ファンを幸せにするアイデアの作り方〜さとなおリレー塾第三期3回目〜

前回の記事につづき、「さとなおリレー塾第三期」の第3回の記事を書きたいと思います。

今回は、第2回の途中で終わった「砂一時代のファンからオーガニックな言葉を引き出す方法」に加え、第3回のメイントピック「アイデアの作り方」、そして前半3回分を終わっての感想についてまとめていきます。

300枚もスライドを使った講義なので、長くなりすぎました…。(7,000字超え)

第3回の冒頭では、前回の続きの話に入って行く前に、「伝えたい相手を「笑顔」にする(そして社会をちょっといい場所にする)」という目的を忘れないように、という釘を刺されてから話を始めていたのは印象的でした。


ファンからオーガニックな言葉を引き出す方法

さて、前回の講義のなかで「ファンに情報を届けて共感を呼び、その上でオーガニックな言葉で情報を広めてもらうことが重要」という旨のことを書きました。そこで、今回、「オーガニックな言葉を引き出す方法」を紹介されたのは7つの方法でした。

・社員という「最強のファン」の共感を作る。

社員は、長期的に会社に関わる生活者です。彼らが情熱を持って仕事に取り組み、製品やサービスに愛情を感じていれば、社員は会社にとって「最強のファン」であり「パートナー」だと言えるでしょう。

ソーシャルメディアが普及したいま、社内と社外は完全に分かれずに、家族や友だちというソーシャルグラフで簡単につながれる時代です。たとえば、商品のプレスリリースに、社員の熱意、雰囲気がオーガニックな言葉で乗っかれば、彼らの家族、友人、知人の共感を呼びます。また、これは表裏一体で、社員の熱意のなさも伝わる時代になっています。もはや社内の裏と表が使い分けられない時代になっていると言えます。

そんな中、社員をファンにするためには、トップダウンの企業理念ではなく、「意思のトップダウン」と「現場の思い」が一体となった理念を創造し、実践することが大切だそうです。

・ファンをもてなし、特別扱いする。

徹底的にファンを喜ばせることがファンの共感を呼びます。ここでは、ファンを喜ばせるための様々な事例が紹介されました。

-グレイトフル・デッドの例:ファン主導型にした(録音、コピーし放題)。ファンを再優先し、(中間業者を挟まずに)直接売った。(毎回違うライブを行うなど)ファンをもてなした。ファンに(失敗も疑問も)すべて共有し、隠さなかった。

-コカ・コーラの例:Social mediaのつぶやきをピックアップし、個別にクリエイティブを作って返信。その上で、毎日のコミュニケーション新聞を社内で共有。社内も含めた全ての関係者を徹底的に喜ばせることに注力した。

-スラムダンクの例:「買ってくれてありがとう」は生活者目線ではない。もうすでにスラムダンクは作者のものではない。その視点にたどり着いた結果、一億冊の感謝を込めた「場」を作り、ファンにだけ伝わるように伝える、ということにたどり着いた。

ファンの喜びは強い共感を呼び、結果的にオーガニックな言葉となるのです。

・生活者との接点を見直す。

生活者との接点は意外とわずかです。生活者と自社が接している瞬間はいつなのかを把握し、そのタイミングで生活者が素晴らしい体験をすれば、生活者の体験に基づくオーガニックな言葉が生み出されやすくなります。

1986年、1000万人の旅客がそれぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接した。一回の応接時間が平均15秒だった。従って、一回15秒で、一年間で5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の”真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が最良の選択だったと顧客に納得させなければならないときなのだ。「真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか」(ヤン・カールソン)

また、P&Gにとっての真実の瞬間とは、1.店頭で商品を見た瞬間、2.その商品を初めて使う瞬間、の2つと設定されているそうです。

ザッポスでは、「顧客が少なくとも一回はザッポスに電話すること」に注目し、その機会をいつまでも記憶に残る思い出にできるように心がけているそうです。

いまや、商品やサービス、プロモーション以外でも会社と生活者の接点は増えており、そこまで考えを巡らせることも重要です。たとえば、社員が普段接する人に良い体験を提供していたり、会社のことを褒めていたりすれば、結果、社員や社員が所属する会社のファンを増やすことに繋がるのかもしれません。

・商品自体を見直す。ファンと共創する。

前提として、良い商品やサービスを提供しないとファンと関係を作れません。良くない商品を良いものとして売ろうとしても、裏側はすぐにバレてしまいます。

ただし、「良い商品」と一口で言っても、様々な定義ができます。そこで、「ファンに喜ばれる商品」を作るため、「ファンと一緒に商品を作る」共創(Co-Creation)という手段があります。

たとえば、スタバやマルイ、マクドナルドはファンと一緒に商品開発を行い、その会社らしくかつファンも喜ぶものを作り上げました。

ファンにとっての良い製品を、ファンが憧れの会社と一緒に作る経験をして、オーガニックな言葉を引き出さないわけがありません。

・ファンを発掘し、活性化し、動員し、追跡する。

では、そのようなファンをどう見つければ良いのでしょうか

ベーシックな方法として、NPS(Net Promoter Score:推奨者の正味比率)という指標を使って現状の顧客の中からファンを見つける方法を紹介していました。

今回は、具体的な手法はあまり述べられませんでしたが、ファンを特定したあとは、活性化、動員、追跡というように、ファンを少しずつ協力してもらってBrand Advocatesになってもらうような仕組みを作っていきます。

たとえば、ネスレでは「顧客」ではなく「パートナー」という発想で「ネスカフェアンバサダー」という人達がいます。アンバサダーになるには審査があり、通過した「濃いファン」には、職場説明キット、デモ訪問など、彼らの職務をサポートをする様々な取り組みを行っています。

・ファンと共に育つ。ファンを支援する。

AKB48が5年間地道に続けたことは熱狂的なファンの育成です。毎日会えるAKB劇場、最長一日6時間の握手会など、熱狂的なファンが育てば、ファンは自ら発信をしていきます。ファンがファン同士つながっていき、総選挙などではファンがAKBの売上を底上げして、結果的にAKBをファンが育てていくことになります。

広島東洋カープは、ファンのための球場設備、飲食、イベント、グッズをつくり、丁寧なファンサービスを続けています。その取り組みを受け、ファンはもちろん地域や教育期間、メディアからも応援を受け、結果的に売上、満足度、リピーター、紹介者が増加しています。

また、カープはSNS、ネットをほとんど使わないことは特筆すべきでしょう。「砂一以前」の人への「オーガニックな言葉の引き出し方として超優良事例だと紹介されていました。

そう考えると、AKBもオフラインイベントが起点になっています。つながりやすい時代だからこそ、現場に行かないとできない体験が強い熱意や共感を生むのかもしません

・ファンとビジョンを分かち合う

これは、コミュニケーションの目的として設定した「伝えたい相手を「笑顔」にして、そして社会をちょっといい場所にする」の後半にフォーカスをした方法です。

近江商人の「三方良し(売り手良し、買い手良し、世間良し)」は有名ですが、「ファンとビジョンを分かち合う」というのは、この売り手(企業)と買い手(生活者)が協力して、世間(社会)を良くすることを目指す取り組み(CSV: Creating Shared Value)を指します。

『CSV』は、企業が“事業”として、利益を生み出しながら、生活者やNPO、行政などと共に、新しい共有価値を作り出していくものです。

たとえば、ユニリーバがインド農村部の子供の衛生習慣を改善するために石鹸を広めた事例では、売り手と買い手が「衛生習慣を作る」という目標に向かって石鹸の市場を作り上げました。

・まとめ

いままで、マーケティングは「新規顧客をどうとるか」の歴史が主流とされてきました。

その長き習慣によって我々は「ファンベース」と聞いても、「商品やサービスに興味関心ない人に伝えてファンになってもらおう」と考えがちですが、それは違います

「消費する塊」ではなく、「感情と行動力をもつ、ひとりの大切な相手」を笑顔にするためにコミュニケーションを取るのです。

ファンになってくれた人を大切にし、関係を保ち、もてなし、感謝し、優先することで、効率は悪いように見えても結果的に三方良しが実現されるのだと思います。

なお、「大切な相手」は社外の人間だけではありません。上司や役員も強力なファンになるような大切な相手のひとりです。

感情を動かすファンベースの施策は測りにくくとも、ロイヤリティを持つ顧客の重要性や短期(マスベース)と中長期(ファンベース)の施策の組み合わせの意義にも考えを巡らせて、その先にある全員の笑顔を目指したいものです。


アイデアの作り方

さて、基本となる考え方や、色々な方法で人が動いてくれた事例は分かったけれど、そういうアイデアはどのように作れば良いのでしょうか。

・遠いアイデアと近いアイデア

アイデアには「距離が遠いもの」と、「距離が近いもの」があるそうです。

距離が遠いアイデアとは、人々を驚嘆させるもので、「マスベース」にあたります。一方で、距離が近いアイデアとは、人々を共感させるもので、「ファンベース」の取り組みはこちらに該当します。

双方でアイデアの作り方は違うため、ここからは2つに分けて書いていきます。

・マスベースのアイデアの作り方

マスベースでは、インパクトが重要です。「アイデアマン」でなくとも自分とできるだけ距離の遠いものを組み合わせるための方法があります。

-しりとり法:元のお題を考えずに、適当なしりとりで出たワードと元のテーマの組み合わせをもとに、アイデアを連想して作る方法です。自分には思いつかないような発想に辿りつける可能性があります。しりとり以外でも、元もテーマに引っ張られずにランダムな単語と組み合わせられる方法でも良いかもしれません。

-なりすまし法:「自分がマツコ・デラックスだったら」などと誰か具体的な人物になりきって考えます。ただ、しりとりよりはアイデアは遠くに飛ばない手法です。こちらは、特定の状況に合うような企画を考えるときに使えるそうです

その他に、場所を変えてみたり、他の仕事に手をつけてみるなど、もともとの自分の考えから離れるようなことをすると、新しいアイデアは出やすいそうです。

・ファンベースのアイデアの作り方

一方、ファンベースでは「共感されること」を重要視します。

共感を考える際には、「ユニークさは邪魔」になります人と何が違うかではなくて、何が同じかということを考えることが重要です。

他人と違うからこそ、人は「自分と同じところ」を探そうとします。人は同じところを見つけられれば、一歩、あなたに踏み込んできてくれます。

ただし、多くの相手に合わせて「人と何が同じか」という最大公約数の一般論を表現してはいけません。「ファンのオーガニックな言葉」が共感を生み出して広がるのと同じように、自分(自社)もオーガニックな言葉で自分の感覚を伝えないと共感は生まれません。

「普通」な自分の感覚を大切にして、自分の中に深く下りていくことが共感を呼ぶアイデアを生み出すための第一歩だといいます。


リレー塾の「基本」とは?

第3回の内容は以上でしたが、3回目までをさとなおさんは「基本講座」と呼んでいました。

3回が終了したいま、「この講座の『基本』ってなんだったのだろう?」と考えたのですが、それは「コミュニケーションで相手を笑顔にすること」という目的に立ち返り続けること、ではないかという気がします。

これは、この3回で一番聞いたフレーズの一つであり、かつ僕が講座中に一番忘れがちな考えででした。
そんなことを考えながら、今後の講師陣の書籍や記事を見返してみると、「相手を大事にして喜ばせる」という目的を重要視していることがわかるフレーズが沢山ありました。

コミュニケーションがうまくいかないときには、コミュニケーションの基本である「相手とどう向き合うか」というところに立ち戻る必要があります。手段にばかり着目するのではなく、まずは相手の気持ちを想像すること。相手を大切にすること。「SHARED VISION」(廣田 周作) p.007
だって、「使ってもらえる広告」のベースには、生活者に喜んでもらおうという発想があるのだから。こういう広告のやり方が浸透すれば、もっともっと、世の中は便利になるし、楽しくなるんじゃないだろうか。私はそう思う。だからこそ、広告はまだまだ必要だし、みなさんのお役に立てる!と自信をもって断言するのである。「使ってもらえる広告 「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション」(須田 和博) p.009
マーケティングという言葉だけを聞くと、海外の学問という印象が強い。だが、本来マーケティングの役割は「どのような顧客問題を解決するのか」という企業の存在意義そのものであり、企業活動の根本だ。日本企業にとって、マーケティングにおけるジャパンウエーを見いだすことが最も必要なことなのかもしれない。マーケティングの役割 中心は顧客の問題解決 (徳力基彦) :日本経済新聞
広告は、生活者にハピネスを与え、より良い社会に貢献するべきもの」この原則に基づけば、広告コミュニケーションは、ロングエンゲージメントを実現するための大きな役割を演じることができると信じています。「ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか」(京井 良彦)p.227
マーケティングというものがみんなに愛されるものになって欲しいし、インバウンドマーケティングはそれを可能にするものだと思っているんだ。お客さんに愛されるためのインバウンドマーケティングとは? 高広伯彦さんに聞いてきた/【漫画】Webのコト、教えてホシイの!(第12回) | Webのコト、教えてホシイの! | Web担当者Forum
2001年9月11日をきっかっけに僕のクリエイティブ人生に大きな変化がもたらされました。書籍「世界がもし100人の村だったら」という本のプロモーションプロデューサーとして関わり、この本が爆発的に売れて社会現象にもなったことで何かが僕の中で弾けたんです。僕の職能って捨てたもんじゃないぞ!もっと社会がよりよく循環するためにこそ残りの時間を使いたい、と心から思ってしまったんです。それから15年が経過。度々折れそうになりましたが、今年初めて自分の仕事をソーシャルグッドだけにできたのです。クリエティブ表現の力で今「世界平和」「311復興」「防災」「再生可能エネルギー」「電気自動車」「国民的移動インフラ」「無農薬栽培」「企業のCSRとCSV」にチャレンジしています。"famitalkとの向き合い方 - 株式会社famitalk” by 石川 淳哉
透明な時代に、持続可能な経営を求めて。読者の皆さまを、忘れかけていた経営の原点へ、そしてソーシャルメディアで結ばれた新しい舞台へいざなおう。そこにあるのは、社員の幸せであり、顧客の幸せであり、社会からの暖かい共感の声だ。新しい価値観を通じて、人々が幸せとやすらぎを感じる世界が拓けていく。そんな理想社会を実現する一助となれば、著者としてこれほどうれしいことはない。「BE ソーシャル! ―社員と顧客に愛される5つのシフト」(斉藤 徹)p.7

このリレー塾の講師は様々なバックグラウンドや実績がありつつも、共通する部分は、「広告やマーケティング、コミュニケーションによって、相手や社会を大事にし、彼らを喜ばせたり笑顔にしようとしていること」なのだろうと考えています。

手法やノウハウ、実装の話を聞いているとき、どうしても相手のことを忘れ、自分や自社を重視してしまいがちになってしまいます。企業で働いていると上から売上や登録数をKPIとして設定されることがほとんどですし、人は目標の数字に意識が引っ張られてしまうので仕方ないことかもしれません。

しかし、それでも、この共通の目的に立ち戻ること、立ち戻る方法、その上でそれに合う手段を身につけることが、この講座の基本として身に付けるべきことなのだと思いました。


第4回を迎えるにあたって

そんなことを考えていたら、次回第4回の講師の廣田さんの著作では、相手を幸せにするためにユニークなKPIを設定した事例を紹介していました。

実際の運用を始めるにあたって僕が重視したのは、最初はファン数(KPI)にこだわり過ぎない、ということでした。(中略)そこで、僕は、まずは何よりメンバーの士気が重要だと思い、少々の失敗は恐れず、自分たちが面白いと思ったことはどんどん試して見るような、独自の指標を作れないかと悩みました。結局、苦し紛れではあったのですが、僕が提案したKPIは、「打ち合わせの際のメンバーが笑う数」でした。ソーシャルメディアの運用で、最も重要なのは、メンバーが面白がって積極的にアイデアを出すことができる環境を作ることだからです 「SHARED VISION」(廣田 周作) p.161

これは、すごくクリエイティブ取り組みだと思いますし、「このKPIを導入すれば普通のKPIより絶対楽しく仕事できるんだろうな」と簡単に想像できました。

廣田さんの著作や記事を読む限り、他の講師と比べて、(おそらく)比較的現場に近い方だと思いました。今も様々な現場でどのようにオペレーションしていくか、どうチームに協力してもらうか、というところも日々工夫しながら仕事に取り組まれているふうに見えます。今回の講座では、現場でのオペレーションやチーミングの話も聞きたいと考えています。

それでは、第3回も長くなりましたが、このあたりで筆を擱きます。(筆なんか何年も持ってないんですが)


・参考:第3回の参考文献

「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」 (アスキー新書)佐藤 尚之

「明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法」(アスキー新書) 佐藤尚之

「明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法」 (講談社現代新書)佐藤 尚之

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