LOCAL SOUND STYLEが再びステージに上がった日
2020年2月24日
僕は人生2度目の青森県を訪れた。
9年前、大学院生として学会に参加するために訪れて以来だ。
その時も目的地は青森県弘前市。
なつかしいなーと思いながら弘前に降り立ったのだけど、笑えるくらいに駅前の光景に見覚えがない。
唯一覚えていたのはポストの上に鎮座するリンゴのオブジェだけだった。たしか他大学の人達と酔った勢いで写真を撮った気がする。
思い出を掘り起こすのも諦めてホテルに荷物を置き、20分ほど歩く。
幹線道路沿いには除雪車で積み上げられたのだろう雪が点在していて、瀬戸内育ちの僕はこれ以上なく心躍らされた。触ってみると冷たいのだけど、それは雪というよりは安物のかき氷のようだった。
目的地の場所はすぐに見つかった。
弘前の老舗ライブハウス Mag-Net
1997年の開業以来、この北の地で音楽を響かせてきたハコだ。メロコアバンドのツアースケジュールに組み込まれているのをよく目にしていたが、西の人間からするとあまりにも遠く、行きたくても行く機会のないハコの一つだった。
そんなマグネットが今年の3月をもって閉店するという。
そのニュースはSNSでも話題になり、また一つライブハウスという文化が失われるなぁという嘆きが溢れていた。
そんな最中、とあるバンドがマグネットでワンマンライブを行うというニュースが飛び込んできた。
LOCAL SOUND STYLE
弘前で生まれ、マグネットで別々のバンドとしてしのぎを削り、東京で再会して結成されたバンド。
そして、僕が愛してやまないバンドでもある。
当時のインディーズシーンはELLEGARDENロスを受けてかメロコア、パンクが優勢だった。今ほど市民権を得ていたとは言い難く、古のハイスタ世代やアンチJ-POPなはみ出し者が小さなライブハウスに集まってはもみくちゃになっていた。
そんなシーンにエモで殴り込みをかけたローカルの洗練された美しいメロディーはたちまち話題となった。
今やすっかり大人気バンドとなったHEY-SMITHやBIGMAMAたちとの対バンを重ね、the HIATUSのツアーサポートに呼ばれるなど確実にシーンで一目置かれる存在になっていたし、どんどんでかいステージに登っていくだろうなと思われていた。
人気が高まり続けていた2011年6月9日、彼らは突然活動休止を宣言した。
休止前のラストライブは翌日、青森の亀ハウスで行うという。
今ならなんとしても行こうと算段をつけていたかもしれない。
いや、あの時でも行くべきだった。何を犠牲にしても見届けるべきだった。
mixiで得た情報によると、MCは一切なし、曲だけをやって最後はベースの黒瀧さんが荒関さんにドロップキックを見舞って終わるという後味の悪すぎるものだったという。
そのライブを最後に8年8ヶ月、彼らは何も情報を出すことはなかった。
唯一あったのはボーカルの荒関さんに何らかのトラブルがあり、脱退を決めたというお知らせのみ。
ローカルに出会ってからは毎日曲を聴き、西日本でライブをやるなら四国だろうが中国だろうが関西だろうが、果ては九州へもウキウキで遠征していた。遠征のためなら学業もバイトもそこそこには頑張れていた。
だからこそ、休止が決まってからローカルの音楽が聴けなくなってしまった。
大げさでもなんでもなくて、活動休止が発表された日から彼らの曲を聴くことが怖くなって、僕のWALKMANからLOCAL SOUND STYLEというアーティスト名は消えた。
復活する日まで曲を聴き続けて待っていますなんて、お手本のようなファンではいられなかった。
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それから数年経ったある日、酔った勢いもあってThe Symphonyというシングルに付属しているライブDVDを再生した。
渋谷CLUB QUATTROで行われた、持ち曲を全てやるというコンセプトのライブで、もちろん僕も参加していた。
1曲目のStarting Overの冒頭で「がっつりいこうぜ渋谷!」と荒関さんが叫び、つられるように声を張り上げるオーディエンス、一気にトップスピードで演奏になだれ込むゴスケさん、黒瀧さん、こーすけさん。
あぁ、僕の大好きなバンドのライブだ
何度も何度も何度もライブハウスで見てきた光景だ。
数年ぶりに聴いたのにメロディーも歌詞も覚えていて、シンガロングやクラップのタイミングもバッチリで我ながら驚いた。
本当に好きだったんだな、でももう観ることは叶わないのかな、DVDを観ながら涙を流したことをよく覚えている。
彼らの曲を聴くことにも抵抗がなくなってもライブを見られるわけじゃない。昔を思い出しながら聴く日々を過ごしていたところに舞い込んできた復活ライブの知らせ。
青森で開催だろうが、3連休の最終日だろうが、そんな些細なことはどうでもよくて、ローカルに再び会えるならどんな手を使ってでも行ってやる。総決意して挑んだチケット争奪戦には破れたけど、Twitterでようやくチケットを確保し、問答無用で有給を取得して挑んだ当日。
SEのシガーロスのHoppipollaが流れてメンバーが登場し、徐々に同期音が大きくなってカウントが微かに響いたところで、きっと誰しもが確信した。
Maybe you don't see the way your life is gonna be
Don't you ever blame on yourself, It's over and won't be back
If you're last and hesitate to go beyond the line
Set your goals and draw your dreams today
When you sing my melody
Starting Over
セカンドフルアルバム「HOPE」のオープニングナンバーで、このアルバム以降のほとんどのライブの1曲目を務めてきた曲。
ローカルのライブの始まりを告げる曲。
きっとこの曲で始まるんだろうなと予想していて、まんまとその通りだったのに頭が追いついていかない。
役に立たない頭を置き去りにして腕を突き上げ、喉を震わせた。
約9年ぶりのこの時を待ちわびていた会場中が一つになり、とんでもないシンガロングの塊になる。
懐かしさとか感動とかエモさとか、そんな感情よりも衝動が上回って気づけば前方に突っ込んで人の上を泳いでいた。
それでもなんか信じられない。
またローカルのライブが見れているなんて!
ようやく正気を取り戻したのは最初のMCの頃。
黒瀧さんの相変わらず?以前にも増した?訛りまくりの言葉で、これまで待たせたことへの謝罪や再始動に至った経緯、こんなにも客が集まったことへの驚きが伝えられた。
活動休止の原因があまりにも謎だっただけに多少こちらも身構えていたところはあったのだけど、そんなわだかまりを感じさせないようなMCに安心した。
セトリを撮らしてもらった時に、SNSにあげないようにとの注意があったので詳しいことは書かないけど、ブロックごとにテーマが見えるような曲順で、聴きたいなと思っていた曲はあらかた聴けた。
Sympathyとかね、大好きなんでね、あのイントロだけでたまんないっすよね。
この空白の時間、ゴスケさんとコースケさんはいろんなバンドで音楽を続けていた。今やっているMIRAめっちゃいいよなんせメンツがLOCAL SOUND STYLEとGLORY HILLとmaegashiraの合同軍だから!
でも荒関さんと黒瀧さんは全然情報がなくて、どうしてるのかなとずっと思っていたし、以前のようなクオリティのライブができるのかな?全曲スローテンポでキーも下げまくりだったらどうしようとか考えてた。
蓋を開けてみれば容姿こそ時の流れを感じたけれど、ずっと隠れてやってたんじゃないかという声と演奏でこれもある意味予想外だった。変な心配して申し訳なさすぎる。
もう一つ驚きだったのは当時のライブで見かけたことのある人がフロアにたくさんいたことだ。
当時から一緒に遠征していた友達とは事前に会えていたのだけれど、名前は知らないし親しげに話したことはない、でもローカルや他のメロコアのライブで飛んだり飛ばしてもらったりして遊んでいた人たちに青森で会えたのだ。
やっぱみんな待ち望んでいたんだなと思うと、なんだかこみ上げるものがあった。
アンコールを終えて再度登場した時、「一応少しだけ練習していた曲があるからやるわ」と言ってStand Up For Your Rightsを演奏してくれた。
これは僕にとってとても大事な曲で、辛い時に本当に支えてもらった。
高松のライブ後に明日の岡山でStand Upが聴きたいとお願いしたら本当にやってくれて、それがたまたまだったのかリクエストに応えてくれたのかわからないけど、めちゃくちゃ嬉しかった。
その曲がまさかダブルアンコールで披露されるとは、想定外にもほどがある。
本当に素晴らしい夜だった。
体がなまりすぎていて途中でガス欠で倒れるかと思ったけど、しっかりと音を浴びて、感じて、失っていたいろんなものを取り戻せた気がする。
とまぁ色々と書き綴ってきたのだけど、本来ならば5月に東京でも復活ライブが開催される予定が緊急事態宣言発令によって延期となってしまった。
青森での復活ライブは見届けたけどもちろん東京も行くつもりだったし、そこでも素晴らしい景色が見られるだろうと心から楽しみにしていたが叶わなかった。
とはいえ中止になったわけではないし、きっと振替公演をやってくれると信じている。
Starting Overから始まるあの夜を希望にして進み続けるんだ。
そうそう、大事なことを言い忘れていたけどこの復活ライブに合わせて再録アルバムがリリースされたんだ。
原曲とはかなり雰囲気が変わっていて、よりエモさが増しているなぁという印象。
洗練されてるなーって思うのは原曲なんだけど、青さがグッと出てるというか初期の頃のような音になったというかなんというか。
まぁ聴き比べてみてよ!
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