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あこがれの刺繍帯、偶然が重なった出会い

着物の多くは一点もの。その分お値段がはることもあるけれど、その出会いを大切にするから、そのアイテムを擬人化するのだろうかと最近思う。

着物が好きな人は、着物や帯などのアイテムを「この子」と呼び、購入することを「お迎えする」と表現する。
お店の人も、商品が売れることを「お嫁に行く」と我が子のように扱う。

一点ものだからこそ、慎重に吟味して心の真ん中にストンとハマるもの、「この子をお迎えしたい」と我が子のように思える出会いがある。
それは、今まで洋服ではなかなか湧き起こらない感覚で、私が着物に触れるようになって感じる特別感のひとつでもある。

手持ち単衣の帯合わせに悩んだ昨年の夏

きっかけは、手持ちの単衣に合う帯の相談をしたことでした。
我が家では通称「竹ちゃん」と呼ばれている単衣があります。

シボ感のある近江ちぢみで、暑い季節にもサラッと着ることができる5〜8月に活躍する子。

昨年この竹ちゃんをお迎えしたのですが、手持ちの帯との色合わせに悩んでいました。
鮮やかな緑色なので、青みの強いブルー、ピンクや赤系統はケンカをしてしまいハマらず。
気づけば、白ベースの博多織の名古屋や半幅帯ばかりを合わせていました。

昨年はほぼこんな感じ

それはそれでスッキリして好きなコーデなのですが、いつもそればかりでは少し面白みが足りない…
そう思っているうちに季節は秋になり、竹ちゃんの出番は来年に持ち越されていました。

プロに相談してみた。相談だけのはずが…

心のどこかで気になりながら、気づけば年が明けて暖かい春が訪れようとしていました。
別の用事のついでに、お迎えしたお店でもあるいつもの着物店に竹ちゃんを持って行き、どのような帯を合わせればいいのか、相談してみました。

提案としては、黄色ベースであれば濃くても薄くてもどれでも合う。白や黒ベースも同様に合うとのこと。
そして青みの強いブルーや赤系は合わせにくい。と説明しながらお店にある帯をいくつか実際に当てて見せてくれました。
(この辺りのやり取りは膝を突き合わせて相談できる実店舗の強みだなと感じます。)

猛烈に気になるアイテムとの出会い

そんな中出てきたのが、今回の主役になるこちらの帯。

青い色ですが、どちらかというと緑がかった青だから、竹ちゃんに合わせてもケンカはしない。

暑い季節に着る着物だから、金魚が涼しげに見えて素敵に映ります。
そして、先に購入を決めていた黒の雪花絞りに合わせてもこれまた合う。

竹ちゃんは着物と帯で馴染む感じだけど、雪花絞りは金魚の帯が引き立てられて泳ぐ姿が楽しそう。

この帯は、藤井絞さんのもの。
金魚の部分は刺繍で、水草や泡を絞りで表現されています。
刺繍は横振りミシンという機械で打たれているそう。
機械と手作業のハイブリッドで縫い込まれていて、これができる職人さんも少ないそうです。
刺繍の細かさはもちろんのこと、絶妙な色の組み合わせかたで金魚に立体感があります。

よく見るといろんな色が使われています

刺繍ならではの立体感、金魚の表情の豊かさがなんとも可愛い。

その金魚の存在感を引き立てるように、絞りの模様が寄り添います。
水草と泡があることで、金魚が水の中で泳いでいることがイメージできます。

帯全体における、刺繍と絞りのバランスの良さが派手すぎず、控えめすぎずで私の好みにドンピシャでした。

そして新たな事実が発覚

新品の刺繍の帯なので、お値段はそれなり。
それでも、予想した値段よりもお財布に優しい価格でした。
そうはいっても高額なので、しっかり見せてもらって一旦は帰宅、数日どうしようか考えていました。

欲しいのは山々だけど、安い買い物ではない。
でもこの刺繍の帯がこの値段で買えることはまずない。
そして今お迎えしなかったら同じ商品に出会うことはまずないため、買わなかったら後悔するような気もする。

と、あれこれメリットデメリットを考えあぐねて、購入するかどうかを夫と話していたちょうどそのとき、着物店からこんなDMが届きました。
「片貝木綿、本日水通しから帰ってきました!つい出来心で合わせてみたら、バッチリ決まっちゃいました 笑」

それは、1ヶ月ほど前に「ガシガシ使える着物が欲しい!」とこの着物店で選んで購入していた片貝木綿にも、金魚の帯が合うという連絡でした。

この片貝木綿を購入することになった経緯や、誂えならではの工程やその楽しさの詳細はこちらの記事にまとめています。

思わず夫にもそのDM画面を見せ、大笑いしながら、どこか心の真ん中にストンと落ちるものがありました。
もちろんこれら一連の出来事は偶然だけれど、帯との出会いやDMのタイミングの良さに、この金魚ちゃんに呼ばれているような気持ちになったのです。

納得した上でお迎えする

そんなやりとりがあり、あれこれ悩んでいたことも吹っ飛び、金魚ちゃんの帯をお迎えすることにしました。

・実際に手持ちのアイテムと合わせながら見ることができたこと
・職人さんの技法をプロの視点から説明してもらえること
・着用シーンや季節など具体的な相談ができること

気の知れた着物店が近くにあることは本当にありがたく、私のふだん着物ライフが充実したものになる大きな役割を果たしているなと実感しました。

そんなこんなで金魚の帯を仕立ててもらい、お迎えすることができました。
京都オフ会の参加にも間に合い、片貝木綿と黒の雪花、それぞれに金魚の帯を合わせて2日間を楽しんできました。

初めましての方たちに、もれなく「金魚かわいいー!」と言ってもらえてとても嬉しく、幸せな瞬間でした。

そして図らずも、黒の雪花絞りと金魚の帯で藤井絞りコーデが完成し、着物店の方の提案もあり、そのコーデで藤井絞りさんへお邪魔し里帰りさせてあげることもできました。
この「里帰り」という表現もまた、着物のアイテムを大切にしている感じがありありと感じられて、「やっぱり着物っていいな」と感じました。


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