【毎週ショートショート】穴の中の君に贈る#毎週ショートショートnote
「お~い、お~い」
今日もやって来たらしい天空の民が声をかけてくる。
いつも太陽と重なる、そのお顔は見えないけれど、母曰く、天空の民の方々は天に最も近い人間だからお顔を太陽の光で隠しているらしい。
「天空の方、ごきげんよう。今日はまた一層日が強いですね。」
そう声をかけると、上で何かを落とす音が聞こえた。やや間があいてから、
「君かい?日曜日の御方かい?」
と少し驚いたような、上ずった明るい声でそう話しかけてくださる。
「はい、そうですけど…もしや日曜のお兄さんですか。日曜のお兄さんは水曜にもいらっしゃってるんですのね!」
日曜のお兄さんとも、かれへの叶わぬ思いとも、もう長い付き合いになる。
毎日私たちの住む世界の入り口に来ては、お恵みをくださる天空の民のおひとり。
「…今日は君の好物のイチゴジャムの乗ったクッキーが確かあったはずだよ。数はそうないから君にだけ秘密で贈ろう。」
いつもは日曜に穴の端までくる少女が水曜の今日も来ていた。
母からもらった今日のクッキーは彼女に贈ることにした。
今日はとてもいい日だ。