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【Vol.3】お客様やスタッフと「一緒に」生きていく コロナ禍で見えた、大切なこと
「ジャザサイズスタジオ宇品」がオープンしたのは約6年前。コロナ禍を経験したのは、3年目のことでした。
環境が大きく変わるなか、コロナ禍で多くを失った反面、それ以上に得るものがあったのだそう。
どのような経験をし、なにが見えてきたのでしょうか。オーナーの溝﨑(みぞさき)英子さんにお聞きしました。
──コロナ禍になり、なにか変化はありましたか?
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「やめたい」と思っていました。
それは、経営上のこととか、お客様が減ったとか、そういうことじゃなくて・・・。
ジャザサイズをやっていること自体に、結構批判を受けたんです。
「コロナの感染を広げてる」って。
自分は「人を幸せにしてる」って思っていたのに、今のこのご時世では、この仕事で「人を幸せにはできない」と思うようになりました。
実際に、退会するお客様はたくさんいたし、「やってて大丈夫なの?」と聞かれたこともあります。
そこで、ずっと頑張ってきた何かが「プツッ」と切れて・・・。
──その時に踏みとどまったのは、どうしてですか?
「もう、やめよう」ってずっと思っていたけれども、でも、その時に踏みとどまったのは、ここがみんなの「居場所」になっていると気付いたからなんです。
ここがないと困る人が、たくさんいたんですよね。
「やめないで」「ここがないと困る」って。
それでも最初は、「そうは言っても、やめたらやめたで、またどこかに居場所ができるよ」って思っていました。
ここは「不要不急、(なくても)大丈夫」って。
でも、「お願いね。私が年を取るまでやってね」とか、そういう声がたくさんあったんです。
そこで思いとどまったというか、この人たちを悲しませちゃいけないと思って。
腹をくくって「もう一度頑張ろう」って思ったんです。
──コロナをきっかけに気付いたことも多かったのですね。
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「居場所になってたんだ」っていうことに(あらためて)気付いたんです。
ただ運動するだけだったら、別にここじゃなくていい。
でも、たくさんの人が「ここがいい」と言ってくれたんです。
「ここに居場所がある」って。
「この場所がなくなると、自分の生活の生きる糧(かて)がなくなるから、年をとっても通いたい」って。
コロナ前は、そういうありがたみに、多分、気付けていなかったと思います。
だから、コロナ禍で大切なものにいっぱい気付けて、本当に良かったと思うんです。
──たくさんのお客様の居場所を背負って、精神的につらくはないですか?
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コロナまでは、「すごく肩の荷が重い」と思っていました。
実は、不安も大きかったんですよ。
でも、コロナになってから、ここがみんなの居場所になっていたり、必要とされていたりすることがわかってきて・・・。
今は全然しんどくないんです。背負ってる気もしていないし、(実際に)背負ってないんですよ。
「一緒に」すすんでる感覚なんです。手をつないで。
みんなが支えてくれているから、全然、しんどくない。
いまは、お客様もスタッフも「一緒に」空間をつくってくれていると感じています。
「手をつないで」っていうのは、そういうことかもしれません。
いろんな経験が、成長させてくれたんですよね。
そして、いろんなものがシンプルでクリアになりました。
欲もなくなったし・・・。
本当に、今日ここに来た人がちょっとでも元気になったらそれだけでいいんです。
それだけで幸せ。
厳選されて、すべてがシンプルになったと思います。
すごく凝縮された感じです。
──シンプルになる前(コロナ禍以前)は、ほかにどんなことが頭にあったのですか?
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「お客様を増やしたい」と考えていました。
オーナーになってすぐは、足りないものがいっぱいあったんです。メンタルや経験値、人を雇うことも・・・。
(経営をかえりみずに)備品をたくさん買っていたこともあります。
でも、やっぱり、経験が育ててくれたんですよね。いい経験だけじゃなくて、コロナも含めて、そういった経験がオーナーにしてくれたと感じています。
──オーナーである以上は、お金のことは切っても切り離せないですよね。
でも、お金(経営)のことが頭にあると、シンプルでクリアにはならないかもしれません。
そこは、どうやって割り切ったのでしょうか?
TV番組の「オモウマい店」、あれが好きなんです。
みんなが喜んでくれたら、それだけでいいと思っていました。最初から。本当は、そこは経営者らしくないんですけどね。
だから、トートバッグを大量にプレゼントしたりとか、大盤振る舞いしたりして、自分でも馬鹿だと思います・・・(笑)。
コロナになるまでは(大盤振る舞いも)まだできたけど、コロナになるとそうもいかなくなって、その時に初めて「お金」と向き合うことになったんですよね。
すっからかんになるまで気付かなくて、もう本当に厳しくて・・・。
だから、大切なことはお金じゃなくて・・・お金は必要かもしれないけど、みんなが喜んでくれたらそれだけでいいんですよね。
ただ、経営ができなくなって潰れたらみんなが悲しむから、しょうがなく節約を始めました(笑)。
本当は、もっと深刻にならなきゃいけないんだけど。
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ポリシーは、(お金を)人のために使うことなんです。人のために使ってたら絶対回るって思っています。
だから、今でもとりあえずなんとかなってるのかも。自転車操業なのに・・・(笑)。
不思議ですよね。
──プレゼントを用意してみんなが喜んでくれる時は、なにか湧き上がる気持ちがあるのですか?
もらえなかったら、かわいそうだなっていう想いがあります。なんだか、申し訳なくて。
喜ばせようというよりも、悲しませたくないという気持ちが強いかもしれません。
──話を聞いてると、みんなに手を差し伸べたい気持ちを感じます。
みんなに「平等」にしたいんです。
自分がここをつくったから、この空間に来てくれる人たちによくしてあげたいと思っています。
ただそれだけかな。
家族のために掃除するのと、同じような感じです。
──溝﨑さんとお客様との会話のなかで、「子どもが大きくなった」とか「孫が生まれた」といったやりとりが聞こえてきました。
お客様と一緒に年齢を重ねているのですね。ずっとお客様を見守っているように感じます。
それはお客様も同じで、スタジオ宇品がこの先もずっとあり続けてほしいと願っている。そういうのが、なんかいいなと思います。
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そうなんです。
みんな、それぞれ色々抱えていて、過去も色々あって・・・。そういうのを、私とかスタッフには教えてくれたりするんです。
「ここだから言える」っていうことが、あるんだと思います。
過去の傷とか、生き様をずっと見てきていて、だから、余計に思い入れがあるんです。
自然と、なにかしてあげたいなって。ちょっとでも、ここで気持ちが晴れたらって。
そう思うんですよね。
──居場所であり、一緒に生きていくのですね。
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ありがたいですよね。
(お客様のことを)ただただ大切に思っています。家族のことを、大切に思うみたいに。
家族に元気がなかったら、元気になって欲しいと心から思いますよね。それと同じ感じです。
だから、見返り求めるとか、良く思われようとか、そういうのは本当にないんです。
本当は、お金さえあれば、無料でやりたいんですよ(笑)。それなら、誰でも来られますから。なにも気にせずに。
もう、「仕事」って思ってないんですよね。楽しいし、生きがいなんです。
お客様が嬉しそうなところを見ると、私も嬉しい。それがご褒美なんです。
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またいいんですよ、スタッフたちが。
やりたい放題させてくれますから・・・(笑)。
それで、抜け落ちた穴(足りない部分)をこっそり埋めておいてくれるんです。
「穴埋めときましたから」とか言うことはなくて、気付かないうちに、抜け落ちた穴をそっとセメントで固めといてくれる感じです。
そういうことが、たくさんあるんですよ。
コロナを経て、そういうありがたみに気付くことができたと思います。
最初は、実は「一人で走っている」感覚でした。(結局は)自分だって。
でも、違ったんですよね。
一緒に歩んできた5年間で、「一緒に!」になったんです。
だから、(この5年間は)コロナも含めていい歳月だったと思います。
もう、何も望みはないんですよ。
溝﨑さんにとって、お客様やスタッフの方たちは、ただただ幸せであって欲しい存在。その気持ちが、言葉の一つ一つに溢れています。
「一緒に歩んでいることに気が付いた」という溝﨑さんの表情からは、前を向く力強さと同時に、いい意味で肩の力が抜けているような印象を受けました。
スタジオ宇品には、だれかをそっと見守り、見守られているような、あたたかな雰囲気があります。これからも、お客様と一緒に歳月を重ねていく様子が、目に浮かぶようです。
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企画・取材・執筆:木村 渚
撮影:松村 拓洋(たくみ)