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「忘れていませんか? お世話になった人への感謝を!」ブドウの葉を食べたシカ(イソップ物語)

「ありがとう」と言われると、うれしくなりませんか。では、自分は周りの人に「ありがとう」と言っているでしょうか。感謝の心を忘れた人は、どうなるのか……。イソップは、動物のたとえ話で教えています。


 弓を持った猟師が、1頭のシカを見つけました。
「今日は、いい獲物に出合ったぞ」
 そっと近づいていきます。

 人の気配を感じたシカは、とっさに駆け出しました。

「逃がすもんか!」
 猟師はあきらめずに、追いかけます。

 シカは、たくさんの葉っぱが茂ったブドウの木を見つけ、その陰へ滑り込みました。
 目を閉じて、じっと隠れていると、猟師は少しも気づかずに通り過ぎていったのです。
 ブドウの葉っぱが、シカの体を隠して守ってくれたのでした。

「ああ、助かった。このブドウの木がなかったら、殺されていたに違いない……」

 安心したシカは、おなかがすいてきました。
 そして、目の前の葉っぱを、むしゃむしゃと食べ始めたのです。

 そのかすかな音が、先へ行った猟師の耳へ聞こえてきました。
「おかしいぞ。風もないのに、葉っぱが揺れている」

 猟師は、弓に矢をつがえ、葉っぱが揺れている所へ向かって、放ちました。

 ドサッ!
 大地へ倒れたシカは、息が切れる前につぶやきました。
「ああ、俺は、なんてバカなんだろう。命の恩人であるブドウの葉っぱを、食べてしまうなんて……。これは、当然の報いだ」

 シカは、「当然の報いだ」と知らされ、死んでいきます。
 重い言葉ですね。
 それほど、お世話になった人、危機を救ってくれた人への感謝の心を忘れるのは、人間として恥ずかしいことなのです。

イラスト・黒澤葵

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