『マザー・スノー』この地上にある問題点の原因
『地球人見守り隊』
その文言に対して、優希の中からある疑問が浮かぶ。
その疑問は一瞬にして、彼女の腹の中から湧き上がっては口から滝のように溢れ出た。
「『地球人見守り隊』って、一体何やねん。
ふざけとるんか?見守り隊が居ても、地球はこの体たらくなん?!
飢餓、紛争、貧困、差別、虐待、殺人…。
この世の苦しみの何もかも、ただ黙って見ていただけなん?逆に腹立たしいわ!!」
ちゃぶ台をひっくり返す勢いで憤る優希。
「………そのことなんだけど、説明するのがとても難しい。約束があるんだ。
自称『地上の管轄者たち』との。
いわゆる『最期の審判』で、全ての魂に裁きを下すのは地上の内の誰でもなく、
『上から来る存在』による。
だからそれまでは、地上の出来事にはあまり関与するな、と。
地上の管轄者たちは言っている。」
「そんなん、無視しろや!無視して世の中の苦しみを、一切合切終わらせろ!!」
彼女は鼻息荒くまくしたてた。
アデルは困惑しながらも、話を続ける。
「それが、中々そうもいかないんだ。
何故なら、地球人の多くの人間が、その、
『地上の管轄者たち』を無意識に支持しているから。
支配欲、権力欲、他者を見下すことで得られる快楽に溺れ、多くの地球人がそれらを常に追い求めている。
それらが全ての問題の種であるにも関わらず、だ。
中には、ひとときの『運』と引き換えに、自分の内面の塩分を知らず知らずの内に、地上の管轄者たちに差し出している地球人たちもいる。
地上の管轄者たちには肉体が無いから、内面に塩分を蓄えることは出来ない。
ただただ存在が膨れ上がる。
そしてどんどん巨大化していっている。
君たち地球人は、言わば奴らの人質なんだ。
出来れば地球人全ての内面の塩分を吸い取って、自分たちと一緒に溶鉱炉に連れて行くことが、奴らの最終目的だ。」
……とてもじゃないけれど、マカロンを頂きながら出来る話ではなかった。
アデルの話の全てを噛み砕いて飲み込むことなど、今の優希には到底出来ない。
しかしこの地上にある理不尽の大半は、人間の手によって生み出されているのもまた事実。
皆、誰かが誰かの取り分を奪い取って生きている。
貧しい国から安価に搾取し、先進国は潤ってきた。
例えば親が子どもを支配し、抑圧し、子どもの時間も感情も可能性すらも奪い取って搾取する構造は、まさに地上の理不尽さの縮図。
しかしその親もまた、自らの親から搾取されてきた場合も多い。
自らの親が返してくれなかったモノを、無意識に我が子から奪い取ろうとするのだ。
仮に『地上の管轄者』なる者たちを一掃したとしても、権力欲や支配欲に塗れた人間の魂が地上に留まって、新たな『地上の管轄者』になるのかも知れない。
「じゃあ『地球人見守り隊』の仕事って、
結局のところは何なん?」
実を言うと『地球人見守り隊』の任務こそが、この地上に蔓延する負の無限ループを終わらせる可能性を秘めた、重要な鍵なのだ。
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