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君が大人になって思い出すのはわたしじゃないかな

マッチングアプリで一人の青年と出会った。

彼はまだ学生で、年は私よりも4つ下。なんなら早生まれなので今現在は5つ下。年齢が一番大きな要因であることは間違いないけれど、とても幼い男の子、それが最初の印象だった。



夏休み中で暇だという彼とは、よく電話をした。

「今日通話できる?」

電話ではなく通話と言う彼に、なんだかとっても現代っ子っぽさを感じた。



夜に、たまに電話をするだけ。

たったそれだけの関係だけど、その電話がとっても楽しかった。

恋愛の話、学校の話、留学の話、将来の話。仕事の話もバイトの話もした。毎回話す内容は同じようで、ちょっとずつ深くなっていって。彼を知れば知るほど、私とまるっきり真逆な人間で面白かった。

私は休みの日にはあんまり外に出たくなくて、友達もそんなにいなくて、一人の時間が大好きで、新商品や限定品には手を伸ばさない保守的で、堅実で、暮らしそのものが趣味みたいなつまらない人間で。

彼は、友達とくだらない悪ふざけで寮を退寮させられたり、キャンプやスポーツが好きで、一人が嫌な寂しがり屋で、ブランド物に拘りがあって、いいと思ったものなら高くても買っちゃう、そういう先天的に陽キャみたいな人だった。

でも不思議と、彼とは馬が合った。

私とは全然違う彼が新鮮で、彼の口から語られるエピソード全部が面白くて、電話の時間は2時間、3時間と伸びていった。



「会いたいねー」

なんて簡単に言うから私も「会うー?」って気軽に返した。

いついつなら暇だよ、なんてささっと取り決めて。会う前は楽しみだったけど、正直ときめいたりはしなかったと思う。緊張はしたけど、それは初めましての人と会う緊張や、年下の男の子を少しばかりお預かりするような感覚に近かった。

実際に会ってみた印象は、でっかいなあだった。

彼はモデルをしていて、背が高い。

180センチ後半もある。

電話でその話は聞いていたけれど、実際に横に並ぶとちんちくりんな私とは30センチも差があって、確かにめちゃめちゃ大きかった。

大きすぎて、めちゃめちゃ笑った。

でも、くしゃくしゃな笑顔で私の名前を呼ぶ彼はとっても可愛くて、黙ってれば超絶格好いいドーベルマンみたいなのに、豆柴みたいな彼にときめいた。

向かい合って話をしながら、なんとなく、これはいずれ好きになるやつだな、と思った。



元カレとは外見も、中身も全然違う。

年下の彼は高身長で坊主でシルバーフレームの眼鏡をかけて、煙草も吸う。それもがっつり紙煙草。ぱっと見ちょっと近寄りがたい雰囲気を醸してるけれど、話し方や笑い方が柔らかい。

自分をちゃんと持ってる人だから私が独自の持論を並べても、「俺は」で会話が帰ってくる。「俺はこうだよ。よく分かんないけどなんかいいね」って、ちょっと適当に、楽しそうに聞いてくれる。

私と彼は違うけど、その違いを楽しめることに関しては一致してると思ってる。

それがとても心地よい。

同い年の、同じ中学に通った元カレとは出来なかった会話が、年下の学生の彼とならできる。

年下、年下と何度も言ってしまったけど、通っている学校や、留学、仕事が特殊な彼の人生は、私がその年齢だった時よりも濃密で、特別で。だから、彼の話は飽きずに聞けるのかもしれない。

きっと、彼が普通に大学生をしていたなら私は惹かれなかっただろう。

好き好きズッキュンというよりも、グラスに入った氷たちが溶けて、カランと音を立てながら回る。そういう短時間で、でも時間をかけて、彼という人間に心が溶かされていく。自然な恋心だったと思う。



そんな彼は電車通だから車を持ってないし、告白も「私のこと好きなの?そっかあ、じゃあ付き合う?」というお姉さんぶった私からだったし、学生だからどちらかというと私が奢りがち。

仕事だけの社会人より、学校もバイトも家に帰ったら課題もある学生の方がよっぽど忙しいし、条件だけ言えば正直元カレとあんまり変わらないかもしれない。

ただ、前回よりも無理をしてる感覚はないし、何より彼のことが可愛くって面白くって仕方ない。つまり私がメロメロになっているということだ。これはちょっぴり恥ずかしい。

でも彼にも社会人のお姉さんと付き合ってる高揚感とか、ちょっとした優越感があるんじゃないかな。

もし彼と別れてしまったら、私はきっと4つも年下の男の子ともう一度付き合うことはないと思う。きっとまた心に上書き保存をして、そのうちふんわりとした思い出になって、彼のことも忘れていくかもしれない。

彼も、それでいい。

ただ、少し我儘を言うと彼がいつか他の人と付き合っても、学生最後の馬鹿みたいに蒸し暑いこの夏に、ちょっと変なお姉さんと付き合っていたこと、たまにでも思い出してくれたらいいな。



とはいえ、25歳の私には少々不安もあるわけで。

周りが結婚したり同棲を始めたり、結婚を見据えたお付き合いをしていく中(そういう相手探しも含め)彼の卒業を待って、彼の就職を見守り、仕事に慣れてきたころ、万が一その時が来ればそういうことも考えるだろうけれど。

その時の私は一体、いくつになっているんだろう。

私は待てるんだろうか。

結婚がしたいわけではないけど(多分。いや本当はしたいのかも)子供がいたら楽しいかなと思う。彼との未来が確約されているならいつまでだって待てるけれど、もし30歳でお別れが来たらその時私はまた恋を始められるんだろうか。



まあ、そういう事を考えるのは大体暇な時で、未来の不安についてあれこれ悩むのは不毛で無意味で、そんな暇があれば筋トレでもしていた方がよっぽど有益で。だけど、その不毛で無意味なことを考えてしまうのが恋愛だから。

願わくば、彼と共に過ごす有限な時間たちが楽しくありますように。

君の人生が楽しくありますように。

ま、私が願わなくても、君なら自力で叶えちゃいそうだけどね。



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