見出し画像

今日のおすすめ/小山田浩子『小さい午餐』

今日のおすすめは小山田浩子『小さい午餐』です。午餐は、ごさん、と読み、お昼ご飯のことです。こちら、小山田さんはじめての食エッセイです。
本の裏表紙に、居酒屋の日替わり定食、喫茶店の天丼、とんかつ店のロース定食、と美味しそうなメニューがずらり並んであります。広島在住の小山田さんならではの、呉のクリームパイ、広島のお好み焼きなんかもあり、なかなかこってりなラインナップです。
こちら、文章もなかなかこってりな印象があるのですが、それはおそらく、小山田節の改行しないぶっ続け文章のせいかしらと思っています。

「回転寿司を食べてきた。1人で行くのは初めてだ。回転寿司というのは、寿司がレーンを回っていたり注文した寿司が自分の真ん前で止まったりするというギミックにどうやっても遊戯性というか、面白がらそうとしている感を受け取ってしまう。私は保育園に子供を預けているのだが、そういう身で、例えば定食や麺類を食べていたらランチね、という風に受けとられると思うのだが、それが回転寿司だと、なんというかふざけんじゃねえぞというような、遊んでやがるというかそういう視線を受けるのではないか。つまりジャンルとしては回転寿司は定食屋よりはカラオケとか遊園地に近いのではないか・・・・・でも、今日は行こう行ってやる行くんだと思って行ってきた。いろいろなことがうまくいっていなかった。納期、焦り、不義理、書いても書いてもピンとこない。たった 今私以外の作家は全員もりもり仕事をしているような気がする。仕事以外もさえないことが続いていた。」p121

…とまあ、ずっと改行もなく、さらに続いて行くのですが、その文章には、なぜか貪るように読んでしまう不思議な魅力があるのです。
こうも途切れず文章を読んでいると、段々落語を聞いているような、映像を見させられているような気持ちになります。
これがなんとも中毒性のある読書体験なのです。

小山田さんが、回転寿司について書くと、回転寿司が運ばれてくるのも文学になるのか…ファミレスに家族と行く話も、こんなに膨らませて深みが出てきてしまうのか…と、感動。
普段ぼーっとしてろくに見ようともしていないことがなんともったいないことであるか…!

よくあるささやかなお昼ご飯だけど、ほんとは、そこには平和という幸せな体験があることを、小さい午餐は教えてくれています。
小さい午餐、なぜ、小さいのか、も考えてみたら、興味深いですよね。
今日のお昼のチキンラーメンは、小さい午餐な気がするな。ちゃんと自分なりにいろんなことを感じながらチキンラーメンのことを思い返すことにいたします。

(いわい)

#小山田浩子
#小さい午餐
#チキンラーメン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?