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【『百人一首』と人生と】せつない恋、かなわぬ恋、燃える恋、千年たっても人間は変わりませんね(恋の歌・前編)

『百人一首』から、恋の歌を4首選んで紹介します。千年前の人たちは、こんなにも生き生きと、自分の気持ちを言葉に表すことができたのですね。

なぜ、あなたは、つれない態度をとるの

陸奥(みちのく)の しのぶもじずり 誰(たれ)ゆえに
 乱れそめにし われならなくに

源融(みなもとのとおる)

(意訳)
 東北地方の名産に、乱れ模様に染めた「しのぶもじずり」という布があります。ちょうど今、私の心も、その布の模様のように乱れに乱れています。
 いったい、誰のせいで乱れ始めたのでしょうか。すべて、あなたのせいなのですよ。それなのに、なぜあなたは、つれない態度をとるのでしょう。私の恋心は、ますます激しく乱れていきます……。

恋には、自分では抑えきれない力があります

しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
 物や思うと 人の問うまで

平兼盛(たいらのかねもり)

(意訳)
 誰にも知られないよう、ひそかに、あの人に恋心を寄せていたのに、やっぱり、顔色や態度に出ていたようです。周りの人から、「何か、物思いをしているのですか」と尋ねられてしまいました。
 恋には、自分では抑えきれない力があるのですね。

もう、心変わりしてしまったなんて

契(ちぎ)りきな かたみに袖(そで)を しぼりつつ
 末の松山 波こさじとは

清原元輔(きよはらのもとすけ)

(意訳)
 固く約束しましたよね。お互いに涙を流しながら、「あの末の松山を津波が越えることがないように、私たちの愛も決して変わらない」と。
 それなのに、あなたは、もう心変わりしてしまったなんて……。

(解説)
 平安時代初期に、東北地方を巨大地震が襲いました。その時、大津波が発生しましたが、海辺に近い「末の松山」と呼ばれる丘までは到達しませんでした。
 このことから、「どんな大津波も、末の松山を越えることはない」と語り継がれてきたのです。
「末の松山」の旧跡は、宮城県多賀城市にあります。丘に二本の松がそびえていて、「おくのほそ道の風景地」として国の名勝に指定されています。
 平成23年に起きた東日本大震災の時も、「末の松山」までは津波が到達しませんでした。
 千年以上も前の恋人たちは、
「津波が『末の松山』を越えることがないように、決して、あなたを愛する心は変わりません」
と、永遠の愛を誓ったのでした。
 しかし、あまりにも早い破綻に直面し、「約束しましたよね!」と、叫ばずにおれなかったのです。

あなたが恋しくて、死んでしまいそう

あわれとも いうべき人は 思おえで
 身のいたずらに なりぬべきかな

藤原伊尹(ふじわらのこれただ)

(意訳)
 愛し合っていたはずのあなたは、急に冷たくなってしまいました。何度、訪ねても、全く会ってくれません。このままでは、私は、あなたが恋しくて、恋しくて、死んでしまうでしょう。
 だけど、そんな私を「かわいそうだな」と言ってくれる人は、どこにもいないのです。

(解説)
 失恋した男が、相手の女性に贈った歌です。純情そうなこの男は、本当に死んでしまったのでしょうか。
 作者は、有力な政治家の御曹司でした。美男子で、才能に恵まれ、多くの女性と情熱的な恋をしていたことが知られています。
 もしかしたら、こういう歌を贈った相手も、一人だけではなかったかもしれません。

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