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『マザー・スノー』覚醒スレバ、発令セヨ②

『Don't use your talent now』

『Don't apply for the competition』


木造り階段の「あの5段目」が、下から何かに照らされているかのように、マッチ棒の灯りのような明るいオレンジ色で、妖しく光っている。

今日の木目模様は陽炎のように揺らめきながらも、明確な文字の形を表し、何かを強く主張していた。


『パチャッ!』


欲張ってグラスに波々注いだ牛乳が、表面張力に耐えかねて、僅かにこぼれる。

優希はとっさに牛乳を『ゴクン』とひとくち飲んだ。

そして履いたままの靴下の裏面で、床に少しだけこぼした牛乳を、横着にも足で拭き取る。

すぐさまその階段の文字に目をやり、
その実、非常な驚きを抱えながらも、彼女はこう呟いた。


「ここは、、、日本や、、、。」



昨夜は遠慮がちに現れかけては消えていた、階段に出現する謎の木目文字。

それがようやくハッキリ現れてくれたかと思いきや、まさかの英語表記であることに優希は心底がく然とした。

何故なら彼女は学生時代に、英語に関しては「アイ・マイ・ミー」の時点で、既に大きくつまずいていたからである。

その上「過去完了進行形」という、日本語として余りにも非日常的かつ、最も難解な呼称を目の当たりにしたとき、彼女は

「あ、これは無理やわ(笑)」と薄ら笑いを浮かべながら、授業中であったにも関わらず手元の鉛筆をパッ!と手放した。

まるで賽を投げたかのように。

だから彼女にとって、それ程英語はお手上げ状態なのだ。

「ドント……Don'tは、ホニャララするな!みたいな禁止の意味だよね。useは…使う、みたいな意味だから…。」

必死に読み解こうとはするものの、このままでは朝を迎えてしまいそうである。

「せや!写メして英語辞典で調べたら良くない?賢い私!」

賢ければ読めているはずだ。

優希は急いで階段を駆け上がり、牛乳の入ったグラスを勉強机に置いて、ガラケーを手にし、また戻ってきた。

『パシャリ!』

「これでよし。ちゃんと映ってる。待ってろよ〜!」

鉄は熱いうちに打て!と言わんばかりに、これまた急いで自室に舞い戻る彼女。

高校を卒業して以来、勉強机の上で4年間手つかずのままだった英和辞典を取り出した。
軽く埃を払い、中は綺麗なままのそれを広げると、新しいインクの匂いがする。

「よし。じゃあさっき写メった画像を……。
えっ」

そこにはただの階段しか映っていなかった。




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