私たちが「POD-ACADEMIC」を始めた理由
金風舎では、研究者向け出版サービス「POD-ACADEMIC」を開始しました。このサービスはPOD出版の利点を生かし、在庫の最適化を行うことで、比較的安価に研究成果を出版できるようにいたしました。サービスの詳細はこちらをご覧ください。
今回は、私たちが「POD-ACADEMIC」を始めた理由について、まず出版とアカデミアを取り巻く問題への選択肢という観点と、つぎに社会や研究の発展につながる選択肢という観点から、その目指すところをお伝えしていきます。
研究者と研究書を取り巻く出版事情
どのような研究課題や実践であれ、文章にまとめることは研究成果の公表のありかたのもっともポピュラーなものの一つです。とくに、著書としてまとめられることで、個別の知識が体系をなし、それが刊行されることによって、その専門知は社会全体に還元することができるようになります。
この社会還元のプロセスは、とくに人文・社会系の研究分野において顕著です。これらの分野では知見を体系化することが重要であり、書籍にまとめるというのはその点で理にかなった方法でもあるからです。
ですから、研究者としての評価の場面で、書籍の業績がいっそう重視されるのも無理はありません。こと人文系の研究者にとっては、書籍(特に単著)の出版は、さまざまある業績の中でも最も評価の高い業績のひとつであり、これがないと狭き門である教員採用公募を勝ち抜くことが難しい場合もあるほどです。学位論文の指導などの、その後必要な能力を考えたときに、体系化する能力の指標となるということでしょうが、昨今ではその傾向がより顕著になってきています(その是非はここでは措いておきます)。
私たちが問題と思うのは、研究者の業績評価がそのような状況にありながら、研究者にとって出版することのハードルが上がりすぎてしまっていることです。
社会還元のプロセスのなかで託されるのが商業出版であるからには、当然ながらその部門で採算が取れることが必須となります。したがって、科研費などの大型の助成金がないと出版するのが難しいこともしばしばあります。これは、それらの研究成果を低く見積もっているからではありません。読者が限られる研究書では、書籍出版はどうしても在庫をかかえるリスクを引き受けることとセットになるため、研究書を得意とする商業出版社でさえ助成金を前提とせねば出版に慎重になるのも致し方のないことです。
一方で、このような状況における研究者の側の精神的・経済的負担も多大なるものです。キャリアの初期の段階ほど、助成金を取れないことが書籍の刊行機会を得られないことに繫がりやすく、それが不安定なキャリアと結びついてしまうと、そこには不健全な焦りや経済的な不安が重くのしかかることになります。
そもそも読者が限られる研究書が「売れる本」の土俵で戦うのは無理があります。それでもなお「売れる/売れない」という市場原理の土俵に置かれ続ければ、意欲的・学際的であるような「売れない研究」を敬遠することにも繋がりかねません。それでは本末転倒です。
私どもは、このような状況の解決策のひとつとして、「POD-ACADEMIC」を提案しています。
時間を超えた「イベント参加」の機会としての出版
「POD-ACADEMIC」が提示したい出版のあり方は、文系に顕著な単著の出版だけにとどまりません。私どもは、理系の研究者の皆様にも大いに使い勝手のよいサービスであるのではないかと考えております。理系の研究者の皆様にとって、書籍出版はあまり身近でないかもしれませんが、理系の取り組みももっと書籍の形になってしかるべきだと私どもは考えます。
文系理系を問わず、プロジェクトの成果としてシンポジウムなどを行うことは多くありますが、それで終了となってしまうことも少なくありません。せっかく意欲的なテーマで行われたイベントが、その場かぎりで終わってしまうのはもったいないと私どもは考えます。
とくに理系の一般向けのイベントやセミナー、勉強会や、シンポジウムなどは、(技術者などを含む)一般の人へ分かりやすく解説されることが多いでしょう。また、小中学生に向けたイベントなども多いでしょう。こういったイベントの内容こそ、まとまったものが手に入れば、とても重宝されるでしょう。
なにより、開催時は存在を知らなかったけれども、その後に関心を持つことだって少なくありません。そんなとき、まさにプロジェクトの成果物の一環としていつでも手に入る形でまとめられていれば、時間を超えてイベントに「参加」することさえできるのです。
研究書だからこそ「ライトに」出す選択肢を
とはいえ、現実問題として、これまでの出版モデルでは、これほど気軽に書籍を出版することは難しいものでした。理由は様々ありますが、なによりも商業出版に伴うリスク=在庫リスクの問題がつねに付きまとうためです。
こんなに意欲的な取り組みがたくさん行われているのに、その場限りとなってしまうのはもったいない。残したい/残してほしいと思う人がいるのに、市場の原理でそれが叶わないのは本末転倒である。
文系理系を問わず、こうした取り組みの蓄積が、誰かの知的好奇心をはぐくみ、社会の厚みとなり、なによりも、まとめあげるという作業の中で研究者自身の更なる構想を育てることにつながってゆく。
このような思いから、「POD-ACADEMIC」では、在庫の最適化を行うことで、よりニーズに合った出版を実現できるようにいたしました。
「POD-ACADEMIC」は、お金をいただいてそのまま出版する自費出版ではありません。著者のみなさまの要望をヒアリングの上、きちんと編集を行い、企画のブラッシュアップを提案し、書籍としてのクオリティを高めます。しかし、販売部数による採算を重視する商業出版でもありません。
「POD-ACADEMIC」とは、書店流通・販売・在庫の最適化を行うことで出版のハードルを下げる新たな出版モデルです。
研究書だからこそ、もっと「自由」で「ライト」に出版できるように。
私たちはこのようなあり方を提案すべく、「POD-ACADEMIC」を始めました。
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