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海綴(2)

凸凹道をゆくタクシーに揺られながら、フロントガラスにぶら下がった神様ガネーシャがブラブラ揺れるのを見ていた。一緒に日本から来て駐在していた生産管理のおじさんにそそのかされ、わたしたちは市街地から少し離れた富裕者層向けのビーチリゾートに向かっていた。当時わたしは新卒一年生、夢も希望もなく入社した零細繊維商社で、インドに会社を作るぞと息巻く冒険家気取りの社長に言われるがまま、英語ができるという理由だけでインドに派遣されたのだ。到着すると正規の入場ゲートを無視して、わたしたちは野良犬のようにビーチに忍びこんだ。雲ひとつない快晴、海は綺麗なブルー、とても気持ちは良かった。パラソルの下の安い白いプラスチックのテーブルにつき、ちゃんと冷えたビールを飲んで、焼いたロブスターかなにかをたべて、おじさんとふたり半裸になって海に飛び込んだ。水面から顔半分を出して空を見上げながら、なんでわたしはこんなところにいるんだろう、と呟きながら、インドに来るつもりなどなかったが、そのくせどんなつもりでもなかったことを知った。

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