青森市民病院の経営改善が急務。市民が安心できる医療を提供しつづけるために【R6.9.4青森市議会一般質問まとめ】
現在議論されている青森市民病院と青森県立中央病院の新統合病院の開院は、今から8年後の2032年10月と予定されています。
新しい病院をどこに建てるかについての議論が市議会でもなされています。
しかし、重要なのは市民に満足していただける医療を提供しつづけることだと考えます。
そのためには、市民病院の経営を健全に保つことが必要と考えます。
そこで、青森市民病院の経営状況について、令和6年9月4日の青森市議会一般質問で取り上げました。
1.厳しい経営状況にある青森市民病院
青森市民病院の令和5年度の純損益は、4億4,076万3千円の純損失となっています。
この理由について市は、補助金、負担金等の医業外収益、端的に言えば国からのコロナ補助金が減少したので、令和5年度は赤字になっている、と説明しました。
補助金が大幅に減ったのは事実で、病院経営上の痛手であるのは間違いありません。
しかしコロナの補助金が減ると言うのは、市民病院の今後の方向性及び具体的な取組等を定めた「青森市公立病院経営強化プラン」の中にもはっきりと記載されています。つまり、事前に想定されていたことなのですから、その事実を受け入れて、対応策を練るというのが本来の経営のあり方だと考えます。
また、市民病院はコロナ前から恒常的な赤字となっており、コロナ前の赤字体質に戻っただけ、むしろコロナ前よりもさらに赤字が拡大している状況です。
2.市民病院にどの程度、公費が使われているのか
市民病院の決算では、赤字だ黒字だということ以上に、病院運営に対する市の負担がどの程度か、またその負担に市は将来的に耐えられるのかどうかを考える必要があります。
市民病院のような公立病院の運営に対しては、繰出金、という形で市の一般会計から公費が投入されています。
令和5年度決算における一般会計から青森市民病院への繰出金の額は、18億5,376万7千円となっています
こちらは、平成30年度から令和5年度までの市民病院に対する一般会計からの繰出金の推移をグラフに表したものです。
コロナ期間中は国からの補助金があったので、市の財政負担である繰出金も少なくなりましたが、コロナが終わった令和5年度は、かえってコロナ前よりも繰出金が増加しています。
3.令和5年度の市民病院に対する市の負担は約23億円
こちらのグラフは、繰出金に赤字、黒字の金額を差し引きした金額の推移を示しています。つまり、市民病院の運営に対する、市の負担金額の目安を示しています。 やはりコロナ期間中は国からの新型コロナ感染症対策の補助金があり、病院が黒字でしたので、市の負担が非常に少なくなっています。 コロナが終わった令和五年度はコロナ前よりも市の市民病院に対する負担は大きくなりました。令和5年度の市民病院の赤字の金額と市からの繰出金の合計は約23億円となっています。
4. 23億円は青森市にとってどの程度の金額か
青森市の財政状況は、決して余裕があるわけではありません。今年の3月の議会でも子育て支援の市の拠出分の年間約2億円のあり方をめぐって、市議会でも大きな議論が巻き起こったのは記憶に新しいところです。
23億円、という金額は、
・市内の小中学校の給食費の約2倍、
・市の水道料金収入の1/2程度という規模です。
また、市営バスの料金収入が約16億円ということから見ても、23億円が青森市にとって、大きな金額であることは、イメージしていただけるかと思います。
5.累積赤字で債務超過寸前の市民病院
市民病院には、これまで発生した赤字の累積分である未処理累積欠損金があります。
令和5年度末時点における、青森市民病院に係る未処理累積欠損金の額は、約50億4,888万円となり、
令和4年度末の約46億円からさらに増加しました。
また、多額の累積欠損金は、債務超過、つまり、資産の金額よりも債務の金額が大きく、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態へと繋がっていきます。
この債務超過の状態は、民間企業であれば、銀行からの貸付が受けられなくなるなど、深刻な経営問題となります。
こちらは市民病院の資本(純資産)の金額の推移を示したグラフになります。令和4年度末時点ではこの資本の金額は、約7億円でした。令和5年度末はさらに減少して2億7千万円です。
この資本2億7000万円は、青森市民病院の資本金52億9千万円から、今までの赤字が積み重なった累積未処理欠損金を引いた金額です。
ほとんど資本金が残っていない債務超過寸前の状態となっています。
また、グラフのとおり、市民病院は、コロナ前に一度債務超過に陥っています。コロナ期間に国の補助金等があり、債務超過は一旦解消されましたが、令和5年度は再び資本が大きく減少しました。
令和6年度も同じような経営状況が続くと、令和六年度末、つまり今年度末には再び債務超過となってしまうことが、予想されます。
先程お示しした繰出金の金額がコロナ前と比べて非常に大きくなっているにも関わらず赤字を計上していることや、市の取り組みにスピード感を感じられないことに、私は非常に大きな危機感を持っています。
6.市民病院の経営状況に対して、市は危機感が足りないのでは?
まだ、統合新病院については、経営形態など決まっていないことも多くあるということは理解しています。
しかし、このままだと今年度末に間違いなく市民病院は、債務超過に陥るわけです。にもかかわらずその債務超過を避けるための経営改善をするという答弁ではなく、発生した時に考えますという答弁です。
統合にあたっての会計処理で多額の費用が必要になるのではないかという質問は、昨年12月の議会でもお聞きしました。その時も全く同じ答弁でした。
これではまるで、赤字垂れ流しの経営で問題ではない、いくら赤字が拡大しようが公費を投入して穴埋めすればいい、という姿勢とも受け取れます。
私は公的病院の赤字がダメだ、公費を投入するのはダメだということを言っているわけではありません。
公的病院の経営環境が厳しいのは重々承知していますし、市民に満足していただける医療サービスを継続して提供するために、様々な経営努力を重ねてきていることも承知しています。
ただこれだけの額の公費を漫然と、投入しているという状態で、市民が満足する医療サービスを、果たして市民病院が提供していけるのかと、問うています。
6.帳簿上「は」積み立てられている退職金
全員退職した場合を仮定した27億円を、帳簿上積み立てているという答弁でした。
一方令和5年度の決算書を見ると、市民病院の現金預金の金額は、約3億5000万円です。
他にすぐに現金化して退職金の支払いに使えそうな項目も見当たりません。
市民病院の閉院などにあたって、同時に退職する職員の方が多数いらっしゃった場合、即座に現金を用意することが出来ず、市の一般会計から、公費を投入するしかないのが実情と考えます。
7.多額の財政負担が発生すると、市民に対する医療サービスが途絶えるおそれも
やはり、市民病院に対して多額の財政負担が一般会計から必要となった場合、市の財政運営にも影響があるとの答弁でした。
さらに、病院の閉院にあたっては、病棟の解体や器械備品の処分など、多額の費用がかかります。
民間企業の場合でも、会社や事業を畳むに当たって財産を処分する、そういった際に最終的にどうしても損失が膨らんでしまうケースが見られます。
例えば、R4年度に病棟の建て替えを実施した市立秋田総合病院は、建て替えや古い病棟の解体などに伴う費用などで、R4年度は20億円の赤字、R5年度は54億円の赤字を計上しています。
市立秋田総合病院の古い病棟の解体には、解体費約11億円を要しています。
現在の青森市民病院の病棟の延床面積は、市立秋田総合病院の約1.3倍です。単純計算で解体費用が1.3倍かかるとすれば、解体費用は14億円、実際には解体費も、今後高騰していくでしょうから、15億円以上かかることになると、考えます。
私は、市民病院の閉院にあたってはこのままでは、最低でも50億円以上の赤字、赤字が100億円規模に膨らむ赤字が可能性も十分にあると予測しています。
巨額の財政負担が発生すると、市としても市民病院を支えきれなくなり、市民に対する医療サービスの提供が途絶えてしまう危険性も十分にあります。
市民病院がこれから取るべき道は県病との経営統合に備えて、経営改善を進めることだと考えます。
8.適切な経営改善のため、厳しい経営状況の直視が必要
青森市民病院の経営改善に対しては、
「青森市公立病院経営強化プラン」
が定められています。
「経営強化プラン」には、経営改善に向けた数値目標がありますが、R5年度の数値目標と、今回公表された令和5年度決算での実績を見ると、やはり目標と実績が乖離している項目がほとんどです。
こちらは「経営強化プラン」に記載されている1日あたり入院患者数の予測値と、実際の入院患者数の推移を示したものです。この入院患者数の予測は市の人口動態を踏まえて予測されたものです。
予測された入院患者数と実績の間に大きな乖離があることが分かります。
同じく、「経営強化プラン」に記載されている1日あたり外来患者数の予測値と、実際の外来患者数の推移を示したものです。こちらも、予測された数字と、実績の間に乖離があります。
次に、市民病院の病床利用率を、市民病院と同程度の病院と比較したものです。H30年度から令和4年度まで、病床利用率は同種・同規模の病院の平均よりも、低くなっています。また、コロナ明けの令和5年度も病床利用率は回復していないことがわかります。
「経営強化プラン」では、コロナ後は徐々に患者数がコロナ前の数字へと回復し、経営状況も上向くと想定されています。経営強化プランに記載されている見通しでは、市民病院は令和5年度・令和6年度は赤字となり、一時的に債務超過となるものの、令和7年度は黒字となり、債務超過から自力で回復できるとしています。
確かにコロナ中には受診控えなどが起こり、病院への受診者が極端に減りました。これは市民病院だけではなく、あらゆる病院で起こったことです。
ですから、令和4年度以前、つまりコロナが終わる前の見通しであれば「コロナ後は病院の利用者数が回復し、市民病院の経営は上向く」と書かれているのも納得します。
しかし実際には、令和5年度の市民病院の利用者数はコロナ前と比べても低迷している状態です。
なぜ、コロナ後も市民病院の利用者数が低迷しているのでしょうか。
この低迷の外部要因としては、平成29年に青森新都市病院が新青森駅すぐ近くに開院したことも考えられます。
青森新都市病院は市民病院と同じ2次救急病院です。
実際に私の住む西部地区の住民の方の中には、新都市病院の方が市民病院よりも建物も機械も新しく、サービスも良いということで、市民病院から新都市病院へ通院先を切り替えたと言う声も聞かれます。
また、統合新病院の設置場所をめぐるニュースが、テレビや新聞などで大きく報道されています。このことも、「市民病院がいずれなくなるのであれば、通院先は別の病院にしよう。」と市民病院の受診者を減らす方向に働いている可能性があります。
もちろんこうした状況は、市民病院の経営努力ではいかんともしがたいところです。
また、市の経営強化プランによると、2025年から2045年までの20年間で青森市の人口は30%以上減少すると予想しているのに対して、入院患者数は16%程度の減少と予想しています。
これは、高齢者の病院利用者の数が増加もしくはほぼ横ばいとなると予想しているためです。
しかし、高齢化がより進行すれば、高度医療や救急医療よりも、終末期医療がメインとなります。そういう場合、市民病院ではなく、終末期専門の医療機関を利用するのではないでしょうか。
加えて法改正による高齢者の医療負担割合増や、物価高による年金の実質的な目減りなどで、高齢者の医療機関の受診に対する経済的ハードルが上がっています。また、医療の進歩により入院を伴わない日帰り手術の増加や入院日数の短縮等も市民病院の経営を悪化させる要因となっています。
このように、予測よりも患者数が減る要因が様々に考えられます。
現在の経営強化プランが示す、コロナも終わり市民病院の経営は次第に回復する、という楽観的な見通しは果たして本当なのか、統合新病院開院までの8年、市民病院は破綻せずに運営できるのか、私は大いに懸念しております。
現状の認識を見誤っている限り、適切な経営改善を講じることができないと考えます。
9.市は現実を直視して、抜本的な経営改善を
今後、ますます厳しさを増す公立病院の経営環境の中で、このまま楽観的な見通しで経営を行うことで、健全な経営はできない事はもちろん、市も市民病院を財政的に支えきれなくなり、新しい病院の開院を待たずに市民病院が破綻することもあり得るのではないかと私は懸念しています。
私が市政の在り方として問題があると考えているのは、市民病院がこのような厳しい経営状況にあるにもかかわらず、議会に対して、正確な実態を市が示していないことです。
例えば
令和5年度は、計画よりも大幅に一般会計から市民病院への繰出金が増えました。
令和5年度の決算は経営強化プランの見通しでは繰り出し金を約12億円投入した上での約6億2000万円の赤字を見込んでいました。しかし実際には赤字の金額は4億5000万円とは言え、繰り出し金は18億5000万円となりました。
つまり、想定では繰出金と赤字の合計が18億2000万円だったところ、実際には繰り出し金と赤字の合計金額が23億円となり、約5億円も市の負担が増えてしまったのです。
この理由を市は、令和6年第1回定例会の開会日に、
と議会で説明しています。
しかし、青森市公立病院経営強化プランで、国からの病床確保料、コロナに関連した補助金は令和5年度は減額される見込みと明記しています。当初から想定していたことに対し激変緩和措置だ、というのはおかしいと私は考えます。
現実に即して、、、コロナが終わったら病院の利用者数が回復すると見込んでいたものの、実際には利用者数は回復せず、病院事業の収入が低迷したため、繰り出しを行った。
と説明すべきだったのではないでしょうか。
こうした市民病院の経営の実情を正確に議会に対して説明しない姿勢、市民の知らない間に公費を投入している体質自体が問題であると考えています。
10.県立中央病院とは財務状況に大きな格差
ちなみに、県立中央病院と市民病院の財務状況を比較すると、県立中央病院の資本、純資産に当たるものですね、この金額は令和5年度末おおよそ108億円です。市民病院は資本の金額が2億7千万ですから、108億と2億7000万円、約40倍の差です。
医療従事者の数や医業収入で見ると、県病の経営規模は市民病院の約2倍から3倍です。経営規模に比して、資本の金額に大きな開きがあります。
これだけの差が令和5年度末の時点であって、今後ますますこの差が広がっていく状況で、
病院統合にあたり、果たして県に対して対等に物が言えるのか、と危惧しております。
統合新病院をどのように運営していくかについては、県民の意思ももちろん尊重しなければなりません。一方で、青森地域保健医療圏の基幹病院としての使命を果たすことや、市民が求めている医療サービスを実現することは、統合新病院で果たすべき重要な役割です。
12.統合新病院の開院まであと8年。その間の市民への医療サービスはどうなるのか
8年後に開院する統合新病院で市民に良い医療サービスを提供することはもちろん大事です。しかし、それまでの8年の間も、市民病院に病気やケガで通院、入院する人もいる、生死の瀬戸際で救急車で運ばれる人もいるということも決して忘れてはいけません。8年後のことだけを考えるのではなく、今、青森市民に対して、しっかりと、充実した医療サービスを提供し続けていく。これこそが、市として真剣に取り組むべき最重要課題です。
この9ヶ月間、市民病院事務局の職員の方々は、通常業務に加えて、おそらく統合新病院の整備場所について検討することに忙殺されていたと思います。
統合問題と同時に、市民病院の経営改善を進めるにあたって、職員が不足しているのであれば、他の部署から職員を年度途中であっても異動させる、異動させるのが難しいのであれば、専門の職員を十分な給与で新たに採用する、この市民病院の経営改善は、そのぐらいの対応が必要な案件だと考えます。
一時的に費用がかかったとしても、そうした対応の結果、経営が改善され、市民に満足していただける医療サービスを提供し続けられるのであれば、十分な効果があるのではないでしょうか。
13.安心できる医療体制維持のため、次回の議会でも市民病院の経営について取り上げます
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