独身最後の日。
明日結婚するというのに私は絶賛風邪っ引きである。週の初め頃から風邪気味ではあったがどうやらその頃からインフルエンザだったのだろうと言われた。ただ発熱しなかったのでインフルエンザだと気付かず、かつ発症から4日以上経っている為検査ではもうインフルエンザは検出されないとのこと。恐らくインフルエンザが体の奥に入ってしまってこうなっているのだろうと言われた。私はよく体調を崩す。その度に親に心配されてきたが今日もそうだ。今日なのに。私が旧姓でいられるのは今日までなのだ。
式は挙げない。だからこそ余計、「嫁に行く」という感覚よりも「名前が変わる」という感覚の方が強いのだと思う。名前が変わるともう親と同じ墓には入れない。その事実が寂しい。なんだか入籍までバタバタしていてバタバタと入籍日も決まってバタバタと準備してバタバタしていた。だから感慨にふける間もなく「ハイ! 明日から名前変わるよ!」という感覚。ふと風邪でぶっ倒れて「あ、私明日から名前変わるんだなぁ」と改めて思うと一抹の寂しさがあった。
名前が変わる、という事象に私は初めて出会す。こんな心地なのか。これまで私が築いて来たもの、培って来たもの、それらが一度揺らぐ気分。生まれてからずっとこの名前で生きてきた。親からの愛情も友達との友情も、出会いも別れも色んな人たちとの関わり交わりを、私はこの名前の私で経験してきた。名前が変わるということは、なんだかそれらを一旦忘れなければならない心地になる。寂しいなぁ。心細いなぁ。足元が覚束ない感覚。熱が38℃も出ていたのだから当たり前か。しかし明日という日をもっと万全の体調で迎えたかったのに、私はどうもタイミングが悪い。なぜ今日発熱するのか…私が両親の娘でいられる最後の日だと言うのに。
同じ姓として最後に囲んだ夕飯は、どうともないいつも通りの食卓だった。母が録画していた『科捜研の女』を流しながら、牛肉の味噌炒めを食べた。普通に独身最後の夕飯は終わった。母からは「なんで引越しと公演被せんだよ」と小言を言われ父からは特に何の言葉もなかった。こんなもんかぁ、と思う。両親としては私を嫁に出せるだけで奇跡的らしく必死だったみたいだ。これで私が元気だったらもう少し違ったかも知れない。なんでこのタイミングで発熱してしまうのか…悔やまれる。
熱も下がって来たので、お風呂に入ろう。
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