ハックション
出かけるからとマスクをしていたら、4歳の娘がこんなことを言った。
「おとうさん、ハックション(くしゃみ)ってどこにいくの?」
「遠いお空の向こうかなぁ」
僕は微笑みながらそう答える。
「おいかけよう!」
と、娘はその場でぴょんぴょん足踏み。
「じゃあ、急いでお家を出なくちゃね」
僕は玄関のドアを開けた。娘のサンダルがパタパタとマンションの階段にリズムを与えていく。
5分後、僕らは青空の下でハックションを期待していた。誰かしてくれないかなぁとキョロキョロしてたんだ。特大のハックションを追いかけていって、えいやって捕まえようねって。
どんな脅威も子どもの前では丸っこいおとぎ話に変わる。「これはお話だよ」って安心させる大人がいるあいだは。娘の小さなマスクをポケットに用意しながら、僕はほんのつかのま手品師に変わる。