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これからのスタートアップはユニコーンではなく、ラクダなのか

ユニコーンは角のある、架空の動物だ。スタートアップ企業が持つ上場前の企業価値が10億ドル(約1,000億円)以上に達することは滅多にないことであり、その珍しさから企業価値の高いスタートアップ企業はユニコーンと呼ばれるようになった。この表現はベンチャーキャピタリストのアイリーン・リーが2013年に最初に使い、その後全てのスタートアップの目標となった。

スタートアップ企業では「成長」を最優先とする。豊富な資金、才能のある人材、政府のサポートがあってからこそその成長が期待できる。スタートアップ企業は、短期間で結果を出すためにブリッツスケーリングという戦略を取ることが多い。ブリッツスケーリングは、稲妻・奇襲を意味するドイツ語Blitzと規模の拡大を意味する英語Scale Upから来ている言葉である。ビジネスの初期から積極的な投資を行い、超短期間に爆発的なJ-Curve成長を作り出す戦略である。

しかし、今は「成長」ではなく、「生存」を問う時代である。コロナ禍による不況により、体力の弱いスタートアップ企業が潰れ始めた。もはや収益を生み出せないユニコーンは存在意義がない。「成長」の象徴がユニコーンだったとしたら、「生存」の象徴はラクダだ。ラクダは実存するし、しぶとい上、生命力も強い。

  1. ラクダは実在する動物:架空の動物に例えながら夢を見るのは好況の際にしかできないラグジュアリーである。我々は酷な環境の中で生き残らないといけないのだ。

  2. 水がなくても耐えられる:ラクダは3日間水を飲まなくても背中の脂肪を分解すること水分とエネルギーを調達する。一度水を飲むと素早く吸収し、体に蓄積する。

  3. 適用力が強い:40度以上の高温でも汗をかかないため水分の損失がない。足は砂漠にはまらないように大きいし、熱い砂の上を歩けるように足の裏は厚くて硬い。

さて、ラクダのようなスタートアップ企業はどのような特徴があるのか。彼らは「消耗」ではなく、「バランス」を追求する。

  1. 最初から無料ではなく、適切な課金モデルを提案する。

  2. キャッシュフローの管理に徹する。

  3. 長期的成長を追求する。

無料は「善」と認識される傾向がある。無料サービスでユーザー数を早く稼ぎ、ユーザー数が一定の数に達した際に有料化に転換する。そのため資金をかき集め、投資家からの資金を使ってマーケティングを実行する。競合に勝ためには顧客にさらなるキャンペーンを実施することもある。(読者の皆様もかつての〇〇ペイの争奪戦でも経験しただろう)ラクダ企業において価格は成長の障害にならない。その代わりに品質向上に集中し、最初から最適の顧客群を集めることに集中する。

ラクダ企業は、水がない時には水を使わないし、水が多い時には水を体に蓄積する。長期的成長のため、余計な肉(固定費)を付けないことは常識である。固定費は人件費を含め、企業を維持するために日常的にかかる費用のことである。スタートアップ企業の経営者であれば常にこの固定費を念頭に置き、最悪の状況でも生き残れるキャッシュフローを想定する必要がある。顧客流入の変動費用(マーケティング費)も常に調整しながら増員に対しても常に保守的でなければならない。成長は計算上の成長ありつづけること。それができてからこそ生き残れる企業である。まだ最悪の状況にもなっていないのだ。

ラクダは酷な環境である砂漠でも多くの荷物を抱え、遠くまで行くことができる。生存力と回復力は長期的な観点でとても重要である。リスクは常に存在する。脅威を機会に、短所を長所に変えることこそが長期的成長の秘訣である。遅くても着実に一歩一歩歩いて行くのだ。

スタートアップ企業の経営は短距離競走ではなく、マラソンである。イノベーションは一瞬に出来ることではなく、一定の蓄積された時間が必要なものだ。よって、スタートアップ企業にとって最優先戦略は生存であるべきなのだ。生存力は最適なビジネスモデルを見つけ、プロダクトを進化・発展させ、成長できる方法を探すベースとなる。ビジネスの世界において勝者は最初の者ではなく、疲れず、最も遠くまで行けた者であるのだ。

これからしばらく良いことより悪いことが多いだろう。コロナ禍はしばらく終わらないだろうし、経済成長は低迷するだろう。それに国際政治リスクもある。このリスクが機会となるのは、企業がラクダになり、生存できてからのことである。これから目指すのはユニコーンではない。ラクダなのだ。

<Alex Lazarow, "Startups, It’s Time to Think Like Camels — Not Unicorns", Harvard Business Review (October 2020)>

https://hbr.org/2020/10/startups-its-time-to-think-like-camels-not-unicorns

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