木村央志[ゲームデザイナー]

ゲームデザイナー木村央志がゲームデザインや表現全般にわたって思いつくままに綴るノートです。新作『クーロンズリゾーム』の設定裏話やネタ元などもここで開示していきます。 前作『デモンズゲート』についてもいろいろと──

木村央志[ゲームデザイナー]

ゲームデザイナー木村央志がゲームデザインや表現全般にわたって思いつくままに綴るノートです。新作『クーロンズリゾーム』の設定裏話やネタ元などもここで開示していきます。 前作『デモンズゲート』についてもいろいろと──

最近の記事

クーロンの30年

阿片戦争って──? 「阿片戦争って、いつのことだっけ?」── SMEニューメディア室の狭いオフィスから知り合いのライターに電話で尋ねたのがそもそもの始まりだった。1994年2月のことである。 とりもなおさず、クーロン的な美学を模索する旅の起点となった。 それから30年。長い時を経て、いったい何が変わったのか──あるいは「成熟」したのか──そのことを社会思潮にも目を向けつつ振り返ってみたい。 富士山ローソン 今年、「富士山ローソン」がトレンドワードになった。山梨県河口湖畔

    • 九龍夜總會2024

      龍城飯店@渋谷 渋谷近未来会館──この妖しいハコ(ライブハウス)を見たとき、咄嗟に「龍城飯店@渋谷」というコンセプトを思いついた。陰界が陽界へと露出したという設定を地で行くような場所的印象を得たからだ。 龍城飯店は『クーロンズ・ゲート』のグラウンドゼロのような位置付けだ。 ゲーム設定に従うと、2年前、つまり1995年にふらりと姿を見せた小黒、そんな彼女を見守るリッチ。そして小黒の中で日増しに存在感を増していく"姉"の存在── やがて小黒は、龍城飯店の部屋にある写真立てに姉の

      • 陰陽BOXへの途・後

        2022.3 背水の陣でシステム変更へ 3Dクーロン、初見的には文句なく面白い。テンションも爆上がりする。ユーザーも絶対に同じ見解のはず。このハロー効果で逃げ切るか──!  しかしこれでは所期の目的は果たせない。 3Dには3Dのゲーム性を与えるのが流儀だ。すると「ゲート」の伏線回収と設定強化という企画意図とはトレード・オフの関係が生じてしまう。 アタマではわかっていても──と言い訳しながら半年経過。そもそもゲーム性が破綻したシロモノをリリースするのは、ゲームコンテンツへの冒

        • 陰陽BOXへの途・前

          2019.12.28 ゲリラライブ「帰ってきたおはじめ式」開催 コロナ禍直前の年末、『クーロンズ・ゲート  サウンドトラック』アナログ盤完成を記念してゲリラライブ敢行! 題して「帰ってきたおはじめ式」── 超直前告知、主催者不明、責任者不在といういかにもなカオス仕立て。 会場で「リゾーム」のイメージムービーを初披露した。BGMはAudioStockで購入したアセットだった。 ──会場事故とか起きなくてよかった。。。 2020.1 制作着手はレンタルオフィスの片隅で 「設

          クーロン企画30年

          すべての始まり──1994年 来年、2024年は『クーロンズ・ゲート』企画30周年を迎える。自画自賛モードを承知で言うなら唯一無二の世界観とも称されるが、最初からそれが見えていたわけではもちろんなかった。 Onyxが火を吹くほどに 1993年末に異動した部署はSMEニューメディア室だ。今や懐かしいマルチメディアに向き合う部署だ。 そこであたかも牢屋主のように鎮座ましましていたのが、当時、世界最高峰と呼び名の高いシリコングラフィックス(SGI)社製のCG専用マシン、Ony

          3Dクーロンはどうしたんだ?

          いまだに「3Dクーロン」じゃないのか、と問い詰められることがある。まぁ仕方のないことだ。 実際、企画立案した2019年秋から2022年3月まで、実に2年半にわたり、自分自身、「3Dクーロン」は絶対にイケていると確信していたわけだから。 また、会う人ごとに「3Dクーロンは面白そうだ」と異口同音の反応を返され──あたかも周囲から鼓舞されているような状況だった。 この周囲から鼓舞される感覚、なんと驚くべきはネットを通じてユーザー側からもしっかりと響いていた。ユーザー側にも「面白そ

          3Dクーロンはどうしたんだ?

          Strayの「ス」

          Strayの何がイケているのか? 猫さんを操り、クセ強めのサイバーワールドを巡る異色アクションADVゲーム『Stray』──Steamでのユーザー評価もすこぶる高い。 もちろん、猫さんは多くに刺さるコンテンツなわけだが、ここでは少し冷静になって分析してみたい。  イケてる理由①:3人称であること  イケてる理由②:MOBがロボットであること  イケてる理由③:謎文明であること 順番に見ていこう── 3人称であること 3人称視点とは、プレイヤーキャラを視野の中心に収めつつ

          墓碑銘を求めて

          クーロンR.I.P.──? 『クーロンズ・ゲート R.I.P.』──これが、2022年、リリース25周年記念事業を統括するコンセプトだった。要するにクーロンをこの世から葬り去る── 確かに、いまさらPSゲームを持ち上げても仕方がない。懐古趣味的にクーロンを扱うのはこれで終わりにしよう──つまりクーロンR.I.P.を提起していたのだ。 R.I.P.イメージを大きくあしらって記念事業のキービジュアルにしてしまおうか、などと協議もしていた。 ジブンクーロンの再定義 『クーロン

          空間と向き合って

          鍵と扉の関係 山高帽男が現れて、ステッキに仕込んだ小さな映写機から壁に扉を映し出してくれる── 『クーロンズ・ゲート』を最もよく象徴する場面のひとつだろう。 クーロンはアドベンチャーゲームだ。アドベンチャーゲームのゲーム性はフラグ立てにある。狭義に解釈すると、鍵と扉の関係づくりに腐心するということだ。施錠された扉を開けるために鍵を見つける── これはややもすれば作業感を生む。それをことごとく嫌って、ほぼ全てをキャラクターイベントに置き換えた。ビザール(奇妙)なキャラを量産する

          KG/Projectのあらまし

          プロジェクトの発足 2019年~ KG/Projectは2019年7月に発足した。 このプロジェクトが目指すのは、ユーザーの中にある『クーロンズ・ゲート』(ゲート)のリブートである。 再起動、ないしは再評価──ともあれ、「ゲート」はSMEからリリース直後、「中の人」が誰もいなくなり、販売権利もSMEから他社へ売却、部署も解体され、長らく管理者不在の「元公式サイト」だけが粛々と動いている状態に陥っていた。 「ゲート」のように属人性の高いコンテンツは、当事者が散逸すると二度と同じ

          ジブンクーロンの萌芽

          「カオスの25年」の補稿です: 「クーロン」リリース当時、プレステソフトは音楽流通にも載っていた。そして耳にした話──東京・銀座の山野楽器で「クーロン」がゲームソフトとしては異例の売れ行きだったということ。 銀座・山野楽器といえばクラシックや吹奏楽で音楽に親しんできた人が中心ユーザーだ。一般向けにCD販売も行うが、当時はオフコースやユーミンの新譜などメインストリーム系のユーザーが多い印象だ。そこでなぜ「クーロン」が──? リリース後、ほどなくして届いた一通の手紙で謎が解け

          ネットワークの無心と有心

          ウィリアム・ブレイクの詩には、無心と有心のバリエーションがある。経験の有無でもあるし、楽園で禁断の果実をかじる前と後とも受け取れる。 さて「クーロン」の話だが、陰界に張り巡らされたネットワークをクーロネットという。「ゲート」ではスチームパンク的な郵便ポスト然としたクーロネット端末にIDカードを差し込んで「電子郵件」を受信するなどしていた(ゲーム的にはセーブ、ロードの機能もあった)── ただしこれは、インターネット元年と称される1995年より前、1994年頃の設定のため、ブ

          ネットワークの無心と有心

          遠心力とジブンクーロン

          今年、「クーロン」リリース25年を迎えて、あらためて感じるのは「クーロン」には不思議な遠心力があるということだ。 一般にゲームでもアニメでも「人気作品」には求心力が備わる。ファンの心をぐっと引き寄せる磁力のようなものだ。遠心力はその逆を行く運動だ。 この遠心力の正体は、リリース後、かなり早い段階から散見された「ジブンクーロン」現象だ。ファンの中にそれぞれの「ジブンクーロン」が生まれ、それが今でも時間をかけて発酵し続けている── この「ジブン○○」で、おそらく世界最大規模な

          遠心力とジブンクーロン

          ヒッピーのゲーム性

          アタリ社といえば、アタリショックと対になって語られることが多い。アメリカでファミコン(NES,Nintendo Entertainment System)が登場する前に、コンシューマーゲーム市場を築き上げ、それをオワコンにしたからだ。 ゲーム機の製造販売とソフトのライセンス生産──ここで、粗製乱造が起きて市場は一気に衰退した。ギネス級の「クソゲー」として有名なのは『E.T.』だろう。アメリカのゲーム関係者いわく── 「ゲームスタートすると、ETはすぐに深い穴に落ちてしまう。ど

          MYSTの迷宮

          『MYST』を買ったのは広尾にあったハイパークラフトだった。1993年の秋のことだ。リリース当初、『MYST』はMacintoshのCD-ROMでのみリリースされていた。 どんなゲームか──端的に言うなら謎の島を舞台にする1人称の脱出ゲームだ。基本システムは、いわゆるクリック&ムーブ型である。 ゲームを進めるには島中のパズルを解いて回らなければならない。一つのパズルが次のパズルのヒントになるなど、緻密に構成された仕掛けがプレイヤーの前に立ちはだかる。またパズルの入力と出力の関

          人間臭い敵AIの魅力

          この2年以上、飽きもせずにプレイしているゲームがある。 『Sniper Ghost Warrior Contracts』(Windows版)だ。あまた存在するスナイパー系タイトルの中でも抜きん出た傑作だと思う。 広大なマップ内にいくつかのエリアが設定されて1つのキャンペーンが構成されている。各々のミッションの内容は、敵アジトに潜入してPCをハックする、敵要人を暗殺した後に所持していたスマホを回収する、兵器を積んだ貨車にC4爆薬を仕掛ける、開発中のウイルスサンプルを回収するな