木村耕一

古典を読むと心が豊かになります。 執筆、編集に携わって40年。古典の楽しさ、生きるヒントを伝えていきます。 主な著書:『こころ彩る徒然草』『こころに響く方丈記』『こころきらきら枕草子』『美しき鐘の声 平家物語』(全3巻)ほか

木村耕一

古典を読むと心が豊かになります。 執筆、編集に携わって40年。古典の楽しさ、生きるヒントを伝えていきます。 主な著書:『こころ彩る徒然草』『こころに響く方丈記』『こころきらきら枕草子』『美しき鐘の声 平家物語』(全3巻)ほか

マガジン

  • 『徒然草』からの生きるヒント

    『徒然草』は、今から約700年前の兼好法師が、見たり、聞いたりしたことをエッセイ風に書きつづったものです。兼好法師が亡くなってから300年もたった江戸時代に、大ベストセラーとなり多くの人に親しまれました。その人気は、今も続いており、『徒然草』を題材にした人生論、ビジネス書などが多く発刊されています。そんな『徒然草』から、現代に通じる生きるヒントを、兼好法師が、直接、私たちに語りかけるように、分かりやすく、意訳していきます。

  • 歎異抄の旅

    古典の名著『歎異抄(たんにしょう)』ゆかりの地を旅をします。 『歎異抄』は、生きる力、心の癒やしを与えてくれる古典として、日本人に親しまれてきました。 「無人島に、1冊もっていくなら歎異抄」といわれ、その人気は、ますます高まっています。 では『歎異抄』の何が、人々の心を引きつけているのでしょうか。 『歎異抄』ゆかりの地を巡りながら、その魅力に迫ります。

  • 『百人一首』と人生と

    平安時代の人々は、31文字の和歌に、どんな思いを込めたのでしょうか。そこには、言い尽くせぬ人生模様があるはずです。百首の中から、いくつか選んで、歌の意味や、作者の生き方を調べていきましょう。

  • 『イソップ物語』からの生きるヒント

    『イソップ物語』は、子ども向けに作られた話ではありません。本当は、大人へ向けた、生き方のアドバイスだったのです。作者とされるイソップは、2500年ほど前の人で、ギリシャの奴隷であったといわれています。弱い立場にあった彼は、動物を使ったたとえ話を作って、メッセージを発信していたのです。そんな『イソップ』物語からの生きるヒントを紹介していきます。

最近の記事

人とぶつかったり、嫌われたりしない方法がありますよ。(『徒然草』第130段)

 なぜ、人とぶつかるのでしょうか。悪気もなく言ったことで、嫌われたり、うらまれたりすることもあります。その原因と予防策が『徒然草』に書かれています。第130段を意訳しましょう。 (意訳)  人と争わないようにするのが大切です。そのためには、自分を、ぐっと抑える必要があります。自分のことは後回しにして、なるべく相手を立てるようにするのが無難です。  どんな遊びでも、勝負事を好む人の目的は、勝つことです。勝って、自分の腕前が人よりも優れていることを確認して喜んでいるのです。だか

    • 歎異抄の旅(13)夏目漱石が「大革命」と驚いた800年前の大事件。それは女性差別の撤廃でもあった

      「大革命」を断行した人──。  明治の文豪・夏目漱石が、親鸞聖人(しんらんしょうにん)に贈った賛辞です。漱石が言う「大革命」とは、何だったのでしょうか。  親鸞聖人は、9歳の時に天台宗の僧侶となり、比叡山(ひえいざん)で20年間も修行に打ち込まれました。  しかし、29歳で転機が訪れます。比叡山を下りて、浄土仏教を説かれる法然上人(ほうねんしょうにん)のお弟子になられたのです。  そのことを、漱石は「大革命」と言ったのでしょうか。  違います。天台宗を捨てて、浄土仏教へ入った

      • 「忘れていませんか? お世話になった人への感謝を!」ブドウの葉を食べたシカ(イソップ物語)

        「ありがとう」と言われると、うれしくなりませんか。では、自分は周りの人に「ありがとう」と言っているでしょうか。感謝の心を忘れた人は、どうなるのか……。イソップは、動物のたとえ話で教えています。  弓を持った猟師が、1頭のシカを見つけました。 「今日は、いい獲物に出合ったぞ」  そっと近づいていきます。  人の気配を感じたシカは、とっさに駆け出しました。 「逃がすもんか!」  猟師はあきらめずに、追いかけます。  シカは、たくさんの葉っぱが茂ったブドウの木を見つけ、その

        • 【『百人一首』と人生と】笑われたって、私は、私の信じる道を行くさ(喜撰法師)

          【意訳】  私の庵(いおり)は、都の東南の宇治山(うじやま)にあり、このように、心安らかに暮らしています。  それなのに、都の人々は、「あいつは、つらいことが続いて、この世が嫌(いや)になったので、山奥へ逃げていったのだ」と笑っているようですね。 【解説】  喜撰法師とは、どんな人だったのでしょうか。 『古今和歌集(こきんわかしゅう)』の序文には「六歌仙(ろっかせん)」の一人として名が挙がっています。平安時代の前期を代表する歌人の一人だったのです。  周囲から注目される歌人

        • 人とぶつかったり、嫌われたりしない方法がありますよ。(『徒然草』第130段)

        • 歎異抄の旅(13)夏目漱石が「大革命」と驚いた800年前の大事件。それは女性差別の撤廃でもあった

        • 「忘れていませんか? お世話になった人への感謝を!」ブドウの葉を食べたシカ(イソップ物語)

        • 【『百人一首』と人生と】笑われたって、私は、私の信じる道を行くさ(喜撰法師)

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        • 『徒然草』からの生きるヒント
          11本
        • 歎異抄の旅
          13本
        • 『百人一首』と人生と
          7本
        • 『イソップ物語』からの生きるヒント
          7本

        記事

          大切な人の、生前の姿が、まぶたに浮かぶことがありませんか。(『徒然草』第29段)

           過ぎ去った日々は、恋しくもあり、悲しくもあり……。ある日の兼好法師の思いが、静かにつづられています。『徒然草』第29段を意訳しましょう。 (意訳)  心を落ち着けて、過ぎ去った日のことを思い返すと、どれもこれも恋しくて、感情を抑えられなくなります。  私は、人が寝静まってから、何となく気が向いたので、身の回りの整理を始めました。  要らない書類を破り捨てていると、その中から、亡くなった人が書いた紙片や、思いのままに描いた絵が出てきたのです。  見つけた瞬間、「わぁ!」と心

          大切な人の、生前の姿が、まぶたに浮かぶことがありませんか。(『徒然草』第29段)

          歎異抄の旅(12)司馬遼太郎を襲った死の不安、坂本竜馬の生き方と『歎異抄』

           京都には、親鸞聖人(しんらんしょうにん)と『歎異抄(たんにしょう)』に関係する場所が、多くあります。  今回は、東山(ひがしやま)のふもとにある円山公園(まるやまこうえん)へ向かいましょう。  新幹線で京都駅に到着。  駅前から地下鉄烏丸線(からすません)に乗り換え、二つめの駅・四条(しじょう)で降ります。乗車時間は、わずか4分でした。  地上へ出て、にぎやかな四条通(しじょうどおり)を東山方面へ歩きます。この辺りが、京都で最大の繁華街・四条河原町(しじょうかわらまち)で

          歎異抄の旅(12)司馬遼太郎を襲った死の不安、坂本竜馬の生き方と『歎異抄』

          【『百人一首』と人生と】なぜか、寂しいなあ。赤い夕日を見ると、心が震えてくる(良暹法師)

          【意訳】  私は、心静かに暮らしたいと思って、山奥の一軒家に住み始めました。ところが、独りでいると気楽なはずなのに、なぜか「寂しいなあ」という思いがわいてくるのです。  孤独に耐えきれなくなり、家の外へ出てみると、美しい秋の夕暮れが、目の前に広がっていました。 「誰かいないの?」と周りを眺めても、一人もいません。いるはずがありません。  どこへ行っても、同じなのです。  私の心を分かってくれる人など、いるはずがないのです。  赤い夕日を見ていると、寂しくて、心が震えてきます。

          【『百人一首』と人生と】なぜか、寂しいなあ。赤い夕日を見ると、心が震えてくる(良暹法師)

          「なんでもないことを、心配していない?」心の中で、不安がふくらんでいったライオン(イソップ物語)

           不安をあおる情報や、無責任な批判が、周りにあふれています。 「それが世間なんだから、なにもビクビクしなくていいよ。だって、ライオンにさえ、こんなことがあったんだから」 と、イソップが励ましてくれている話があります。  広い草原に、真っ赤な夕日が沈みかけています。  一頭のライオンが、沼の近くを歩いていました。  すると、 「グゥオー、グゥオー」という声が聞こえてきました。  沼の中に、何かがいるのです。 「グゥオー、グゥオー」  その声は、だんだん大きくなります。  大

          「なんでもないことを、心配していない?」心の中で、不安がふくらんでいったライオン(イソップ物語)

          「質素な暮らしには、ぜいたくな生活では味わえない楽しさがあります」〜母の戒めは、北条時頼の心の中に生きていた(『徒然草』第215段)

          「節約するのは、もったいないからではないのですよ」と、松下禅尼(まつしたぜんに)は障子の張り替えをとおして息子に教えました。  では、息子・北条時頼(ほうじょうときより)は、どんな政治家に育ったのでしょうか。『徒然草』は、後日談を記しています。意訳してみましょう。  鎌倉幕府の重職を務めた平宣時朝臣(たいらののぶときあそん)が、昔のことを思い出して、こんな話を聞かせてくださいました。       *     *  ある日の夜、幕府の最高権力者であった北条時頼様から、 「屋敷

          「質素な暮らしには、ぜいたくな生活では味わえない楽しさがあります」〜母の戒めは、北条時頼の心の中に生きていた(『徒然草』第215段)

          歎異抄の旅(11)森鷗外が『高瀬舟』に秘めた2つの謎! 「なぜ生きる」と安楽死を『歎異抄』で解く

           京都の鴨川(かもがわ)にかかる四条大橋(しじょうおおはし)。  この橋は、親鸞聖人(しんらんしょうにん)にとって、忘れられない場所です。 「もし今晩、死んだらどうなるのか」  この真っ暗な心の解決を目指して、親鸞聖人は、9歳で比叡山(ひえいざん)の僧侶となり、厳しい修行を続けられました。  しかし、29歳の春に、とても比叡山では解決ができないと見極められ、山を下りられたのです。  京都の六角堂(ろっかくどう)に百日間も籠(こも)って、 「死んだらどうなるか分からぬ心、この暗

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          「自分らしさ」を大切にするほうが、幸せになれますよ。子イヌのまねをして、失敗したロバ(イソップ物語)

          「あの人、うらやましいなあ」「自分はダメだな」と落ち込むことはありませんか。そんな時、どうすれば? イソップは、「考え方を変ればいいんだよ」と言って、こんな話をしています。  ある所に、子イヌとロバを飼っている人がいました。  子イヌは、主人が家に帰ってくると、いつも尻尾を振って出迎えます。  うれしそうにとびはねて、主人のひざに登ったり、顔をペロペロなめるのでした。  なんてかわいい子イヌでしょう。  主人も喜び、ますます子イヌを大事にするようになりました。  それ

          「自分らしさ」を大切にするほうが、幸せになれますよ。子イヌのまねをして、失敗したロバ(イソップ物語)

          【『百人一首』と人生と】あなたなんかに、私の気持ちが、分かるもんですか(藤原道綱母)

          【意訳】  嘆きながら、一人でわびしく寝ている夜は、朝までの時間が、どんなに長く感じるか、お分かりですか。あなたには、お分かりにならないでしょうね。 【解説】 「嘆きつつ……」  この歌の作者は、何を嘆いているのでしょうか。  作者の名は「道綱母(みちつなのはは)」とあるだけで、本名は分かりません。彼女は、平安時代の中流貴族の娘です。和歌の名手であり、「本朝三美人」の一人といわれる美しい人だったようです。  そんな彼女へ、上流貴族の御曹司・藤原兼家(ふじわらのかねいえ)から

          【『百人一首』と人生と】あなたなんかに、私の気持ちが、分かるもんですか(藤原道綱母)

          ダメになったら、すぐに捨てますか?  修理しますか?  子どもに教えたい節約の目的〜松下禅尼の障子張り(『徒然草』第184段)

           兼好法師が、「節約するのは、もったいないからではないのですよ」と言って、子どもを立派な政治家に育てた母の教育方法を紹介しています。『徒然草』第184段を意訳しましょう。  鎌倉幕府の執権(しっけん)・北条時頼(ほうじょうときより)の母は、松下禅尼(まつしたぜんに)という方でした。  ある日、時頼が、母の住む館を訪れることになりました。  息子といっても、幕府の最高権力者です。館では、朝から掃除や接待の準備で大忙しです。  息子を迎える母は、自分で、障子戸の破れた部分を、一

          ダメになったら、すぐに捨てますか?  修理しますか?  子どもに教えたい節約の目的〜松下禅尼の障子張り(『徒然草』第184段)

          歎異抄の旅(10)生け花のルーツは京都の六角堂に! 池坊と聖徳太子、親鸞聖人の深い関係

           私たちの体の真ん中には、「へそ」があります。  同じように、京都の中心にも「へそ」があるそうです。  冗談かと思ったら、京都市中京区の寺に「へそ石」があり、観光客に公開されているとか……。  さて、どこでしょうか。  ヒントは、聖徳太子(しょうとくたいし)によって創建されたという、非常に古くて有名な寺です。  特徴は、本堂の屋根の形が、六角形であること。  もうお分かりですね。  六角堂(ろっかくどう)です。  今回は、親鸞聖人(しょうとくたいし)と六角堂の関係を調べてみ

          歎異抄の旅(10)生け花のルーツは京都の六角堂に! 池坊と聖徳太子、親鸞聖人の深い関係

          自慢したら、ひどいめにあいますよ。クジャクの一言に傷ついたツルは、猛然と攻撃してきた(イソップ物語)

           何気なく言ったことが、相手を傷つけたり、怒らせたりすることが、よくあります。イソップは、「特に、自慢話には気をつけましょう」と、次のような話をしています。  クジャクが、色鮮やかな羽を広げ始めました。  太陽の光を浴びて、キラキラ輝いています。  周りにいる他の鳥たちに向かって、 「どうぉ! 私、ステキでしょう!」 と言いたそうな顔をして、羽を見せびらかしていました。  でも、誰も褒めてくれません。  そこでクジャクは、近くにいたツルに向かって言いました。 「世の中

          自慢したら、ひどいめにあいますよ。クジャクの一言に傷ついたツルは、猛然と攻撃してきた(イソップ物語)

          【『百人一首』と人生と】故郷へ帰りたいなぁ、父母は元気だろうか……(阿倍仲麻呂)

          【意訳】  唐(とう・中国)へ留学に来た私も、ようやく日本へ帰る日を迎えることになった。  はるかに広がる夜空を見渡すと、美しい月が出ている。あの月は、昔、故郷・春日(かすが・現在の奈良市辺りの地名)の三笠山(みかさやま)に出ていた月と、同じ月なのだなあ。 【解説】  夜空に輝く月を、阿倍仲麻呂は、どんな思いで眺めていたのでしょうか。  奈良時代の日本は、中国大陸の進んだ文化や制度を学ぶために、多くの人材を唐(とう)へ派遣していました。それが「遣唐使(けんとうし)」です。

          【『百人一首』と人生と】故郷へ帰りたいなぁ、父母は元気だろうか……(阿倍仲麻呂)