コルス覚醒
まずはサンディーの話をしたい。
サンディーは数多いるBリーグマスコットの中でトップオブトップだ。
圧倒的なダンスパフォーマンスはもちろん、あらゆることを器用にこなす一方、マスコットらしい愛くるしさも忘れない。選手とのからみや客席いじり、わんぱくだけど憎めないそのキャラクターは唯一無二。私は一瞬で魅了された。
サンディーがBリーグを代表するマスコットであることを証明する一例を紹介しよう。リーグ開幕から2年目、Bリーグ公式はオールスターを盛り上げるべくコンセプトムービーなるものを作成した。
そのうちの一つは富樫をフィーチャーしたもの。彼は前年のオールスターにて「高い高いダンク」を披露し強烈なインパクトを残していただけにピックアップされて当然だろう。
もう一つは篠山パイセン。彼もリーグの顔であるので選出は妥当といえる。ちなみに篠山のオールスター入場ネタはこの動画がきっかけだ。
そして、である。なんと、3本しかないコンセプトムービーの一つとして、サンディーが選ばれているのだ。
チームマスコットであるサンディーが他のオールスター出場選手を差し置き、富樫・篠山と肩を並べピックアップされていることからも、いかにサンディーがBリーグを代表するマスコットであるかわかることだろう。なお、この動画を見るたびに今年のオールスターに山内が選出されてほしいと切に思う。
おまけ。ブレイビー元気にしてるか?
Bリーグ観戦の楽しさの一つに「マスコット」の存在がある。マスコットはいい。チームのエースが結果を出せず意気消沈しようとも、雰囲気の悪さでムードメーカーがおどけることができなくなろうとも、SNSがブースターの罵詈雑言お叱りで溢れようとも、マスコットはときにおどけて、ときにブースターを鼓舞しチームの応援を続ける。その「どんなときでも応援し続ける姿」はプロフェッショナルでありイノセントだ。
そんなマスコットへのリスペクトを抱き、初めてビーコルの試合を観に国プへと訪れたとき、ビーコルのマスコットであるコルスを見て私は驚愕した。
こいつ、何にもしねぇ・・・
冗談抜きでほとんど動かないのである。初のBリーグ観戦が青山学院で行われた渋谷 vs 富山戦で、軽快なダンスや愛嬌あるブースターいじりをするサンディーに魅了されていた私は、ビーコルのチャンスにもピンチにも微動だにしないコルスに少しばかり怒りを覚えてしまった。マスコットたるものそれじゃいかんだろうと。
選手のミスにブースターから罵詈雑言港町の荒くれ者らしい語気強めのお叱りが飛び交う中で、どさくさにまぎれて私もコルスに非難の声を向けようとしたが、日ごろのアンガーマネジメントの成果もあり思いとどまった。体調が悪いとか、給料が少ないとか何か事情があるのだろうと。
初観戦からしばらくして私は再び国プに足を運んだ。チームの調子も気になったがなによりコルスが本来の調子を取り戻し、我々ブースターをおおいに鼓舞してくれることを期待し、会場を見渡す。
コルスがいねぇ・・・
マジか? そんなことがあるのかと。もしかしたら私の記憶障害かもしれないが、確かにその日、コルスは試合会場に現れなかった。
そんなこんなで私のコルスに対する印象=「人生クソゲー」とSNSに書き込んでいるようなやる気のない社員、であったのだが、そんな彼があるとき豹変する。軽快に動きブースターを鼓舞するのみならずサンディーばりのキレキレのダンスを披露し始めたのだ(皆さんのツイートを調べてみると、2019-2020シーズンだろうか)。
それはまさに『コルス覚醒』とも言うべきエポック。その変貌ぶりに私は本来喜ばしいことにもかかわらず、少々戸惑ってしまった。
それまで「この仕事を急いでやったら給料増えるんすか? 増えないっすよね。だったら急ぐ必要ないっすよね チッ」と毒づいていた部下が、ある日突然「おはようございます! 川村卓也の過去10年ぶんのスタッツすべてエクセルにまとめておきました! PDCAのAってアタックのAなんすよね! 私も仕事に全力アタック! なんつって!」と超ハイテンションで語りかけてきたような困惑。「アクションだ」と返答することもできず「こいつあやしい自己啓発セミナーにでも送り込まれたのか?」といぶかってしまうような豹変。
いったいコルスに何が起こったのだろうか?
だが、私はそのときピンときた。もしかして・・・と、あるサイトにアクセスする。するとやはり、そうか・・・。
ところで皆さんはBリーグにおいて「圧倒的な独占」を見たことがあるだろうか?
「そんなのずるいよー」と言いたくなるような独占。例えば昨シーズンの河村のアワード6冠とか。他にはカークに加えてサイズとロシターをも獲得した2021-2022シーズンのアルバルク、または折茂以外のスタメン4名がブレックスで固められた2020オールスターのB.BLACKなど。もしBリーグ独占禁止法があったらイエローカードくらっていた案件だろう。
だが、これらは独占と呼ぶにはまだ甘い。そう、実は一発レッドカードの案件がある。これだ。
少し古い話題で恐縮だが、この結果を受けての私のツイートがこれ。
はい、でました! ゴーゴープロダクション。マスコット界の名門中の名門、エリートマスコットを養成する虎の穴。ちなみに1位から5位まですべてゴーゴープロダクションの所属である(※公式ページの提携企業一覧からの推測です)。この独占状態は直近の結果でも変わらない。
コルスの豹変に違和感を覚えた私はゴーゴープロダクションのサイトを開く。するとそこには以前はなかったはずコルスの姿が・・・
「そうかコルス、お前ゴーゴープロダクションに入ったんだな」(※推測です)と、私は腹落ちした。
諸行無常。プレイヤーたちが常に競争の世界に身を置いているように、マスコットにも世代交代の波はやってくる。結果を示さなければ、ポンっと肩をたたかれる。そう、ブレイビーのように。
「カミナリリーグに移籍するから」というよくわからない理由でロウルにマスコットのポジションを奪われたブレイビー。別れの時は皆、涙していたが、ロウルのあざと可愛らしさに沼る川崎ブースターの目に、君がもう映っていないのを私は知っている。
コルスはその一部始終を目に焼き付けていたのだろう。ともに神奈川ダービーを盛り上げた(盛り上げた?)盟友の去り行く背中を。そして彼は選択した。マスコットエリートとして生き残り続けることを。
私は「コルス? ああ、あいつぁーダメだよ。根性がない。すぐやめるね」と短絡的な判断をした自分を恥じた。サンディーを筆頭とするエリート集団に加わるために彼はどれだけ努力したのだろうか? 想像を絶する苦労があったに違いない。けれども彼は歯を食いしばり、そして・・・成し遂げた。
マスコットはいい。その応援はプロフェッショナルでイノセントだ。彼らはどんなときでも、苦しいときも疲れたときも落ち込んだときも、変わらず応援し続けてくれる。その陰にいかなる辛さがあろうとも。
コルスありがとう。今季はチケットの確保が難しくなかなか国プへと足を運べないけれど、参戦した折にはぜひ一緒にビーコルを応援したいね!