『マザー・スノー』龍の記憶~消えかかりの未来にて~①

俺の名は、龍。ブタゴリラ・・・俺の父親は、自分の名前の『虎之介』にちなんで『之介』を付け加えたが、俺の名は『龍』。


だって、母子手帳に『この子の名前は、龍です。』って、書いてあったから。だから、俺の名は『龍』。


大体『虎之介』『龍之介』って、あの父親とも思いたくもない奴と、妙なセット感出されて、正直、キモイ。無理。


俺の母親は、出産してすぐに死んだ。


ブタゴリラは俺の母親のことを、「あいつは甘やかされて育った、弱っちい一人っ子だった。だから、ちょっとのことですぐ死んだ。」と言っていた。


だけど、叔父(ブタゴリラの一番上の兄)から聞いていたが、母親は妊娠中もあいつから暴力を受けていて、俺を早産して亡くなった、と。


母方の祖父母の顔は見たことがない。ただ、どうやら母方の祖父母は当時、金に困っていたらしい。母に一目ぼれしたブタゴリラから金をチラつかせられ、大金と引き換えに娘(俺の母親)を渡したようだ。


これは親戚の集まりで皆が噂していたのを、子どもの頃にこっそり盗み聞いた話。


世の中にはブタゴリラのような、実の子にも容赦なく手を挙げるだけでなく、『手を出す』ような、完全に倫理観も何もかも破綻している、親とも呼べない親もいれば、シンプルに金に目がくらんで子どもを引き渡すような親もいるんだな、と思った。


子どもって、ひょっとしたら親の私物なのかも知れない。


だったら、俺は親にはなれない。絶対。
生ではヤラナイ。絶対。


俺にもあいつの血が流れているし、母方の祖父母の血も流れている。だから、自分が一体どんな親になるかなんて・・・。正直、保障できない。俺の元に生まれてくる子を、もしかしたら酷く傷つけてしまうかも知れない。無意識の内に。


ブタゴリラは俺の母親のことを「甘やかされた甘ちゃん。」と罵っていたが、「お前以上に甘やかされて育った人間の方が、世界中回っても見つけ出すのが大変だろう。」と俺は思う。


ブタゴリラの祖母、俺の曾祖母は物凄い資産家だった。曾祖母には二人の息子がいたが、二番目の息子がまだ幼いころに、流行り病か何かで亡くなったらしい。


その亡くなった息子と、金太郎飴みたいに瓜二つだったのが、ブタゴリラ。俺の父親だ。


何を血迷ったのか、曾祖母は、三番目の孫息子であるブタゴリラに、亡くなった息子と同じ名前を付け、他の孫たちと明らかな差をつけて、目からブタゴリラを丸のみにする勢いで溺愛した。


あのババァ、ほんと、ばかなんじゃないだろうかと思う。

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