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エッセー.2 | 自分の重さを愛せるか

劇的な春の色調も落ち着きはじめ、ようやく床に煩雑に積まれた本らのことを考える。

新宿紀伊國屋で平積みされていた新書から、岐阜県高山の山奥で譲り受けた古書まで、思い返せばこの本らがここにある経緯はそれぞれ。染みや匂いも同様に。
独自のpathを辿っているこれら物の旅路が、現在、一時的に俺の部屋という時空間で重ね合わさっている。
自室の白い椅子に座りながら想起される、遠い風がいつかのページを繰る光景。

いつかの光をたくさんに受けたどこかの写真


物と位置

「ある」という現象において「位置と物」は、いつでも一体で同時だった。私たちにとって存在とは“位置する物” として、また “物する位置” として意識されている。
しかしなぜこれらの「位置」と「物」は、乖離せずに一つの存在に還元されるのか。路傍の石という奇跡が問いかける。

この問いに対する一つの回答として、私は「重さ」という切実な問題に向き合おう。

質量というのが位置に関係なく物が有する不変の数値であるならば、重さというのは空間の問題を孕む。
それは実に有機的な寛容さを持っていて、物と位置との間に詩的な関係性を構築している。
であるならば、私たちの生の歴史とは、重さを介して「ある」ことへの対話を試みてきた、ヒト以前からの長い長い道程そのものだ。

質量は完全に保存される。この宇宙の絶対的な規律の中で、私たちが創造的な読解をする余地はどうありえるだろう。
存在を「均衡のとれた物と位置の関係」と定義するとき、私たちがその関係に介入する方法、つまり「物をつくること」というのは、物の質量に対して無情なアプローチをすることだけに形容されうるか?
いやもっと、触ったら砕けてしまう朝の薄氷のような切実さと暖かさを内包した営みのはずだ。

「物をつくる」ということの本質は、物と位置との関係の中で構築された“詩的に固有な重量”という呪いに対し、柔らかな加工と敬意ある移動を試みることにある。そうであってほしい。

朝霧の中の石


本と棚の場合

ここで本棚を作ろう。
本棚は、本が内包する固有の重さと時間を静態させる。そして、それら多元的な空間を重ね合わせる刹那の装置として機能し、次のpathへ続く展開の無限を建築する。
勿論先述した、本が散財した部屋そのものを“無意識の本棚”足り得ると言うこともできるだろう。しかしそれでは、私たちが物に対して働きかけることができるのが、唯一その質量の容態を変化させることのみとなってしまう。
それはなんて虚しいだろう。

私は歴史家を喜ばせるために生きているわけではない。ただ必死に生きるだけだ。それが積み重なるだけだ。
私は今「ある」ということに、最大限の愛を注ぎたい。


穴、棘、石膏

本棚の天板となる木材は、旅の道中にとある古材屋で購入した。諏訪湖近辺の空き家の解体材らしいが、材の肌があまりにも荒々しいため、建材というより端材という感じだろう。塗装の予定はないが、ささくれも目立つので最低限のやすりがけをする。

木には触れるまではなかった、小さな穴があった。木屑がその穴を埋める。風が吹くと飛ぶ。その行方を追うことはできないが、決して失われることはない。
この存在を肯定し合う関係性に、今自分が身を投じていることを思うと、途方もなく、狂いそうになる。

棘が指に刺さって血が出た。
反射的に指を咥える。
医学的には根本的な解決になってないだろうが、別にそんなことはいい。それより自分が思考という過程を経ずとも、指から出た血の重みに対して最適な位置を処方できたことがただ嬉しい。

天板を支える橋脚を石膏で作ろうと、水を加えて練れば葉が一枚落ちた。
初めての石膏は想像より早く硬化し、型に流し込みきれなかった。さっきまで粉だった塊をつつきながら、以前にモルタルを打設した時のことを思い出す。今回は思い通りの橋脚を作ることには失敗した、その代償として何でもない塊が今足元にある。
さっきまで粉だった物と、さっきまで水だった物が無邪気に組み合わされたこれはこんなに重いのか、と知る。人は感じた重さを忘れない。

設計をしなおすぞ。今度はもう少しだけ、、、
あの本たちをこういう風に仕舞えば、うん、きっといい感じだ。絶対。

二枚の天板


自分の重さを愛せるか

私の瞬きと瞬きの隙間を最初に貫いた
すぐそこにある
その



確かにそこに存在している。
    それは宇宙に許されて
         抱きしめられてそこに ある。

✩࿐⋆*

私はその圧倒的な事実に、愛を、愛を抱かずにいられない。だって、


重さを介して私は私と対話する。

プールの授業中、一人で潜水したときのこと。
水面の喧騒から遠く、、、

 宇宙飛行士だった頃
 腕の産毛に纏った泡が宝石だった頃




                         揺れるグリッド




球体の天で星が回るのを見たことある?
俺がここで死んでも誰にも見つけられない。

                                                   


                                                     𓂋⟢˖⊹ ࣪



私はこの場に、各地より光る欠片の数々を持ち寄った。
垂直方向の無限遠。時間と空間を占拠する。

俺は物をつくらないと生きていけない。
物をつくらない俺は生きてはいけない?



自分の重さを愛せるか?
自分の重さを愛せるか?

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