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米国バイデン政権、インフラ法案成立について。

先週金曜日11月5日ワシントンDC時間午後11時24分、下院にて審議中だった総額1.2兆ドルのインフラ法案(通称Infrastructure Bill/正式名称Infrastrucure Investment and Jobs Act)が賛成228/反対206で可決されホワイトハウスに送付された。来週早々にもバイデン大統領がホワイトハウスで法案に賛成した議会関係者を招待し、その場で大統領が署名し正式に発効となる予定だ。

実は、インフラ法案の原型はもともとバイデン大統領の前任者の共和党トランプ氏が大統領選で公約として打ち出したのが始まりだった。全米には膨大な規模の経年劣化した幹線道路、鉄道網、港湾設備、空港、上下水道、通信網が、十分なメンテナンスがされずそのままになっている。そうした基幹インフラを一気に手直しして米国の競争力を取り返そうとしたトランプ氏の公約は、ルーズベルト、レーガン両大統領以来の大規模なインフラ投資政策として、トランプ氏当選を後押しする力となった。

トランプ氏は、大統領に当選するとインフラ法案の具体化に向けた動きを始める。しかし、巨額な投資費用の捻出方法の策定に行き詰まり、財源確保に懐疑的な議会共和党関係者と合意することができず、妥協案として浮上した民間にインフラ運営権を与えて資金回収する官民パートナーシップを骨子とする案にも二の足を踏み、議会における共和党マジョリティーの優位性も生かせずに頓挫してしまう。

その後トランプ政権は、中間選挙で下院マジョリティーを取った民主党側からインフラ法案の逆提案を受けることになる。しかし、自身を取り巻くスキャンダルに身動きが取れなくなっていたトランプ大統領は民主党に主導権を奪われるのを嫌い、否定的に対応した。トランプ大統領は、民主党提案のインフラ法案を前向きに進める条件として、民主党が自身のスキャンダル追及を行わない旨確約する要求をしたのだ。同意できるはずがない民主党は、大統領追及の姿勢を更に硬化させ、結果としてトランプ政権下でのインフラ法案は完全に暗礁に乗り上げた。

そして昨年11月の大統領選挙で、再選を目指したトランプ氏が敗れバイデン政権が成立することになり、今度はバイデン政権がインフラ法案を民主党だけではなく共和党も巻き込んだ超党派なものとして議会に提出した。上下両院の議員からすれば、インフラ法案の原型はもともとトランプ政権の共和党の時代に提出されたものであり、超党派にすれば民主党だけでなく共和党の議員も選挙区で議会活動の実績としてアピールになるので乗りやすい。

そして、共和党上院の重鎮マコーネル議員他、超党派の上院議員により骨子が固められ、8月に上院を通過して下院に送られたのが、今回ギリギリのタイミングで下院で可決されたこの法案なのだ。実は8月に上院を通過する際に、トランプ氏は共和党上院議員に向けて、法案に賛同しないように圧力をかけた。しかし、上院ではトランプ氏からの圧力を振り切り、マコーネル氏を含む19名の共和党議員が法案に賛成し、バイデン政権は晴れて法案が超党派であることをアピールできることになった。

下院での法案審議は、今度は民主党内部の主に急進左派からの強い突き上げにあい調整が困難を極めた。これは、インフラのみに特化した法案だけの議会通過をよしとしない急進左派を中心とする民主党議員グループが、別立ての社会保障法案(Build Back Better bill)を抱き合わせのパッケージとして議会通過させることを強く求めたからだ。ペロシ下院議長もこの要求を尊重する動きを見せ、10月末までの期限を区切り粘り強く議会調整を進め、上院内ではマンチン上院議員を中心とする民主党穏健派を軸に交渉が進められた。

このような綱渡りの議会運営にもかかわらず、期限内の妥結を見ることができず、そこで迎えたのが11月2日のバージニア州とニュージャージー州の州知事選だった。民主党有利との下馬評に反して、バージニアは共和党に敗北、ニュージャージーは民主党が取ったものの僅差での辛勝という、民主党には強い危機感を抱かせる結果となった。この結果を受けて、民主党内で急遽方針が固まり、議会休暇前最終日の11月5日にインフラ法案だけを単体で採決にかけることになった。

この採決に向けた議会調整は難航を極めた。単体だけの採決方針に反発した民主党内の急進左派が否決に回る中、トランプ氏の圧力を振り切り賛成に回る共和党議員の票読みと、切り離された社会保障法案を継続審議とすることに民主党議員全員の賛成を取り付ける票読みが鍵を握ったが、票読み能力が絶対的に高いと言われたペロシ氏の読み通り、最終的に午前0時を回る直前に可決に導くという見事な議会運営捌きを見せ、インフラ法案が成立した。

率直に言って、この法案が成立したことは民主党とバイデン政権にとり大きな勝利であるのは間違いない。バイデン大統領は、バージニア州とニュージャージー州の知事選前に法案を成立させておけば、両州の選挙結果は違ったものなったであろうと述べたが、実際にそのような議会運営を行うことは不可能であったと筆者は考える。民主党急進左派の交渉に対するポジションは極めて強く、彼らは聞く耳を持たないのが明らかだったからだ。むしろ、両州の知事選が民主党に不利な結果となったことが単体での法案成立を可能にしたのだ。

バイデン政権は、この法案が超党派なものであることを強くアピールし、経済的効果が早期に出るように年内に矢継ぎ早に財政支出を進めていく戦略を取るであろう。そうすることで、法案成立に同調した共和党議員の顔を立て、彼らがトランプ氏からの攻撃を上手くかわせるように協力するだろうからだ。上下両院で法案賛成に回った共和党議員は、インフラ事業で経済が潤う中西部各州およびインフラ修繕が急務なアラスカ州選出の議員を中心に、更に上院では一部の南部の州および下院ではニューヨーク州選出の議員が加わった。

この動きと並行する形で、民主党は残りの社会保障法案の今月中の成立に全エネルギーを投入すると思われる。そのためには、インフラ法案を成立させたのと同等かそれ以上に高度な議会運営が必要だ。しかし、今回絶妙な手腕を見せたペロシ下院議長の議会捌きを見ると、それは十分に可能だと言えよう。何れにしても、週明けに再開する議会の動きは今年最大の米国内政治のハイライトとなる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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