あけましておめでとうございます。
2023年もたくさんの作品と触れ合うことができました。
今回は小説も映画も取り混ぜながら、順不同でご紹介。
映画 : ラーゲリより愛を込めて
まっすぐに、言ってしまえば王道な展開に、腕を組みながら観ていたのがいつの間には惹き込まれ最後には涙していた。出演者の演技もとてもよく、特に安田顕さんが素晴らしかった。これが実話なことにも衝撃。
小説 : いけない (道尾秀介)
小説という商品を改良しようと、道尾秀介が仕掛ける新たな小説の第一弾。
短編ミステリーとして読む1回目も面白いし、最後の1枚の写真でまた読み返したくなる。東野圭吾「どちらかが彼女を殺した」のように明確な答え合わせをしないので2回目どころか何度もページを戻って楽しめる。謎解き好きな人にもオススメ。
「いけないⅡ」「きこえる」も発売中です。読まないと。
映画 : ヒトラーのための虐殺会議
映画的なストーリー展開は無いと言っても良いくらい、それぞれの立場で主張しつつもただ淡々と会議が進んでいく。それこそどの会社でもあるように、多少の異論が出ても両者を尊重しながらうまく落とし所を探るような、そしてちゃんと結論が出てよかったねと終わっていく。この空気感についつい退屈になってしまいがちだが、そもそも議題が大量のユダヤ人をどう虐殺するかであり、虐殺することの是非には誰も触れないし当たり前の大前提であり誰も疑問に思っていないことを思い出し、その異様さを再確認する。そんな映画でした。
小説 : 本のエンドロール (安藤祐介)
印刷所が主役の仕事小説。出版社ではなく印刷所。紙の選定とかインクの調合とか原稿からゲラ作るとか、印刷だけに1文字のミスも少しかすれも許されないシビアで職人技の光る世界。仕事に対するモチベーションやパワーをもらえる作品。
映画 : バイオレント・ナイト
こういう、頭を空っぽにして観られる映画もまた良い。サンタクロースが主人公ながら、全く夢も希望も無いし躊躇なく人を潰すし、ホーム・アローンっぽいって言っちゃうし。
映画 : BLUE GIANT
これはもう、言わずもがな。音楽へのリスペクトがすごく、演奏シーンでは余計なセリフもシーンも挟まなずたっぷりと全力のジャズを聴かせる。音響にこだわった劇場で観て大正解。山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音の俳優さん達の演技もすごくよかった。
小説 : 同姓同名 (下村敦史)
幼女虐殺事件の犯人である16歳の少年A。週刊誌が実名を暴露。それを頼りにネット民がSNSアカウントや住所、親の職業を特定する。叩く、叩きまくる。同年代の同姓同名というだけの全くの別人だとしても、勝手に晒され白い目で見られ。登場人物全員、同姓同名。こんなぶっ飛んだ設定で読みづらさもなく成立させてしまうのがすごい。平野啓一郎「ある男」とは違った角度で、名前の記号性と唯一性を問う。
映画 : エゴイスト
なんと言っても鈴木亮平の演技の幅よ。孤狼の血であれだけ怖かった人と同一人物とは思えない。飲み会からの帰り道、ヴォーギングを踊りながらキャッキャするシーンがほぼアドリブだと聞いてさらに感動。演じているというよりも浩輔そのものがそこに居た。
小説 : 本日は大安なり (辻村深月)
2011年発売なので10年以上前の作品。4組のカップルとウエディングプランナーの群像劇。全てが同時進行で、それぞれにクセがありながらうまく絡み合っていて、三谷幸喜作品が好きな人にはすごくオススメ。映画化したら面白そう。
小説 : かあちゃん (重松清)
かあちゃんを軸にした、赦すこと/赦されることの短編8作。そしてイジメをテーマにした作品でもある。交通事故を起こし同僚を巻き添えにして死んだ父の罪を背負って幸せになることも笑うことも禁じた母、親友がいじめられたけど傍観者にしかなれなかった少年といじめた少年、認知症の祖母と介護する母と暮らす少女、優秀な教師を母にもつ新米教師、再婚した母の妊娠を知った娘。説教臭くもなくご都合主義でもない、まっすぐ心に届く。こういう作品を教科書に載せてほしい。
映画 : search/#サーチ2
PC、スマホの画面だけで構成された映画の第二弾。だいたいこのパターンは前作を超えることなく終わっていくものだけれど、全然そんなことなかった。あらゆるツールを駆使するのでデジタル好きな人におすすめ。
小説 : 壁の男 (貫井徳郎)
こんな地味なタイトルで、地味な表紙で、あらすじ読んでもまだ地味で。正直、何に惹かれて買ったのかも忘れたけど、これがすごく良かった。芸術的であるわけでもなく、町おこしなんて下心もなく、ただ描いて欲しかったという絵。それぞれのその経緯がすごく深くていろいろな角度からじんわりと沁みる。すごく良い本だった。こういう作品が見つかるのが書店の真骨頂。
映画 : ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
マリオの実写化なんていうとてつもないハードルを見事に超えてきた。ちゃんとマリオ、全部マリオだった。ありとあらゆるシーンにこれまでのマリオ作品が散りばめられていて、それを追いかけるだけでもう楽しい。完璧。
小説 : 法廷遊戯 (五十嵐律人)
学生時代と弁護士になってからの二部構成リーガルミステリー。当然ながら法律の難しい用語や言い回しは出てくるけれど、でもわかりやすく、それでいて法に裏打ちされた奥深さ。2023年冬には映画化もされました。
小説 : 正欲 (朝井リョウ)
多様性なんて言葉、これを読んだら軽々しく使えない。結局マジョリティ側が”許す”範囲を決めてるだけだし、そもそもなんで勝手に”許す側”に立ってんだよってことだし。多様性多様性言ってる人たちの横っ面を思いっきり引っ叩く、そんな作品。排除も隔離もする必要はないけれど、上から目線でさも理解がありますよ的に包摂するのではなく、無関心に包摂することなのよね、きっと。
映画 : 最後まで行く
2014年に韓国で製作された映画の日本リメイク。情けない岡田准一と狂気の綾野剛。ラストシーンはまさに「へ」の字になった綾野剛の顔に注目。
映画 : リバー、流れないでよ
「ドロステのはてで僕ら」の製作チームの今回のテーマは、2分という短いタイムリープ。主人公だけでなく全員引き継がれる記憶。当然、登場人物すべてがタイムリープを理解したうえでの試行錯誤。「私、初期位置あそこなんで」みたいな会話とか、試しにちょっと死んでみたりとか。旅館とその周辺だけでもこれだけ面白い作品になるのはさすが。
小説 : 逆転美人 (藤崎翔)
筒井康隆「残像に口紅を」に代表されるような文章全体を使ったトリックに目がない皆様、お待たせしました。美人は得じゃないんです。むしろ損なんです。って文章が延々と続く。と思ったらなんですかこの仕掛けは。思いついたとしても実行する勇気と成立させるとてつもない労力。すごい。
映画 : 遠いところ
17歳、子持ち。働かない旦那。頼みのキャバクラもガサ入れの結果働けなくなった。「映画、ではなく現実」というフレーズの通り、盛っている感はどこにもなく、貧困の現実を直球で突きつけてくる。沖縄が舞台で方言が強く何言ってるかわからないところもまたリアル。この状態から這い上がれる方法は残念ながら全く思いつかない。
映画 : 福田村事件
関東大震災のあと噂やデマが蔓延、朝鮮人(注:劇中表現)は見つかったら殺され、朝鮮人の疑いをかけられた日本人も村人たちに虐殺された史実。加速した集団心理はもう止められない。冷静に考えれば、自警団なんてものができた時点ですでに加速は始まっている。そして令和6年能登半島地震でも似たような言動がSNSで散見される。。
映画 : ミステリと言う勿れ
原作も面白いし、ドラマも面白いし、当然映画も面白い。説明不要。原作・ドラマを見ているならぜひ観よう。
映画 : 月
神奈川県で発生した精神障がい者施設での殺傷事件をモチーフにした作品。綺麗事が言えるのは自分が当事者でないから。高年齢出産だから堕ろそうとしたんでしょ、出生前診断しようとしたんでしょと自問自答する宮沢りえのシーンがまさに。重いけれど、それだけ作品にする意味はあるのだと思う。
小説 : 六人の嘘つきな大学生 (浅倉 秋成)
就職活動という名の閉鎖空間での心理学実験。これだけでも充分に面白いのに、まだ前半パート。そして期待を裏切らない、いやむしろ裏切られ続ける後編。設定のキャッチーさも相まって各所で話題になるのもよくわかる。映画化も期待。
映画 : TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
その手を握って、talk to meと言うと霊が見える。さらにlet you inというと憑依される。その時のトリップ感にハマって、ドラッグのごとく順番にキメまくる若者たち。そして発生する事故。霊がいるかいないかのせめぎ合いなんて取っ払って、憑依をキメすぎちゃったあとに特化したホラー。秀逸。
最後に
あまりにも有名なものは改めて紹介するまでもないので割愛。⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎とか首とか怪物とかコナンとか仮面ライダーとか。
2024年もいろんな作品に触れたいものです。今年もどうぞよろしくお願いします。