私、混乱する

月日が経って、「You、偉くなっちゃいなよ!」と言われ、マネージャーという役職もいただくようになった頃。
私が勤めていた会社は国内企業の皮を被った、海外企業のような状態だった。(社内環境だけ)
現に後に採用したスタッフから「そこまで英語いらないっていったじゃないですか!」と嘆きが聞こえてきたこともある。

良いところもあるよ?
おやつ食べ放題、カフェ完備だし。
声かけた時に外してくれれば、イヤホンつけてても何も言われない。
それくらい社内はゆるかった。
ただし、確かに言語については日本語と英語の行ったり来たりである。
そしてその弊害は現れた。

日本語と英語の切り替えがうまくできなくなってきたのだ。

日本人スタッフや社外の人と話す時は日本語だが、社内で話す際はどうしても比重は英語が多くなる。
そして社内で使用していたPCやシステムの言語設定も英語にしていた。
これはなんでかというと、業務でボスにスクリーンを見せながら説明する時に英語の画面の方が話が早いから。
単に面倒くさいだけだろう、と言われればそうなんだが、本当に瞬時に言語を切り替えるのは頭が疲れるのだ。

そんな形で仕事をしていたら、どんどん切り替えができなくなってきたことにある日気がついた。

「キミコさん、これってどうしたらいいですか?

スタッフの1人が尋ねてくる。

「あぇーっとねぇ。そのコントラクトにはレジスタードスタンプ押さなきゃいけないんで、ボスのアプルーブ降りてるか確認しますね」

「...すみません、仰ってる意味がわからなくて」

ここで気がついた。
私がいうべきは「契約書に実印を押す必要があるので、承認が降りているか社長に確認します」なのだ。
慌てて言い直す。

優しいスタッフは「こちらこそすみません!」とフォローしてくれて、私も「ヤッチャッター」なんてふざけていたが、内心めちゃくちゃ焦っていた。

ルー大柴じゃん!!!

彼のことを笑っていた昔の自分よ、お前も将来こうなるぞ。
笑ってるんじゃない。

自分のルーっぷりに愕然としながら、一度意識してしまうと訳が分からなくなってきた。

カンファレンスがポストポンされた
バジェットをコンファームする
フォーキャストをリバイズする
とかなんとか、Bluh Bluh Bluh.

イマ私、どっち話してル?
何デ2つノ言語を理解デキルんだっけ?

逆に英語で話しかけられているのに、日本語で返すとか。
脳内はごちゃごちゃだ。

会議中には日本語を思い出そうとするたびにつっかえてしまう。
酷い時は頭の中で切り替え用のレバースイッチが引っかかってしまうような感覚があって、目がチカチカした。

口癖は「日本語で何ていうっけ?」

この現象は何だったのかは分からない。
今現在、下手すると100%英語で生活する日々であるが、日本語が思い出せないとかいうようなことはなくなった。

某有名企業も社内公用語は英語らしいけど、このような状態になる人はいないのか気になるところである。

有識者求ム。(嘘)

これを書きながらふと思い出した。
国際的バックグラウンドをもつ子供たちが両親それぞれの言語を習得する時に、一旦伸び悩むときがくるんだそうだ。
これを打ち破るにはどちらか片方言語に集中して伸ばす必要がある。
そうすると、伸びた言語力に引っ張られて、もう片方の言語もスラスラと操れるようになるとかこんとか。
もう10年前にテレビで見かけた話だから、真偽のほどは定かじゃないが、私もこれと似たような状況だったのかもしれない。

確かに私の子供たちも学校入学前は結構苦労してたっけな。
彼らは私とは反対に、英語を日本語に直したような話し方をする子たちだった。
やっぱり助詞とか接続詞なんかはまだ少し苦労しているようには見えるが、学校に行くようになってから日本語も自然に話せるようになってきたし、学校では通訳を任される場面もあるそうだ。

うちの子たち天才。

などという親バカは置いておいて。

だいぶ話が逸れてしまったが、そういうわけで私の脳内が混乱した時のお話。
本当にあった、少しだけ怖いお話だ。

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