20と20と20と20
真っ白な時間。つまりは朝の6時30分。まだ何も知らない積み木のように、ひっそりと角が揃った静かな時間。
神社の前で立ち止まって、僕はどうしてもその人に目がいってしまう。
『20』という冠かぶった着物姿。
両脇にはよく似た顔の両親がいて、「さぁ、お参り行こう」と封を切ったばかりの塗り絵のような白い息を吐き出している。
「今日はかみさま大忙しだ」
僕は微笑み、それからまた目が釘づけになる。
参道を歩いていく『20』に向かって手を合わせていたからだ。多分、70歳ぐらい。ひょっとすると80?
おばあさんは黙って『20』に手を合わせ、深々と頭を下げた。まるで、死んでしまった女学生時代の旧友に再開したように。
僕は四つ角を曲がり、橋を渡って駅をすり抜ける。
たくさんの『20』が集まっておしゃべりしてる。まるでこの街の歴史を指折りするみたいに、僕は『20』を数えつづけ『180』でやめた。掛け算は急ぎすぎだ。僕は代わりに割り算を採用する。やがて、手を合わせたあのおばあさんの中に僕は4人の『20』を見つける。
20と20と20と20。
80歳のおばあさんの中に4人の二十歳がいる。
僕たちの中で『20』が息づいている。人数が増えるほどに、人はさらに幸せになるだろう。
成人おめでとう。
そして、僕達の中で息づいてる『20』おめでとう。
世界全部が味方して祝福した、この『20』が数えきれない幸せを生む。