅子暮らし、そして新型コロナ感染症期間があった。

久しぶりだし、旅元年ということにしようかしら。養う子もない境遇なので、時間をとって若い頃みたいな手作りの旅行をしようと思い立った。体力的に、貧乏旅行はできないまでも急がない旅がしたい。

湘南から成田空港へは成田エクスプレスが本数もあって便利だ。けれど、ちょうどいい時間帯のものがなかったので、かつて深夜便でパリに行ったとき使っていた「エアポート成田」と言う便を使いたかった。これは横須賀線から総武線経由、成田空港に直通するもの。各駅なので時間はかかるが、急がない旅にはぴったりで当然特急券も不要。

ところが、調べてみるとこれが出てこない。いつも使っているYahoo! の乗り換え案内でも他のアプリでも出てこない。やっと探し当てた!と思うと成田空港第二ビルが到着地で、成田空港まで徒歩12分がセットで付いてくる。真下に到着するやつじゃなくなったの?と心配になった。

しかし、成田エクスプレスも同じように徒歩10分が案内に付いてくるので、きっと大丈夫だろう。乗り換え案内では出てこないが、時刻表で調べると毎時必ず一本ある。それが私にはちょうどいい時間だった。到着が早すぎて成田のベンチで待ちくたびれるのも、ギリギリすぎるのも避けたい。

グリーン車のチケットを購入すればゆっくりお昼のおにぎりくらい食べられるし、特急券よりも少し安上がりだし。しかし、乗り換え案内系のサイトでは、なぜこんなに出てこないんだろうな?と思って、エアポート成田について調べてみたら詳しいブログがあった。2018年に廃止になっているのだった。従って「エアポート成田」という名称で検索しても引っかからないわけだ。

線自体は運行休止したわけでない。JR横須賀線、横浜東京方面の路線図で「空」という小さな漢字を頼りに辿ると最終到着地が成田空港駅。赤い文字の「空」は成田エクスプレスで大船から成田空港までを1時間50分で結び、各駅の方は2時間24分かかる。

ざっと30分遅くて2190円安い。乗車券と近い金額だから半額近い。グリーン車を使うと平日なので51km以上で1000円。それでも車中でランチならゆっくり食べられるし、お弁当代が出る。実際グリーン車は呆気に取られるほど空いていた。

しかし、エアポート成田という名称を廃止して成田エクスプレスを推したせいだろうか、かつてはガラガラだった成田エクスプレスが現在は結構埋まっている。平日の昼のこの路線には、少しでも安く空港に行こうとする大きなリュックを座席前に置いたグランボヤージャー(長期旅行者)がいたものだけど、すっかり見なくなったなぁ。

それにしても、名前を失うことについて考えざるを得ない。かつての列車はそのまま存在して、名前のみを失った。名前を失ったことで、乗り換え案内などの表舞台からは遠ざかり、旅人は「成田エクスプレス」にどっと(そうでもないかも知れないが)移行したのだ。そしてかの列車はひっそりと横須賀方面から横浜を経て東京駅経由、千葉駅をこえて成田空港まで行くただの列車である。

人は新しい事態に直面すると混乱して苦しむが、ひとたびその現象に名前が付くと自体は解決していなくても安心することがある。病気などもそうだ。病名がつくとちょっと安心したりする。概念的作用というのか。

私はかつて専門職についていた。今は仕事は細々すれども、そのような名称を持ち合わせない。鼻息荒かった頃は範囲を超えた仕事をするたび、職業「自分」でいいや、などと思っていたのだけれど、鼻息も先窄まりとなった今は本当にただの人。うふふ、元エアポート成田くん、意外に悪くないかも知れないよね、その位置。