誰も「絶対的な意見」は持ち得ない
信念/観念の説明を、テリトリーとマップの関係で説明してみる。
一次的体験が「テリトリー(土地そのもの)」で、二次的体験が「マップ(地図)を作る」、ということである。
地図は、私たちが土地そのものに対して注意を向けていることを意識の中に表象したもの。
たとえば、今、あることが起きたとする。
すると、私たちは注意の矛先を起きていることのどこかに向ける。
地図を作るとは、そういった注意の矛先の範囲にあるものを、言語などにより意味づけをしたものをもとに形作ることである。
このときに注意を向けたものと向けなかったものとが区別されている。
なかには、地図は、土地そのものを再現したものであり、土地そのものを表象したものなのだと言う人もいるが、私たちが一次的体験をしたものの中で、注意を向けた要素を地図にしているのだと考えるのが適切である。
なぜなら、この「地図」と「土地」という考え方は、一般意味論(*)としてアルフレッド・コージブスキーにより適切な説明がなされている。
コージブスキーは、著書『科学と正気』の中で次のように言っている。
その人に「言葉の使い方」を教えることによって、まったく違う人生の経験をさせることができる
そして、彼は実際にそれをやった張本人なのである。
さらに、彼は信念/観念に関して、大変興味深いことを言っている。
「人間は進行中の感覚フィードバック(自分が感じていること)から超越、あるいは分離して、何事かの本質についての意見や判断、信念/観念に到達することができるかのごとく振る舞っている」
これはどういうことか。
今起こっている自分の感覚(一次的体験)がある。その感覚は今まさに起きているわけであるから、本当なら自らがその感覚を自分から切り離したりすることはできないはずである。
ただ、人間はあたかもその感覚を、自分から切り離したりすることができるかのように思っている。
そして、その感覚を切り離しながら、その感覚から何かの本質についての意見や判断、信念/観念を持つことができているかのように振る舞っている、ということである。
しかし、実際にはそんなことはできないのである。
たとえば、何かに対する批評、批判をしたとする。
そのときその人は、その出来事と自分はまったく切り離されているかのような位置から、あれはネガティブだとか、ポジティブだとか言う。
その物事の本質に関して、「絶対的な意見」を持っているかのように語っているが、本来はその人はその物事とまったく切り離すことができない位置にいるのだから、「絶対的な意見(主観的ではない意見)」は持ち得ないはずである。
主観的以外の意見、というものは、幻想であり、本当の現実ではない。
その人の頭の中に、その経験に対する地図(判断)があってはじめて、あれはマイナスだ、あれはプラスだと考えることができる。
その人は、地図(二次的体験)とそこで経験している土地そのもの(一次的体験)を同等に評価している。
そして、あの経験やその環境の本質をあたかも自分が知っているかのごとく批判の意見を述べている。
でもそれは幻想である。
人間は、そういうことができるかのように頭で考えているだけなのである。
つまり、謙虚な気持ちでいなければいけない。
(*)〈アルフレッド・コージブスキーとー般意味論〉
一般意味論(General Semantics)とは、ポーランド生まれで後に米国に移り住んだアルフレッド・コージブスキー(Alfred Kozybski 1879-1950年)が、その著書『科学と正気(Science and Sanity 1933年 日本未訳)』でとなえた考え方。原著は八百ページを超える大著だが、私たちが言葉を使って、世界をどう認知しているか、言葉の心理学的側面、認知学的側面などを主に扱う。認知心理学、認知言語学、認知神経学、脳科学、サイバネティクス、Al、ロボット科学、哲学、認識学にまで広がる広範囲なエリアを含む根本的研究。コージブスキーはここで「ヒトは言葉で世界を認識しているが、その言葉がさまざまな変形を受ける性質をもっており、それが世界認識を歪める可能性がある。私たちには、言葉が変形しているかもしれないことヘの”気づき”が大切」と語っている。有名な言葉に「地図(マップ)は土地そのもの(テリトリー)ではない」がある。このー般意味論からNLPの「メタモデル」(言葉の多層構造)のコンセプトも生まれた。一般意味論はアカデミックな世界にはあまリ受け入れられなかったようだが、きわめて大切な世界認識を含んでいる。コージブスキーの弟子のS.I.ハヤカワによる著作「思考と行動における言語」(岩波書店刊)は翻訳本として日本でも読める。一般意味論はヴァン・ヴォークトのSF小説「非(ナル)Aの世界」(創元SF文庫)にも語られ、コージブスキーが設立した「一般意味論協会」も米国に存在している。クリスティーナ・ホール博士はかつて、一般意味論の研究に携わっていた。
◆参考文献:クリスティーナ・ホール博士の言葉を変えると、人生が変わる NLPの言葉の使い方 2009 ~信念/観念と現実 より
クリスティーナ・ホール博士(Christina Hall Ph.D)
1978年、NLP開発者であるリチャード・バンドラー氏らによって設立された世界で最も歴史の長いNLP協会、The Society of NLPの現理事長。心理学・神経意味論言語学の博士号保持。
「究極の言葉の魔術師であり、NLPの発展に終わりがないことを証明し続ける人。NLPについて彼女に教えたことより、彼女から教わったことの方が多いと言えるだろう」By リチャード・バンドラー(NLP開発者)
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