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私から生まれたものがたり(ノベルセラピー) - Ⅲ -

Aikoさんから生まれたステキなものがたりです

 Aiko作 『マークとキラキラの石』 

ロンドン郊外、針葉樹の森やポツンポツンと古城が建つ広い湿地帯に石造りのこじゃれた家があった。
この家には、けんかの絶えない家族が住んでいる。自分勝手で欲深い父親、心配性で常識人の母親、父親譲りの自分勝手な姉、姉をよく観察していて要領ばかりよく調子のいい弟。
この家族、いつもまとまりが悪く、ゴタゴタ口論が絶えなかった。

この家の庭には、大きなもみの木があった。
枝ぶりのよいもみの木だ。
木の妖精・マークはいつもこの、もみの木の太い枝に腰掛けて家族を見ていた。
マークは木の妖精だけど、執事のような黒いスーツに赤いネクタイをしている。サラサラの金髪に緑色の瞳の、するどい目元の少年だ。妖精の年齢でちょうど180歳、でも人間でいうと10歳だ。マークは無口で、いつもこのお気に入りの枝に腰掛けて家族を冷静に見ていた。

マークには役目があった。
いさかいばかりの人間が徳を積んだり、勇気ある行動をしたり、思いやりなある行動をした時、心の奥からキラキラ光る石が出てくる。マークたち木の妖精の間では、その光る石のことを「バッチ」と呼んでいた。そのバッチをあと2個集めるのがマークの課題だ。

マークは無口で消極的な性格だ。他の要領のいい妖精仲間はマークをいろいろと馬鹿にしてきた。
バッチが簡単に手に入りそうな人間に目星をつけて、たやすくバッチを手に入れていく要領のいい妖精たちは、マークを笑った。

そう、マークがいつもいる家の家族たちは、いさかいばかりでなかなか心の奥からバッチが出て来そうになかったのだ。

マークはそれでも待っていた。辛抱強く、もみの木から観察していた。

自分勝手でお嬢様気質の姉のことも、要領よくお調子者の弟のことも、マークは好きだったのかも知れない。

姉はことあるごとに常識人の母親に非難され、ワンマンな父親に怒鳴られていた。
わがままだか、姉はいろんなことを我慢しているのだろう。弟の方はそんなの馬鹿らしいから、本音や夢を語らないようだ。

ある日、姉が家を出てリバプールに行くと言い出した。ロンドンで時々行くライブハウスのリバプール出身のミュージシャンと恋仲になったのだ。
ミュージシャンの男は音楽で食べていくと決めている青年だった。姉は思い切って両親にリバプールに行きたい、と自分の気持ちを伝えた。いつもは都合の良いことばかり言う姉が、誠意を持って伝えた。
両親は大反対した。母親はミュージシャンみたいな浮ついた職業で生きている人間なんて信用できない、大嫌いだと言い、そんな暴挙、許さないと言った。ワンマンな父親は何が何でも反対だと言って、姉を2階の部屋に監禁した。

さすがにこの時は調子のいい弟も、両親のパワハラに失望し、姉が可哀想だと思った。
このまま両親を放っておいては、自分も姉も未来がないだろう。
そして弟は姉に力になるよと申し出た。
弟は自分勝手な姉が嫌いだと思っていたが、姉は自分の希望の光でもあったのだ。

両親が寝静まれば何か2階の部屋を抜け出すチャンスがあるかも知れない。しかし両親は夜間に姉が逃げ出さないように、出入り口の全てに赤外線センサーを取り付けて、警報が鳴り響くようにしていたのだ。

両親の昼間の監視もしつこくて最悪だった。
弟は二階の、姉の監禁された部屋の窓から抜け出せないかと考えた。

ここでマークはこの姉と弟をなんとか手伝えないかと動いた。
いつものもみの木の、お気に入りの丈夫な枝を押して、姉がいる部屋に近づけた。

弟はその枝が部屋の窓に意外と近いことに気づいた。実際は、そんなに近くなかった枝をマークが押して窓に近づけたのだが。

この枝を使えば姉を外に出せる。弟は2枚のシーツを結び、片方の端はベッドに結び付け、もう片方を持って枝に飛び移った。
もう片方の端をもみの木に結びつけて、姉が静かに安全にもみの木に移れるように手助けした。

姉は窓からもみの木に移り、幹をつたって地面に降りた。感無量だった。

弟も姉も、初めて力を合わせて勇気を出して行動したのだ。2人とも感無量で泣いた。

そのときだった。2人の心の奥からキラキラ光る石「バッチ」が飛び出したのだ。
バッチは2人には見えないものだから、2人は気づいてなかったが、マークの手元にキラキラ光りながらやって来た。

いつもわがままで自分勝手なきょうだいの、特別に頑張って力を合わせた時のキラキラ光るバッチは、他のどの人間のものよりも大きくて強い光を放っていた。

マークは最高ランクのバッチを手にしたのだ。マークは道に出て姉を見送る弟の背後から2人を眺めていた。

姉は何回も弟を振り返りながら走って去って行った。きょうだいが力を合わせ、マークは目を潤ませていた。そのときーー
目を手で拭うとき、キラキラのバッチが道に落ち、そこに車が走ってきて、たちまちバッチが跳ね飛ばされた。

少し遠くに飛ばされて、マークはバッチのもとに走ると
なんとそこにいた意地悪な妖精仲間が先にバッチを拾い上げた

いつもマークを馬鹿にしてくる嫌なやつだ。
「やあ、マーク! 相変わらず馬鹿だなあ!このバッチは特別に大きくてキラキラだ。僕の方が似合いそうだろ」そう言って、やつは最高ランクのバッチを自分のものにしようとした。

「返して、、、」マークはか細い声で言った。「はぁ? これはお前にはもったいないだろ?」と、やつははぐらかした。
「返して」マークはもう一度言った。
「聞こえないなぁ。」
「返せ‼︎」「いやだ」

「返せ‼︎返せ‼︎返せーー‼︎ これは僕のいちばん大好きな人たちからもらったバッチだ‼︎
僕が必要なバッチだーー‼︎」
マークはもう、無我夢中で叫んだ。
自分が何を叫んでいるのかわからないくらい力の限り叫んで主張した。

その瞬間ーー

マークの胸から見たこともないくらい大きくて見たこともないくらい強いキラキラの光る石「バッチ」が浮き出てきた。

マークもやつも、腰を抜かさんばかりのすごい光だった。

バッチはそのまま浮いていたが、すうっと地面に吸い込まれた。

夜中なのにあたり一面の地面が金色の光を放ち、ロンドン郊外のこのエリア全体が暖かい金の光に包まれた。

郊外に住む人間たちが次々に玄関から外に出てきて、この不思議な金色に輝く空間に佇んだ。マークのいる家の両親もそとに出てきた。弟もポカンとしている。

人間たちは驚いたことに、無言でお互いを思いやり、ハグしあった。お互いに満ち足りた気持ちになって、なぜだかわからないけどハッピーだった。

嫌な奴と思っていた妖精が、近づいてきてマークはハッとした。
「マーク、ごめん。このバッチは君のものだ。ちょっとからかってしまったんだ。このバッチは返すよ。」

マークはきょうだいの心から出たバッチを受け取って手にした。

マークも、とても満ち足りたハッピーな気持ちだった。


おしまい

(画像はお借りしたものです)
#ものがたり
#ノベルセラピー
#私から生まれたものがたり

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