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人とぶつかったり、嫌われたりしない方法がありますよ。(『徒然草』第130段)

 なぜ、人とぶつかるのでしょうか。悪気もなく言ったことで、嫌われたり、うらまれたりすることもあります。その原因と予防策が『徒然草』に書かれています。第130段を意訳しましょう。


(意訳)
 人と争わないようにするのが大切です。そのためには、自分を、ぐっと抑える必要があります。自分のことは後回しにして、なるべく相手を立てるようにするのが無難です。
 どんな遊びでも、勝負事を好む人の目的は、勝つことです。勝って、自分の腕前が人よりも優れていることを確認して喜んでいるのです。だから、負けた相手が、どんなに落胆しているかも分かっているはずです。それなのに、相手を負かし、嫌な思いをさせて楽しむのは、人の道に背いていると言えるでしょう。
 親しい間柄で冗談を言う時も、何とか相手をだまして、自分の知恵が勝っていることを示そうとして楽しんでいるのです。これもまた、礼儀にかなっていないと言えます。
 だから、ちょっとした遊びや酒宴の時の冗談が原因となって、長い間、解けない恨みが生じることが、とても多いのです。
 これはすべて、人との競争を好む心から起きています。

(かいせつ)
 兼好法師らしい鋭い分析です。
「そこまで言わなくてもいいじゃないか」と感じるかもしれません。でも、自分の心を冷静に見つめると、「そうだな」と思う面もあるのではないでしょうか。
 仏教では、人間の心を詳しく解明し、「欲の心、怒りの心、人をうらむ心が常に燃えていて、死ぬまでなくなることはないのが人間だ」と教えられています。
 兼好法師は、僧侶ですから、釈迦の教えをふまえて、世の中を見ていたのです。

(原文)
 むつましき中に戯(たわ)ぶるるも、人を謀(はか)り欺(あざむ)きて、己(おのれ)が智の勝りたることを興(きょう)とす。これまた礼にあらず。されば、はじめ興宴(きょうえん)よりおこりて、長き恨(うら)みを結ぶたぐい多し。是又(これまた)、争いを好む失なり。              

『徒然草』第130段
イラスト・黒澤葵

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