5感が揺さぶられる、人生最高の食体験をした話
先日の徳島でのスターレーン親善大会、実はもうひとつ目的があった。
アブストラクトキュイジーヌ創始者の藤川さんのお店、「ちょっとよっ亭」に行くことである。
旅に非日常の体験はバリューセット、それにはもちろん「食体験」も含まれる
生きていて「なんじゃこりゃああ!」みたいな食体験は何度もしたことがあるが、その中でも今回のは間違いなく人生最高峰だった。
ちなみに藤川さんに「頼み方を見て、値段を分かっていると安心できた」というようなコメントをいただき、ちょっぴり嬉しかった(笑)
自分としては、旅先の体験は食体験も含めて、可能な限り「値段で躊躇しない」と決めていることもあるんだけど、それは、
「体験」というものがこの世で最も価値のあるもので、
体験の積み重ねが人生を豊かにする
つまり、せっかくの最高の体験ができるというチャンスに価格で二の足を踏んでしまってはもったいない!というのが自分の座右の銘のひとつだから
さて、「ちょっとよっ亭」は、徳島のタクシーの運ちゃんでこの店知らん人はモグリ、というくらい徳島では有名なお店とのこと。
基本は寿司屋なんだけど、「アブストラクトキュイジーヌ」という手法で和食に限らず幅広い料理を提供している
料理の基礎から余分な作業を外すことで、出汁を使わないなど、抽象的な料理を目指していることを指す、らしい
使っている調味料でも、人工的に色や香りをつけているものもあるんだけど、それは「余分」なものに該当するので、そういったものは使わない、みたいなことだそうだ
しかしながら判断をひとつ間違えてしまうと外しすぎてしまい、物足りなくなる
絶妙なバランスを緻密な計算と豊富な経験、多くの仮説検証の積み重ねで実現する料理手法なのだと理解した
さらに、味覚はもちろんだが、食感から来る触覚と聴覚、ワンポイントなスパイス?から嗅覚、盛り付けで楽しむ視覚、これらによって自身の5感すべてが刺激され、自然体で数倍に覚醒して鋭くなっていくという体験をした
ということで、頼んだ品々を少しずつだがまとめてみた
盛付けと器は先入観なしで、写真からそのまま感じ取って欲しい
刺身盛合せ
関西圏に来ると欲しくなる、ハモとサヨリなど
ハモの上には、ちょうど良い塩梅とはよくいった物で、ギリギリ主張しない梅干しが乗っていた。
最初ビールでいただいていたが、ハモとカマンベールチーズは日本酒で
これが最強に合う
ハモは甘く柔らかい身と骨切りで残った骨の食感が絶妙だった
ボリボリ言う音がまた「食べている」という実感を増幅させてくれる
カマンベールチーズは、刺し身と醤油の組み合わせで食べる事自体が初めてで、文字通り新世界の扉が開かれた
日本酒は「京ひな」というブランドのもので、さっぱりから少しずつ味を強くしていった
記事の最後に紹介するのでぜひ最後まで読んでっ亭(笑)
銀杏のアヒージョ
アヒージョといえばにんにくだけど、それに見える正体はエリンギ
にんにくは一切使っていないとのこと
確かに銀杏の香りとにんにくの香りって喧嘩しそうだよなぁと妙に納得
オリーブオイルとの相性が良いのか、銀杏の身が薄皮からスルッとはなれるのは、食べる前のエンターテイメントとしてとても楽しい
油には程よい塩味がついているが、酒と合わせるには岩塩を少々つけて食べるとまた格別に味わいが進化した
アワビの唐揚げ
片栗粉でシンプルにアワビを揚げたものだが、熱を通すと身が驚くほど柔らかくなるというのは初体験。しかしながらアワビらしい食感は損なわない程度に残っており、この絶妙な火加減とタイミングは達人の成せる技だ
そして熱を入れたことでアワビの自然な海鮮の甘みが数倍に増幅しており、今後、生のアワビが物足りなくなってしまうのではないか?と心配になった(笑)
赤身肉のステーキ
生卵の甘みに加えて少しだけ炙った海苔の香りが食欲を刺激する
ゆずポン酢に大根おろしとネギのタレをたっぷりとつけて味わった。
つけ麺や寿司、刺し身など、タレや醤油を触り程度に少しだけ味のアクセントにつける、というのがセオリーだと思っていたが、今回のステーキのタレは「たっぷりつける」のがおすすめとのことで、それならばと遠慮なくガッツリつけてみた
結果的に少量つけた時と比べて肉の味わい、食感、海苔の香り、ゆずポン酢の酸味が、大根おろしとゆずのほんの隠し味程度の苦みが後押ししていてアクセントとなり見事に調和して口の中に広がった
ステーキを食べ終わったあとに残ったゆずポン酢は、肉の出汁と海苔の香りが加わって、進化版をアテとして楽しめてしまうというおまけ付きだ
海老チリ
中華料理で海老チリといえば、ご存知の方も多いと思うがケチャップを使っている。
しかしながらこちらの海老チリはそのケチャップを一切使ってない
代わりに酸味のアクセントとしてトマトを使っていた
柱となる塩味には薄口醤油を使っていて、これがまた良い仕事をしてる
香りは生姜がしっかりと全体を支えていて、渋みと辛味で海老全体を包み、素材の甘みを引き立てている
海老は肉厚で大きく、他の味付けや香りが強めであってもそれに負けない旨味があり、ちょっと頬張るくらい豪快に食べるのがちょうど良いくらいで、調和の取れた味・香り・食感が口の中全体どころか頭全体に爆発的に広がって、驚きすぎて震えた
締めの寿司
刺身とは違う醤油でいただく
これまた海老が大きく豪快で、頭の方の裏側には脳みそがついており、海老本体の甘みを倍増させていた
卵は濃厚な甘みと適度な塩味のバランスが絶妙であった
その他のネタも含めてあとで気付いたのが、米の美味しさである
食べている時は確認はしなかったけど、恐らくネタごとにシャリの締め方が違っていたのではないかな?
ネタの味の緩急に合わせて大きさや酢の量をバランスを取るように変えていたのではないかと思う
デザート
季節なので栗のデザートを頼んでみた
バニラアイスの口溶け感、栗のホクホク感、これにさつまいもチップスのパリッとした食感が加わり、舌を舞台にしてアンサンブルを奏でているようなで、聴覚も刺激されてフィナーレとなった
ここまで書いていて、この食体験をどこまで表現できているか?というと、10%に満たない
感動が大きすぎて文字起こしが全く追いつかない
関西圏、大阪や神戸からでも淡路島を経由して渡れば割と簡単にアクセスできる距離である
実際に体験したい方は、ぜひ一度足を運んで欲しい
「ちょっとよっ亭」という控えめなのはお店の名前だけで、いざ中に入ればちょっとどころではない、最高の食体験というおもてなしが待っている
ちなみにカウンターは夜のみの予約制。藤川さんと会話しながら料理を楽しむ場合は事前連絡必須です!
最後に、食をすすめていくうちに少しずつ味を強くしていった日本酒のラインナップを⇓
さっぱり系の切れ味
口に含んで少々待ってから深い味わいがガツンと来るが、後味は心地よい余韻が残るのみ
ヒットアンドアウェイが得意なボクサーのような日本酒
まろやかな甘味と香りが口に含んだ瞬間から楽しめる
ゆったりと包み込む味わいを楽しめるが、後味はさっぱりしている
チェロのバラード系の小品を聴いた感じに似ている
まったりとしているが、確かな深い味わいと甘みが脳内に伝わってくる
強めの味の料理と、喧嘩せずとも負けない
ちょっとハード目のインストバンドのライブを聴いているようなイメージ
THE 辛口
名前の通り、酒に「一刀両断」される、切れ味鋭い味わい
アテがなくともこれ単体で十分美味い
超絶技巧のピアノ曲を聴いている、そんな感じ