私、初めての決算。
決算期。
企業戦士であれば誰でもこの言葉に恐れ慄くであろう。
私が社会復帰して数ヶ月後にそれはきた。
なんかやたらと経費入力忘れないでねー、とか言われるなぁと思っていた。
この頃になると、第三子の持病も落ち着いてきたこともあり、保育園に預けてフルタイムで仕事をするようになっていた。
データをすべて入力し、支払うものはすべて支払う。
いつもより慌ただしく月が終わった。
そして月明け、月次決算を依頼している税理士からバカスカ連絡がくる。
なんだなんだ!?とメールを読むと、決算整理とある。
これが決算かぁ。
と初めはぼんやりしていた。
私が分かる範囲のものはぺぺーっと回答したり、証憑を提出したり。
なかなか順調ではないか!と思っていた矢先にそれはきた。
「借入金と貸付金について教えてください。」
細々と質問が書かれていた。
これは義母(以降ボスと呼ぶ)でなければ分からない。
訊かねばならん。
用語が分からなかったのでGoogle大先生に教えてもらい、ざっくりと依頼文を翻訳して持っていった。
ふむふむ、借入も貸付もローンというのかぁ。
Google knows everything.
Google先生さえいれば余裕だもんねー、と自信満々に概要を説明すると、ボスから質問が飛んだ。
「それはどっち?」
どっちって何!?
質問の意図が理解できず固まる私。
「これだと、このローンというのがどっちの話をされているのか分からないわ」
Google knows everything じゃなかったのかよ!!!
ここから2時間ほどやり取りをして知ったことだが、ローンといっても借入も貸付もあるわけで、一言で表せるものではない。
なので借入をローンペイアブル、貸付をローンレシーバブルと表現するとのことだった。
デビットが借方、クレジットが貸方ということも教えてもらった。
ボスのいう「どっち?」というのはデビットなのかクレジットなのかを訊かれていたようだ。
うん、さっぱり分からん。
そこからも税理士からの質問と、足りない私の理解と語彙、そしてボスからの逆質問で板挟みになる日々がしばらく続いた。
そこに加えて、本社のお局様とのバトルも始まってしまう。
このお局様は社長(元パートナー)の信頼厚く、長年勤めていた人だが、社長はアメリカ人なのに、外国人スタッフを毛嫌いする不思議な人だった。
税理士からの依頼を受け、ボスが詳細を調査して必要な情報があれば彼女に問い合わせをするのだが。
「それはxxさんの管轄なのでわかりません」
「この件は、そちらが知っているはずでは」
なしのつぶて。
業務の記録をみると、担当したのは彼女であることは明確。
なのに知らないと言ってのける。
謎は深まるばかり。
言い回しを変えて質問してみても、返ってくるのは的外れな回答。
同じ日本語を話しているはずなのに、話が通じない。
なんなら、英語しか話せないボスの方が理解できるまである。
ひょっとしたら下っ端の私から訊かれるのが嫌なのかもしれない、と思いボスに相談すると
「じゃあ私がGoogle翻訳を使ってメールを送ってみる」
と、直接コンタクトをとってくれた。
返ってきた返事は
「理解できません」
一応うちのボスは、あなたの大好きな社長のお母さんなんだけどなぁ。
このしょうもないバトルは、彼女が退職するまで続くことになる。
役員たちが全て外国人なのに、変に日系企業の体質があり年功序列の空気が強かった。
そのやり方が理解できないボスは「これ、アメリカだったらクビになるのにねぇ」とぼやいていたことを思い出す。
無駄なバトルと、税理士との板挟みで私のメンタルはだいぶ鍛えられたといってもいい。
最終的にはボスの母パワーを振りかざしてリーサルウェポンこと社長を引っ張りだし、お局様から情報を得ることに成功。
無事(?)決算整理が終了したのである。
人間ってめんどくせぇ。
ここまでくると、理解し合えるかどうかは言語云々ではない、と悟った。
日本人同士なのに言ってる意味がわからないなんてあるんだなぁ。
この時はのほほんとしていたのだが、理解し合えない溝は深く、詳しくは語らないが最終的には御上に私が怒られるという謎の事態まで引き起こした。
やったの私じゃないもん…。
でも大人だから謝ります。
そうしていくつもの決算と、社内バトルを乗り越えるうちに、いつしか私はこの会社で偉くなっていた。