東大院卒と働く中卒が学業を放棄するまでの話⑧/⑨
〜前回までのお話〜
8,000円のアコギを手に入れた少年は
情弱ゆえに手にした歌謡曲やフォークの
教則本を頼りとしてギターを寝食忘れて練習。
そして、ある日、学校帰りに楽器屋で
初めてエレクトリックギターを弾くことに。
・まくら
エレクトリックギターほど演奏者によって、
その可能性が拡げられた楽器も珍しい。
元々はアコースティックギターの音を
デカい会場でも客席に届けるため、
マイクで音を拾うよりもクリアに
スピーカーで鳴らすことを目的として
考案されたらしい。
そのころはバンド全体が出す音のバランスを
調整するPAシステムもなかったのだろう。
そして、その音の並びがゆえに演奏に適した
ブルースでの主要楽器となり、やがてそれが
ロックンロールへと進化した際に激しい音楽に
欠かすことができない楽器となった。
繋がれるスピーカーから大音量で
出力される音の割れが「歪み」と
呼ばれるギター独特のトーンとなり、
表現の幅はジミ・ヘンドリックスの
衝撃的に奔放な演奏によって拡げられ、
奏法はエディ・ヴァン・ヘイレンによって
革命的なほど常識がやぶられた。
以降、ポピュラー音楽でギターは
歌の伴奏のみならず
曲の主役となり得る楽器となっている。
その音色と演奏者の姿は14歳の少年に
「これに人生を捧げる!」と思わせるに
十分な魅力があった。
・はじめての「まともなギター」
さて、学校帰りに友人とともに
楽器屋へと立ち寄った私は
並べられ、吊るされた百本以上のギターに
目を輝かせた。
ギターはそれぞれ5〜10万円、10〜15万円、
それ以上、と価格帯によってゾーン分けされている
ようだったが見た目だけで、その違いがわかるほど
少年の目は肥えていない。
今でもそうだ。弾いてみなければ良いギターか、
自分に合うギターかはわからないものだ。
これらのギターすべてが「試奏」の名のもとに
タダで弾かせてもらえる。
とはいえ、買えないのに10万円以上するギターを
弾かせてもらう図々しさはなく、
楽器店としても、どう見ても金を持っていない
学生服のクソガキに高価なギターを弾かせる
意味はない。
そもそもロン毛の神経質そうな店員の兄ちゃんに
話しかけるのすらビビっていた。
・5万円のレスポール
私は5万円以下ゾーンで憧れのギタリストと
同じ形のギターを探した。
それは丸みを帯びたクラシカルなフォルムと木目が
特徴のブツ。
レスポールと名付けられたタイプのギターだ。
それを見つけると友人が店員に声をかける。
暇だったのか店員の兄ちゃんは
予想に反して快く応じてくれた。
兄ちゃんはレスポールをアンプに繋ぎ、
慣れた手つきで六本の弦をチューニングしてから、
我々にギターを手渡す。
まず受け取ったのは私より数ヶ月、先に
ギターを手にしていた友人である。
彼はストーンズの"Brown Sugar"のリフを
弾き始めた。
弦を弾く右手首が柔らかく余裕を感じる。
しかも中学生でストーンズが好きとは
普通の感性ではない。
なお、この友人がのちに斉藤和義の
バックバンドでギターとキーボードを担当する
ことなど、このときは知る由もない。
彼は今も現役で活躍するミュージシャンだ。
そしてひと通り、弾き終えた友人から
手渡されたレスポールを注意深く受け取る。
まず最初に感じたことは「重い」
次に「弦がアコギより細く柔らかい」
家で弾いているジャンクなギターでは
必死に押さえていた「F」のコードも
楽に押さえられた。
アコースティックとエレクトリックとでは
こんな違いがあるものなのか、とワクワクする。
これなら難しくて、とても弾けないと思っていた
好きなバンドのギターパートが自分でも弾けそうに
思えた。いや、確実に弾けると何故か確信してしまった。
なんとしてもレスポールを手に入れたい。
でも中学生に五万は途方もない大金。
そこで、また私は「昼飯抜き大作戦」を
実行して金を貯めることになった。
学校で昼休みになるとクラス全員の席を
回って、おかずを一品もらうという物乞い生活。
恥も外聞もない。
だが、一日、二日ならともかくこれが月単位に亘ると、さすがにクラスメイトから教員にクレームが
入り、親に「弁当、持たせてやってください」と
連絡が来る始末。
それでも少年は空腹に耐えながら金を貯めた。
我ながら見上げた根性である。
この成長期に十分な栄養を摂らなかったことが
身長が伸びなかった要因であったのだろう。
そう考えると少々の後悔が残る。
しかし順調に「必要経費」が貯まっていったのは
確かなことだ。
そして、とうとう念願のレスポールを
手に入れることができた少年は
さらにギターにのめり込み、
来る日来る日も自部屋で
ひたすら練習に励むことになる。
・文章、長すぎ問題
今回でこのしょーもない自分語りシリーズも
いい加減、完結させるつもりだったが
案の定というか、すでに文字数は2,000字近くに
なってしまいました。
次の回で完結させます、必ず。
元々、誰も読んでねーし!
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