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字が恐ろしく汚かった3年間
高校生の時、異常なほど字が汚かった。
もともとはそんなに汚いほうではなかったと思う。中学校のノートは、綺麗な方だったのを覚えている。
しかし、高校生になって小学生の男子かと思うほどの汚さになってしまった。
なぜか。
思い当たることは、ある。
高校生活が全く楽しくなかったからだ。
心から信頼できる友達が一人もできなかった。
地元の中学校から、隣町の少し都会の高校へ進学したので、いろいろな町からいろいろな生徒がやってきた。もちろん、田舎から町の子までいろんな生徒がいた。小学校の頃から地元の子たちと仲良くのんびりしていた私は、その変化についていけなかったのだと思う。
さらに、運動が得意でないのに見た目が格好いいという理由だけで武道を始めてしまった。
練習がきつく、友達も大してできないので、途中でやめようと思った。
しかし、先生も同じ部活の先輩や同級生も「辞めないで、頑張ろう」と言った。その時は嬉しかったけれど、今の私なら当時の自分に「自分が辛いなら、どんなに憧れていたことでも辞めたっていいんだよ」と言ってあげたい。
別に、辞めたら死ぬわけでもない。将来が閉ざされるわけでもない。むしろ重要なのは勉強のはずなのに、なぜ先生までもがあの時引き留めたのかわからない。先生は、部活を途中で辞めると成績が下がるという神話を信じていたようだった。
引き留めてくれた仲間の気持ちは嬉しいけど、でもその人たちだって私の全てを保証してくれるわけでもない。
それでも、優柔不断だった私は結局三年間部活に身を捧げてしまい、勉強には身が入らなかった。
その三年間、楽しかった記憶は殆どない。ひたすら部活が辛かったことしか覚えていない。早く引退したくて、引退していく先輩たちを羨ましく思っていた。
そして、その時のノートに書く自分の字がとてつもなく汚かったことを鮮明に覚えている。自分でも、ショックだったのだと思う。しかし、不思議なことにどんなに注意しても綺麗な字が書けなかった。
結局、高校三年間字の汚さは変わらなかった。
受験は全て失敗してしまった。
浪人が決まって、予備校に通い始めてから少しずつ字が整ってきたことを覚えている。浪人生活は大変なこともあったけれど、予備校の先生たちは浪人生の私たちを励ましてくれたし、授業が信じられないくらい楽しかった。先生の板書を写したノートを宝物のように大事に持ち帰って復習するのが楽しかった。はじめから、この予備校に通っていればよかったと後悔した。
一年頑張ったお陰で東京の大学に合格し、上京した。そこで出会った友達の字が綺麗だったので、真似をしていたらさらに字が整った。
それ以来、字が大きく乱れることはなくなった。
高校を卒業して十年以上経つ。
最近は学校で無理やり部活に入れと言わなくなってきた。生徒が辞めたいといえば、無理に引き留める指導をしている教員はいない。
どんな理由があるにせよ、私は生徒の言葉にしっかり耳を傾け、生徒が本当は何を欲しているのか、どうなることがその生徒にとって良いのかを一緒に考えていける教師でありたいと思う。