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【後編】広島湾岸TR完走記

A7ーA9(鹿谷広場89.9km)

・区間距離 15.2km(1354m+)
・区間タイム 5h11m
・通過タイム 24h41m(計画 23h57m)
・★阿武山、権現山、武田山

川沿いを2kmほど進むと後半戦最初で最強の阿武山にたどり着く。A7まできて初めて大きな遅れが出たけど、睡魔に負けたのとエイドワークを丁寧に消化したのが原因だろうし、気にしないように努めた。そして「100マイルレースの残り3割は気持ちで走る」というのなら、広島湾岸の108kmを気持ちで走るのはこの阿武山からだと決めていた。

が、ほどなくして湾岸・秋の悪態祭りを始めてしまったんだった。何がハイキングコースや~~岩山やんけ~~3点支持要るぞ~~!と、頭の中の松たか子パネルに白い皿を投げつけながら登り詰める。しかし裏を返すと、岩場というのは傾斜がとんでもないので少し進むだけで標高が一気に上がる。阿武山にへばりついたわたしは「そうは言ってもコスパはいいよな」とポジティブ変換機を起動させ、穴だらけになった松たか子のパネルに謝りながら約500mアップの難所を90分かけて登った。その前の螺山ではセオリー通り10分100mアップだったのが、ここでは倍近くかかったことになる。補給トラブルがあったらパワー不足で登れなかっただろうし、後ろにひっくり返ったら岩で後頭部ぶつけて死ぬだろうなと想像したりもした。あとからyamapを確認したら、この登山口から北阿武山までは破線ルートだったw

ハイキングコースってゆったやんけ

阿武山のピークを越えてマーシャルの方と軽口をたたいて元気をもらい、A8の権現山頂広場を目指す。と言うのは簡単だけどなんであんなハードなところにスタッフさんがいらっしゃるのか、頭が上がらない思いだ。たしかいくつかの山頂には簡易テントが貼ってあって、寝袋を被ったまま立哨していたマーシャルさんもいらっしゃった。レース中にどの場所でみたマーシャルの方も皆わたしなんかより強そうで速そうでかっこよくて、そういった方に見守られながらこのレースを走れることが嬉しかったです。

階段を下ってA8権現山頂広場に到着する手前で、先行していたさわさんに追いついた。キロ4ではなくとも追いつけたことで、未明3時過ぎにしては調子が落ちてないなとポジティブな気持ちでいられた。数値的な裏付けは見つけられなかった(というか当然のように後半に行くにつれて出力は落ちていた)けど、この阿武山から始まる終盤戦が一番気分よく頑張れていたんじゃないだろうか。

SNSなど見ていると多くの人がこの広島湾岸TRについて記録を残し始めていて、同じコース、同じ山でも通過する時間帯が違っていて、その選手が感じた辛さや気持ちももちろん違っている様子が分かる。この阿武山がきつかったという人、そのあとの武田山だったという人、標高や傾斜のような絶対値ではなく、その場所を通過したときに抱いたそれぞれの主観できつさが語られ、たくさんの物語があって、だから長距離レースって面白い。

話をレースに戻す。A8権現山頂広場のエイドの方々は牛のカチューシャをしていた。話を伺うと牛田山という山でつながっている仲間なんだそうで、低山をつないで1周7kmのコースを作ってぐるぐる回っているんだそう。14周回ると100kmになって~などと楽しそうに言うので、みんな似たことやってんだなwとおかしくなった。

おかしかったのはさわさんもだった。「胃の感じが変」だと言う。それまでもずっとエイドの補給食を楽しみにしていて、「食べれていれば楽しい」と言っていたのになんだか苦しそう。薬は持っていないというので、ザックに用意していた半夏瀉心湯を取り出した。どういう薬なのか説明すると、飲むと答える。個人的には、薬をひとに渡すという行為はやりたくない。漢方とはいえ、もしこれで逆に苦しめてしまったらどうしようという気持ちに変わりはなかった。コップに白湯をもらってきて渡して一緒に飲むように促した。一緒にゴールしたいなと思った。

街の明かりがない部分が
これまでに来た山とこれから行く山

権現山から下りてきた場所が大町で、ここには立ち寄ることを楽しみにしていた「俺たちのローソン」がある。広島南アルプスのとりつき部分にあることで地元のトレイルランナーがよくお世話になっているお店だそう。わたしも同じ場所で間接的につながりを感じたかった。

今夜だけはローソン信者

俺たちのローソンを出ると、いよいよレース最後の山塊に突入することになる。最初が武田山で、ここで朝日を迎えた。武田山は市民に愛されるハイキングコースといった感じで(いや結構急ではあったんだけどこっちはもう麻痺しまくっているので加減が分からないw)、コースが複数に分岐していたり途中に休憩できそうなちょっとした広場があったりしてすごい好きな雰囲気だった。今回の広島湾岸TRへの挑戦にあたって九州の友人知人で作ったfacebookコミュニティページの発起人をしてくださった河野さんは広島のご出身で、この武田山で子供のころによく遊んだことを教えてくださった。なるほど子供が遊ぶのにもちょうどいい感じの山で(いや結構急ではあったんだけどこっちはもう麻痺しまくっているので加減が分からないw)、ちょっと頭上が開けた感じなんかは熊本の立田山にどこか同じような雰囲気があるなと感じた。

悪く言えば偽ピーク多めの武田山

武田山を越えて少し下ったところにA9鹿谷ふれあい広場はある。ここはインナーファクトさんが切り盛りするエイドで、首藤さんにお会いできるのが楽しみの一つだったんだけど休憩されているとのこと、残念ではあったけどこんな長丁場の、しかも終盤のエイドステーションなんだから仕方がない。一方で医療担当のビブスを着た方とはここまで何度もお見掛けしているような気がした。きっと何か所も持ち場を回ってこられていたようで、こちらの顔もなんとなく覚えてくださっている。本当にありがとうございます。友人の友人ってな感じでかすかに縁のある方だったと後から知って、世間は本当に広くて狭い。

A9ではランチパックを4分の1切れと、コンソメスープを1杯いただいた。スープが美味い。口の中でピーナツバターがほどけて身体に染み込んでいく。もう1杯いただいてエイドを後にした。計画からはずっと遅れてしまっているけど、ゴールが近い。

「初めて飛行機に乗った時くらい美味いっす」

A9ーFINISH(108km)

・区間距離 18.2km(782m+)
・区間タイム 4h14m
・FINISHタイム 28h55m(計画 28h04m)
・火山、石山、丸山、鍬投げ峠(広島南アルプス)

A9からA10までは火山、石山、丸山、鍬投げ峠と400m程度の山をつなぐ縦走区間で、武田山から始まってこの辺りは広島南アルプスと呼ばれているそう。多くのトレイルランナーが一番好みそうな区間がこの90km以降に登場するなんて本当に憎いというかいやらしいというか。低山を円環に繋ぐ100kmのコースなので確かにロードは多いけど、一つ一つの山にバリエーションがあって楽しかった。木の根っこの張り出しも無いようなスムースな土のトレイルが多かったから、シューズを滑らせながら下っていくスキルがあったら(ない)、もっと楽しくもっと速く走れたかなー。

武田山のあたりから思うように身体が動かなくなってきたというさわさんを待っていないようでいて待ったりしつつ、しかし終盤戦が一番調子よかったわたしはこの縦走区間を気持ちよく走らせてもらった。累積標高が6000m+を超えていて、足裏と四頭筋にしっかりと疲労感はあったけど全体的にはよく動いてて、だからお腹も空いて手持ちの補給食もまた食べようという気分になったし、いつもならつまらないと感じる木段の下りだって楽しかった。

わたしをトレイルランニングに引っ張り込んでくれた友人は「そのコースで一番楽しいところを走れずに歩いてしまうなんて勿体ない」とよく言う。これは前半からバカみたいに飛ばすなということとその時のためにちゃんと練習しろということだと受け止めていて、鍬投げ峠のてっぺんにいたマーシャルさんが言った「極上の下りトレイル」を気持ちよく駆け下りながらその言葉を反芻した。さとみ、わたししっかり練習してきて良かったよ。

農家の方が思わず鍬を放り出すほどの辛い登りに
着想を得て「鍬投げ峠」と名付けられた
(という100%の妄想)

最終エイドのA10には九州からボランティアに参加されていた”山舐め三女”の田中さんと、福岡から応援に駆けつけてくれたクーピーくんが待っていてくれた。残りの10kmはロードと河川敷しかないことが分かっていて、トレイル区間をすべて消化したところに知っている顔があるというのは本当にありがたい。ここまでを振り返るような話をしながらエイドのフルーツポンチとおにぎりをいただいていると、さわさんが何故か号泣しながらエイドになだれ込んできた。どうやら高知のご友人がここで待っててくれたようで、きっと安心して緊張感が決壊したんだろう。泣いちゃう気持ちがすごく分かる一方で、そのままここでしばらく停滞しちゃいそうな予感もしたので、「キロ4で追いついてねw」と先にエイドを出発させてもらった。28時間の目標達成はもう厳しくなっていたけど、だからといってエイドに長居して時間を費やしたりしたくなかったし、この先にあるゴールまでの河川敷を全部走ってレースを終えることが目標の一つだったからだ。

名前をちゃんと聞くのはエピソード記憶を定着させるのに
とても重要なこと。えなみではなくえば。

A10を出発してすぐのところで、サポートと応援をして回っていたローカルゲインの佐藤さんに会う。熊本のまこっちゃんと宮崎のりょうちゃんの二人が5分ほど前にいるという。深夜に見た通過速報だと二人とも2時間近く前方にいたはずなのにな。そんなロングあるあるを追いかけたけど、ペースを上げようにも上がらなくて身体が重い。ぎりぎり余裕を残していたようで、だけどぎりぎり追い込めてたんだろうか。いろいろ考えても仕方ないのでゆっくりジョグで走り続ける。A10に到着する前の丸山でGPSウォッチのバッテリーが切れていたから、今どれくらいのペースで走れているか分からなくて、でも100km走ってきた後だからそういうのはどうでもよくて、野球の練習やBBQを楽しむ週末の光景を眺めながら太田川を進んだ。

しばらく行くとMJとニータさんが何故か居た。応援なのかボラのボラなのか判然としないけど、本当にいい位置に居てくれる。最後までありがとうございました。この先の距離と渡らないといけない橋と、すぐ前に熊本のまこっちゃんと宮崎のりょうちゃんがいることをを教えてくれた。立ち止まって話をすると泣きそうだったからそそくさと先に進ませてもらった。すぐ二人に追いついて、歩きながらここまでのことをお互い話した。りょうちゃんが捻挫してしまったこと、まこっちゃんは暑さ寒さにやられ胃腸の不良にも眠気にもやられレースを満喫したこと。この二人とゴールするのもいいかもなと祇園新橋に上がり、これまで走ってきた河川敷を見遣ると、やや遠くにさわさんのようなちっこい人影が見えた。試しに手を振ってみる、反応がない、もう一度手を振ってみる、振り返してくれる、すげえ、追いついてきた。

ゴールまで2kmほどを残して29hにも間に合わなさそうだったけど、やっぱり最後は淡々と走った。どんな風にゴールしたいすか?と聞いてみると、「でもやっぱこんな感じかな、わかんないね」と言って、ゴールテープを両手で掲げる真似をしてみせた。実はわたしには前日から思い描いていたゴールの姿みたいなのがあって、6月からちゃんと練習してきたことや、28hっていうはっきりした目標があって(全然間に合わなかったけど)丸1日以上のレースを走ってきたことを表現したかった。

最後のカーブを曲がると大会の会場が目の前に現れて、福岡から応援に来てくださった石川さん友納さんがいて、熊本のおがっちと蓮田さんがいて、秋吉台のときにもいたガヤガヤした(最高に好きだ)MCがいて、そしてみんなが見えたから、サングラスを外し忘れてゴールテープを切った。

レースを終えて

ゴールタイムは28h55mで、目標に達しなかったけど辛うじて29hを切っていた。最後の河川敷で計算したときは第2Wからスタートした10分差のこと忘れていたようで、うっかりしていてダサいことこの上ない。だけど、最後までボチボチ走ったことの証拠になるような気がしたし、これからのレースにもつながるだろう。

とっとと片付けて着替えたかったんだけど、身体は重いし頭はよく回ってなくて、ドロップバッグのあるA7でそうしたようにゴール地点でもやらないといけないことをメモにしていたのに、とにかくすごくもたついた。カコナールとOS1を一気に飲んで気分が悪くなり、着替えを終えてゴール会場の雰囲気を楽しんだり、背振月例会のみなさんにゴールをお祝いしてもらってビールを飲んだり、9月の終わりにしてはやたら暑い日曜の午後を過ごした。ちりちりも山村くんも無事ゴールしたし、月例会のメンバーも全員ゴールした。良い日だ。

クーピーくん面倒見てくれてありがとうw

どうにか完走はできたけど、仲間のタイムを参考にする限りではやっぱり24~25時間くらいで完走しなきゃダメだ。計画しているよりも1年早く100kmのレースに参加して、完走はできたけど十分な結果は出せなかった。今の実力じゃほかの100kmレースでは通用しないはずだし、いわんや100マイルレースをや、だ。もっと大きな挑戦ができるよう、下積みの部分にもう一度目を向けていきたい。今すごく良い時なので、だからこそ謙虚にここから先もコツコツやっていこう。

北九州のモナさんに「ポチっとどうですか」と誘われて、その気になって5月のMMPを完走して得た資格で湾岸にエントリーし、しっかり練習して準備して走って、自分の実力がよく分かった。9月に入った辺りから「あたしちゃんと練習してる」と口にして自己肯定を心掛け、体重も目標通り70kgまで落として、当日は自分のことを一度も疑うことなく完走できた。目先のタイムテーブルを追いかけていく作業のようなランニングに疑問を持った時間帯はあったけど、自分にマイルストーンを設定してより大きな挑戦に向かって努力を重ねていくのはすごくやりがいがあるし、何よりたのしい。その表現方法が今はトレイルランニングなのかなー。趣味なんだから難しく考えてもしょうがない。

市内のお風呂に連れてってもらった後でもう一度会場に戻ると、ちょうど制限時間いっぱいくらいのところでランナーさんが次々と帰ってきていた。持ち場の役割を終えて会場に戻ってきた大勢のスタッフさんが選手を迎え入れている様子を少し遠くから眺めていて、大会が作りたかった光景のひとつがこれなのかなと一丁前に思ったりもした。アクセスの良い都市型で、それぞれのエイドやコース上でのホスピタリティが高くて、制限時間が長くビギナーズカインドな設定。結果論だけど初めての100kが広島湾岸トレイルランで本当に良かったです。

ありがとうございました。ありあとあんした。


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