『マザー・スノー』優希のタラント③
(やってみたい。正直凄く興味がある。)
一見、廃棄の菓子パンを食べることだけが生き甲斐であるかのように思える幸が薄めな優希だが、唯一楽しんでやっていた業務がある。
それは「販売促進用のポップ広告作り」。
店が特に売り出したい商品を目立たせる為に展示される広告のことだ。
ポップ広告のPOPとは、英語で「Point of purchase(購買時点)」の頭文字を取ったものであるらしい。
筆者自身、たった今グーグルで調べて知った次第である。
「ポップ=なんかかわいいやつ」位の認識であった。お恥ずかしい。
子どもの頃、ひとりっ子の優希は家でひとり遊びをすることが多かった為、自ずと画用紙やクレパスに色鉛筆を手にしては、架空のお姫さまのイラストを描いたり、空想上の生き物などを工作したりしていた。
そして妙にそれらが上手く、小学生時代はクラスメイトの女子たちから「アニメのキャラクターの〇〇を描いて!」とねだられるなどの無償労働(イラスト描き)を強いられることも少なくなかった。
こうして優希は、小学校という、些末なことで直ぐに仲間を忌み嫌うような、純粋であるがゆえに幼稚な者たちの集合体の中で、取り分けコミュニケーションが難しいその時代をサヴァイブすることに成功したのだ。
しかし優希にとって、自身の作品で他人が喜んでくれることは、意外にも喜ばしいことであった。
それは現在においても同じなのである。
「この応募用紙に思いついたキャラクターデザインを描いて欲しい。一応予備でもう1枚渡しておくね。期限は今月末だから、あと3週間あるよ。
最優秀作品に選ばれたら、賞金10万円だって!凄いな〜!!」
優希は愛しの板チョコパンを咄嗟に両の膝で挟み、その応募用紙を両手で受け取った。
そして目を大きく見開き、口をパックリ開けたアホ面で応募用紙を凝視した。
「ユキちゃんって何気に絵心あるよね。ポップ見てたら分かるよ。せっかくなんだから、チャレンジしてみたらどうかな。駄目で元々って感じで、あまり気負わずにね。」
店主の織田はそう言ってまた、パソコン画面に向き直って、発注内容に修正をかける作業を再開した。
優希はアホ面のまま、応募用紙から未だに目を離せないでいる。
膝に挟んであった板チョコパンを手に取り、ふらふらの足取りで休憩机に移動し腰掛けた。
用紙を机の上に置きつつもまだ凝視しており、パンの袋をおもむろに開けて本能のまま喰らいついてもなお、じっっっっと、眺めている。
(私は、、、。
ただ今までは漠然と、周りに流されて生きてきただけだった。
でも待ってたのかも知れない。きっと、こんなチャンスが来るのを・・・。)