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字幕翻訳者が語る『レオン』の世界──セリフ、字幕、そして衝撃のラスト

自分が観て心に残った映画のストーリーやセリフ、感想などを書いていきます。自分の覚書でもあるので、ストーリーは基本的にラストまで書きます。これからその映画を観ようと思っている方は、ネタバレにお気をつけください。

マガジンに掲載(2)


1.映画について

1994年製作/136分/PG12/フランス・アメリカ合作
原題:Leon The Professional
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1996年10月5日
主演:ジャン・レノ(レオン)、ナタリー・ポートマン(マチルダ)、ゲイリー・オールドマン(スタンスフィールド)

「グラン・ブルー」のリュック・ベッソン監督のハリウッドデビュー作。舞台はニューヨーク。家族を殺され、隣室に住む殺し屋レオンのもとに転がり込んだ12才の少女マチルダは、家族を殺した相手への復讐を決心する。少女マチルダを演じるのは、オーディションで選ばれ、本作が映画初出演となったナタリー・ポートマン。また、寡黙な凄腕の殺し屋レオンをベッソン作品おなじみのジャン・レノが演じている。

映画.com


この映画は、私が5年間のアメリカ赴任生活から戻り、程なくして観た映画だ。ニューヨークの風景がとても懐かしかった。バイオレンスシーンはあるが、主演3人の本格的演技と衝撃的なラストが見もので、悲しい余韻が残る名作である。

2025年2月現在、『レオン』完全版(劇場でカットされた22分の未公開映像あり)をNetflixとHuluで配信中。Netflixは字幕版・吹替版とも視聴可、Huluは字幕版のみ。


2.ストーリー

レオンは腕のいい冷酷な殺し屋だが、仕事を終えて部屋に帰ると、ミルクを飲み観葉植物に水をやり、一人で静かに暮らしている無害な中年男。部屋にはベッドと冷蔵庫だけ。質素な暮らしぶりだ。楽しみは映画館で映画を観ること。寝る時は椅子に座って眠っていた。

隣りの部屋に住むマチルダという12歳の少女は、麻薬の売人をしている実の父親ジョセフ、継母とその連れ子の姉、4歳の弟と暮らしていたが、家は散らかり放題、姉に暴力をふるわれ、荒れた生活をしていた。

ある日、そのマチルダの家に麻薬捜査官スタン(スタンスフィールド)とその部下が訪ねてきて、預けた麻薬の純度が落ちていると彼女の父親を責める。ジョセフは知らないと言い張るが、翌日再びやってきたスタンと部下たちに殺されてしまう。

スタンは、何やら怪しいカプセルを飲むと一気にヤバい奴に変身。ジョセフだけではなく、妻と子供たちまで殺してしまう。外に買い物に出ていたマチルダだけが助かり、レオンに助けを求めて保護される。

かわいがっていた4歳の弟を殺されたマチルダは、レオンが殺し屋だと分かると、自分にも殺しを教えてほしいと頼む。

一匹狼のレオンはもちろん断るのだが、マチルダが無鉄砲に窓から銃を発砲するものだから、部屋に居られなくなり、武器と観葉植物を手にマチルダを連れて出て行くことになった。

安ホテルでチェックインの際、字が書けないレオンの代わりにカードに記入し、しかも自分をいじめたクラスメートの名前を書き込むなど、なかなか悪知恵が働くマチルダ。レオンの世話をしたり文字を教えたりする代わりに、武器の使い方を教えてもらうのであった。

レオンとマチルダは一緒に仕事をするようになる。だんだん、彼に感化され服装ややり方を真似ていくマチルダ。だが、レオンがある時、一人で危険な仕事に出かけたすきに、マチルダは弟の仇を取りにスタンのオフィスに単身で乗り込む。

戻ったレオンは彼女の書き置きを読み、彼女を救いに行く。その際、スタンの部下2人を殺してしまうため、スタンはレオンとマチルダを本気で探しにかかる。

レオンに仕事を回していたトニーは、実はスタンの依頼を受けていた。つまり、レオンはスタンからの依頼で次々と街のゴミをきれいにしていたことになる。だが、今回スタンを敵に回したことで、スタンがトニーを締め上げ、レオンの居場所が知られてしまう。

麻薬取締官たちが買い物に出ていたマチルダを捕まえ、部屋にいるレオンを襲いにかかるが、彼は無敵だ。部屋に入る武装した警官たちは次々にやられてしまう。ついに麻薬取締官とSWAT総攻撃が始まる。

レオンは台所の換気扇を壊し、そこから観葉植物と泣いて嫌がるマチルダを逃がす。1時間後にトニーの店で落ち合おうと約束して。

レオンは爆弾や煙幕に乗じ、負傷したSWATになりすまして助けられる。だが、マスクを外したところをスタンに見られ、建物から出る直前に背中を撃たれて倒れる。近づいたスタンに、レオンは「マチルダからの贈り物だ」と言って手榴弾のピンを渡す。直後にすさまじい爆発が起きた。

レオンは命を懸けてマチルダを救ったのだ。マチルダはトニーの店でずっと待つが、レオンは戻ってこない。トニーに説得され、彼女は学校に戻る。麻薬の売人だった父親が先に1年分の学費を払っていたため、彼女は復学を許される。

マチルダは、校庭の片隅にレオンの観葉植物を植えるのであった。


3.印象的なセリフと字幕

*英文は聞き取ったもの。( )は直訳。太字は字幕訳。

①最初に殺し屋が来ると知って、ギャングたちがおびえるシーン。
"Somebody's coming up. Somebody, serious." (誰か上に上がって来る。手に負えないヤツだ) →  誰か来る ヤバい客だ
serious には「真剣な、本気の」という意味があるが、ここでは「危険、ヤバい」がぴったり。

②マチルダが虐待を受け鼻血を出しているのを見て、レオンがハンカチを差し出すシーン。マチルダとレオンの会話。
"Is life always this hard, or is it just when you're a kid?"(人生ってずっとこんなにつらいの?それとも子供のうちだけ?)→  大人になっても人生はつらい?
"Always like this."(ずっとこんな感じだよ)→  つらいさ

③スタンと部下たちがマチルダの家族を皆殺しにしたあと、パトカーのサイレンが聞こえる。スタンが部下一人を残して出て行くシーン。部下とスタンの会話。
"What do you want me to tell them?"(警官たちに何て言ってほしい?)→  警察に何て?
"Tell them -- we were doing our job."(俺たちの仕事をしたと言え)→  遂行したと言え 職務をな
*この時には、彼らが警官だとは1ミリも思えなかったので「え?職務?」と驚いた。ギャング同士の抗争としか思えない残虐さだ。でも昔のニューヨークならありえたかもと思えるのがまた怖い。

④救われたマチルダがレオンの仕事道具を見つけたシーン。2人の会話。
"What exactly do you do for a living?"(仕事はいったい何をしてるの?)→  レオン あなたの仕事は?
"A cleaner."(掃除人だ)→  掃除人に傍点
"You mean you're a hitman? You clean anyone?" (つまり、あなたは殺し屋? 誰でも殺すの?)→  殺し屋のこと? 誰でも殺すの?
"No woman, no kids. That's the rules."(女性と子供は殺さない。それがルールだ)→  女と子供以外はな

⑤観葉植物の世話をしているレオンとマチルダの会話。
"You love your plant, don't you?" (植物が好きなのね)→  大事なの?
"It's my best friend. No questions."(親友だよ。質問もしない)→  最高の友さ 無口だからいい
"It's like me. No roots."(俺に似てるんだ。根がない)→  俺と同じでーー 根がない

⑥マチルダがレオンに気持ちを打ち明けるシーン。
"Leon, I think kind of fall in love with you."  →  あなたに恋をしたみたい
"It's the first time for me, you know."  →  初めての経験よ
"How do you know it's love if you'd never been in love before?(初めてなのになぜ恋だと分かるんだ)→  初めてでなぜ分かる?
"Cause I feel it."  →  感じるの
"Where?"(どこが?)→  どう?
"In my stomatch. It's so warm."(お腹の中がとても温かい)→  ここがーー 温かいの
*愛してると打ち明けられて、飲んでいたミルクを吹き出すレオン。このあと、お腹が温かくて締め付けられる感じが消えたと聞き、「お腹がよくなってよかったな」と答えるレオンであった。

⑦レオンが買ってきたドレスを初めて着てみたマチルダと、それを見て驚くレオンの会話。
"Do you like it?"(気に入った?)→  すてき?
"Yes" →  ああ
"So, say it."(なら、そう言って)→  ちゃんと
"I like it."(気に入ったよ)→  すてきだ
"The girl's first time is very important."(女の子の初めての時はとても大事なのよ)→  女の子の初体験は大切なの
*もちろんレオンはマチルダに手を出すことはない。彼には過去に女性とのつらい経験があり、もう恋はしないと誓ったのだった(しかもマチルダはまだ12歳!)。

このあと、いつも椅子で寝ているレオンを、ただ横になっているだけでいいと言ってベッドに寝かせるマチルダ。2人は初めて一緒のベッドで眠るが、このあと永遠の別れを迎えることになる。


4.感想

"One of my ten favorite movies" ーー 私が好きな10本の映画の1本に入るおススメの傑作だ。が、友人に勧めてみたところ最初のシーンが衝撃的過ぎて観られなかったと言われてしまった。

確かにバイオレンスシーンがたくさん出てくるので好みが分かれる映画かもしれないが、13歳のナタリー・ポートマン、フランスを代表する俳優ジャン・レノ、イギリスのカメレオン俳優ゲイリー・オールドマンの名演技を観ないなんて、もったいないと思える作品である。

特に、自分を追ってきたマチルダをトイレで殺そうとするスタン役、ゲイリー・オールドマンの怪演は凄まじい。こいつ、ホントにイっっちゃってると思って怖かった。だいぶ後になって、ハリー・ポッターシリウス・ブラック役だと知って仰天。とても同一人物とは思えなかった。さらに『裏切りのサーカス』の知的なスマイリー役ウィンストン・チャーチル役と、その都度別人になれるすごい俳優だと知ってファンになった。

暴力的な殺戮シーンがありながら、涙なしでは観られないラスト。私はTVで放送されたものを録画したのかレンタルビデオを借りてきたのか忘れたが、続けて2回観て2回ともさめざめと泣いたことをよく覚えている。

不器用な殺し屋と、家族を皆殺しにされてひとりぼっちになった少女の純愛。ありえない設定ではあるが、レオンもまた、ひとりぼっちで同じことの繰り返しだった毎日に、明るく火を灯してくれたマチルダを大事に思うようになっていく。最後に自分の命をかけて少女を守ったレオンの愛情は本当に純粋だった。その気持ちに心を持っていかれるのだ。

それほど愛され助けられたマチルダは、その後きっと、一生レオンのことを想いながら強く生きていくのではないだろうか。


*『レオン』完全版 字幕翻訳:岡田壯平氏、吹替翻訳:瀬谷玲子氏


フリーランス翻訳家(映像字幕、実務翻訳)
浦田 貴美枝

仕事のご依頼は下記までご連絡ください。
kimiehonyaku@gmail.com

著書:『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
https://onl.la/Xngg8Ey (kindle版)
『続・夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
https://onl.bz/c3m3Fcd (kindle版)
『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
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