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分からないことを、「分からない」と言えるのは、立派な人です~ワシとカタツムリ(イソップ物語)
「分からない」と言うと、バカにされると思って、知ったかぶりをしたり、ごまかしたりすることはありませんか。イソップは、「損をするのは、あなたです」と言って、こんな話をしています。
大空を悠々と旋回していたワシが、突然、急降下しました。
獲物を見つけたのです。
捕らえたのは、カタツムリでした。
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腹が減っていたワシは、うれしそうに、鋭いくちばしでカタツムリの殻を突きます。
ガシッ! ガシッ! ガシッ!
ところが、突いても、突いても、殻が割れません。
この国のカタツムリの殻は、岩のように硬かったのです。
すると、横からカラスがやって来て言いました。
「殻の割り方を、ご存じないのでしょうか」
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ワシは、鳥の中では、大空の王者といわれています。
ふだんなら、カラスの言葉などに耳を傾けないでしょう。
しかし、殻の割り方が分からない以上、威張ってみても、腹はふくれません。
このワシは、とても謙虚な心を持っていました。
「そのとおりだ。分からなくて、困っているところだ。おまえは、殻の割り方を知っているのか?」
「はい、とても簡単な方法を知っています。私にもカタツムリを分けてくださるならば、教えてさしあげますが……」
「いいとも。おまえの言うとおりにしよう」
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カラスは喜んで、
「では、カタツムリを、高い空から落としてください。たちまち殻は砕けるでしょう」
と教えました。
ワシは、カラスの言うとおりに実行し、空腹を満たすことができたのです。
それだけではありません。
次からは、この技を自分のものとして、工夫していったので、今まで以上に多くの獲物を食べることができるようになったのです。
自分の分からないことを、「分からない」と言うのは、恥ずかしいことではありません。
相手が誰であれ、謙虚に学びとる人は、日々、向上していくでしょう。
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イラスト・黒澤葵