『和歌の黄昏、短歌の夜明け』 島内景ニ 花鳥社 

著者は、NHK古典購読というラジオ番組で、『源氏物語』の名場面を、『湖月抄』をもとに読み解く、というテーマで現在解説されている。
なぜ、いま『湖月抄』なのか? 著者の思いのベースになっているのが、この本にあるのだと思う。
読み始めは、過激な言葉が並び驚いたが、
次第に著者の意図するところが見えてきた。過激なのは、著者の言葉ではなく、著者が批判の対象としている本居宣長以降の源氏物語解釈の流れだということが、論が進むにつれて、初学者の私にも少しずつわかってきた。

北村季吟こそが、異文化統合の平和維持システムとしての「源氏文化=和歌文化」を確立したのだと。ところが、本居宣長が「国学=古学」によって、「もののあはれ」という破壊兵器によって、「源氏文化=和歌文化」を攻撃したと。

著者は言う。「二十一世紀の源氏学者の多くは、宣長が『玉の小櫛』で展開した『湖月抄』批判をほとんど踏襲している」。
えっ!自分も源氏物語を知るためにこれまで何冊もその解説本を読んできた。それによって源氏物語を理解してきた。その足元が崩されるような言葉である。

この本のⅡ部は、こうしたら視点から、近代短歌の歌人たちの批評にあてられている。彼らの多くが源氏文化の影響を多分に受けつつも、その真髄である「和歌文化=異文化統合システム」を否定し、宣長以降の反・源氏文化の流れから脱することができていないという。

はたして、それでは、その「源氏文化」とはなんなのだろう。その答えが、本書を読むだけでは、勉強不足の私には十分に見えてこなかった。
現在放送中のNHKラジオ古典購読『源氏物語』や、そのもととなっている著者の「湖月訳源氏物語の世界 名場面でつづる『源氏物語』」に期待したい。

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