ブルガリアとギリシャのガス供給網を相互接続するパイプラインが7月に運転開始へ。
ブルガリアとギリシャが主スポンサーとなり、共同で相互のガス供給網を接続するプロジェクト会社ICGB(本社、ブルガリア・ソフィア)は26日、ブルガリアとギリシャの両当局から、ICGBが相互接続パイプラインのオペレーターとして操業を行う仮許認可がおりたことを明らかにした。まだ、最後のEUからの許認可待ちではあるが、実質的に、相互接続パイプラインは7月からの操業開始の目処がつき、最大で3Billion M3/年(bcma)の天然ガスをギリシャ供給網経由でブルガリアへ供給することが可能になる(設計的には更に5bcmaまで増設可)。当初ICGBは、操業開始目標を9月としていたので、2カ月の前倒しができたことになる。
ブルガリアが従来輸入していたロシア産天然ガスは、ロシアからのルーブル決済への変更要求を断ったため、4月末に供給ストップとなったが(パイプライン経由でロシアから供給され、ブルガリア国内のガス需要の約90%がこれに依存していた)、もともとブルガリア国内のガス需要は3bcmaと限られており(例えば、多需要国のドイツの85bcmaと比較すると約28分の1)、需要先も産業用だった。したがって、ロシア産天然ガスから脱却するにあたり、分量的にも代替確保はそれほど困難ではなく、政治的に問題を生じる一般家庭向けエネルギー需給へのしわ寄せもなく、ブルガリアにとってロシア産天然ガスから脱却する決断を比較的容易にできる条件が揃っていた。
ブルガリアは、ロシアからのガス供給が途絶えた後は、アメリカから輸入するLNGで不足分をカバーする計画を明らかにしていたが、それに加えて、今回のギリシャとの相互接続パイプライン経由で、アゼルバイジャン産天然ガスを7月からまず1bcma供給を開始する見通しであり、この分量を合わせると国内で必要なガス需要は十分にカバーできるだろう。
ICGBプロジェクトは、2005年にウクライナに親米のユーシェンコ政権が成立した際、ウクライナ国内を通りヨーロッパにロシア産天然ガスを供給するパイプラインのガス通行料とガス代金をめぐりウクライナ・ロシア間の対立が激化し、ガス供給の停止リスクを懸念したEUが代替ガス資源としてアゼルバイジャン産天然ガスをヨーロッパまで引っ張ることを考え、その結果、計画・推進されたSouthern Gas Corridor(SGC)というパイプライン計画を拡張させたものだ。SGCは、EUにより推進され、アゼルバイジャンからジョージア経由トルコまで達していたパイプラインを2015年にギリシャまで延長する工事に着工、その後2016年にイタリアまでの延長工事に着工して2020年11月に完成、途中ギリシャで枝分かれしブルガリアへ向かうICGBは2019年に着工し今年5月に完工していた(6月から運転前試験に入る)。
SGC全体では、アゼルバイジャンから長距離のパイプラインを敷設し、ヨーロッパへ天然ガスを供給するので、本来は投資コストを回収するために運搬できるガス量を20-25bcma程度まで拡張出来る設計になっているのだが、現状はまだ10Bemaltの供給量しかない。EUがSGCを後押しする間に、ロシアがそれに対抗するかたちで黒海海底を通過してトルコ経由でイタリアおよびバルカン地域に31.5cbmaという大容量を運搬できるパイプラインTurkStreamをトルコ(エルドアン政権)およびイタリア(ベルルスコーニ政権)の後押しを得て開通させてしまい、そちらが先行して大口の需要先を支配してしまったからだ。
今回、ロシアのウクライナ侵攻という事態となり、ブルガリアは、ロシア産天然ガスから皮肉にもICBG経由でアゼルバイジャン産天然ガスへの切り替えが出来ることになったが、ガス需要量が多いイタリア(76bcma)はロシア産天然ガスからの全量切り替えができず、TurkStream経由でロシア産天然ガスを買い続けざるを得ない事態に陥っている。
■参考資料: EWRC and RAE with draft decision for ICGB’s certification as an independent transmission operator, 26.05.2022 ICGB AD
(Text written by Kimihiko Adachi)
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