悪客A

安村が自ら「安村を励ます会をやってくれ」と私や石井に言ってきたとき、私たちは「これは要するに合コンを開いてくれということだな」とすぐにわかった。


それから数週間後、はれて離婚を成立させフリーとなった安村のために、岡部が合コンを開くこととなった。

メンバー選考は岡部が担当し、今回は人数調整のため私は不参加となり、岡部、石井、池野と安村の四名が参加することとなった。


そして深夜未明、安村の大暴走により渋谷警察署の警察官が岡部、石井、池野に職務質問を行っていた瞬間

私は池袋で初対面の女とキスをしていた。

×××

対異性三元中継と言わざるを得ない。


安村、岡部、石井、池野が渋谷でアラサー女性たちと合コンに興じている時間、私は池袋で友達主催の飲み会(♂8♀4)に参加することになった。

「スーパーファミコンやりながら酒飲もうぜ」

というなんとも心を擽る謳い文句に誘われ、ほいほいと池袋サンシャイン通り脇の居酒屋に顔を出すと、ちゃっかり女の子がいた、というわけだ。

悪友村尾は、“災厄”である。

特筆すべきはその交遊関係であり、彼の電話帳には北はアイスランドのバーのお姉さん、南は福岡中洲のラーメン屋店員まで幅広い層が名を連ね、果ては政治・司法への進出も夢ではないのではないかと思わざるをえないような、“歩くノックリスト”と化している。

かつて私はこの現代のナポレオンよりソープ嬢を紹介されたわけであるが、今回現れた4人の乙女はまったくの素人ということで、私の夜の蝶とのランデブーを拝見したい読者諸賢は、恐れ入るが別の機会とさせていただきたい。


まずは率直な感想を述べたい。

スーファミ面白い。


しかし何より思い入れ深いのはぷよぷよだろう。

実は私、こう見えてぷよぷよが得意であり、事務所の公式プロフィールでも特技欄にはぷよぷよと記載されている。(※ここでの事務所の公式プロフィールとは、前略プロフという一時期援交の温床となったsnsのことである)


私はその力を遺憾なく発揮し、ビールを飲んではファイヤー!、ウーロンハイを飲んではファイヤー!、サワーを飲んではファイヤー!、と、まるで全盛期の奥田民生を彷彿とさせる暴れっぷりでアイスストーム!、男子7人全員をやっつけてやったのだ。ダイアキュート!


男どもを葬り去り、サディスティックに笑う私を見て、推定Fカップのらんちゃんは『かわいいw』と言った。


推定Fカップ、やたら濃いウーロンハイ、そして安村合コンから省かれた屈辱は私の理性をタガをブレインダムド!するには充分であった。


私はらんちゃんに言ったのだ。

「僕があともう一周、7人を倒したらキスしてくれないか」と。

するとらんちゃんは『えー、じゃあ7人倒したらいいよ』と言った。


マジか。


一度倒した相手を再度葬るのは造作もなかった。


私は本当に7人をやっつけらんちゃんとのキス権をゲットしたのだ!じゅげむ!


『マジかあ。じゃあ10秒間ね!』

と言いらんちゃんは唇を重ねてきた。ばよえーん。

ちょっ・・・舌が////

10秒間のキスを終え、らんちゃんは言った。

『唇柔かくて気持ち良い』
と。

『今までキスした相手の中でも上位だね』

とも言った。らんちゃんは彼氏がいて、セフレがいて、“アッシーくん”もいるらしい。
とんだアバズレだ。しかし気持ち良いキスだった。

帰り道で2人になった時も三回くらいキスをしてくれた。
もはやアッシーくんになりたい。

村尾は私に言った。

「昔のお前はただの暗いヤツだったけど今ははっちゃけたな。初対面の人ともコミュニケーションとれるようになったし。良いと思うよ」

と。

お前はなんなんだ。

×××

私が池袋で快楽に溺れている頃、渋谷では波乱が起きていた。

石井から後日聞かされた話のため真偽の程は定かではないが、安村の暴走がひどかったらしい。

合コン自体はうまくいったらしいが会計の際に石井が「今日良かったすね~、女の子と連絡先交換できたし」と話しかけた瞬間、何故か大激怒。

怒号と共に石井の髪の毛を引っ張り、壁に叩きつけ殴る蹴るの暴行を加えた。

さらに止めに入る岡部に「お前もやあああああ!!」と髪の毛を引っ張り暴行。


大激怒の理由は推察するに、私たちはもともと合コンの際の会計は代表者1人が全額立替て後日精算という暗黙の了解があるのだがそれを安村が理解していなかったこと。

さらに関係のない社内の人間に「安村さん、あんた金たかられるだけたかられる役回りになりますよ」と言われていたこと。

それに加えて会計時に石井のチャラチャラ発言があったため、「やっぱり俺のこと財布がわりに呼んだんだな!」となってしまったのだろう。

暴走は他席にまで及び、他のお客さんの席にまで石井を投げ捨てる安村。


ついには長身でガタイがよくヤクザ風のスーツを身に纏ったオジサンがあらわれ「兄さん、そのへんにしときな。他のお客さんに迷惑だ」と至極真っ当な苦言を呈してきた。

安村は「なんやコラァ!!やんのかコラァ!!」

と答えた。

これによりヤクザ風のオジサンも「なんやコラァ!やんのかコラァ!」となり、安村は安村で「なんやコラァ!やんのかコラァ!」と一歩もひかず、唯一酒の酔いが浅かった池野が事態の収拾に努めるも効果は薄く、店側は警察の投入を決めた。

なんにせよ安村を外に出す必要があり、池野、岡部、石井、ヤクザ風オジサン、ヤクザ風オジサンの仲間のチンピラで安村をエレベーターに乗せる。

ヤクザ風オジサンの仲間の若いチンピラが安村に「お兄さん飲み過ぎですよ。とりあえず外出ましょ、外」と促すと、安村は「誰やねんお前コラァ!!やんのかコラァ!!」とキレた。

チンピラは安村に対し
「色んな人に迷惑かけてるのはあんたでしょうがあ!!!」と至極真っ当な突っ込みをいれたらしい。


そして警察がやってきた。

諸々の事情聴取、質問、店側への謝罪等、警察官による安定した対応を受け安村も冷静になり、気がつくとタクシーに乗って帰ってしまっていたらしい。

まったくどうしようもないやつだ。

すべての物事にケリがついたこの時、渋谷は午前3時を迎えようとしていた。

×××

親友のディケンズも因縁の相手、桜井まなみさんと秋葉原で会っていた。

私が池袋へと向かう電車の中で、ディケンズからのメールを受信し、開いてみると掲載写真と共に【愛してる】の文章が添えられていた。


後できくと、まなみさんが悪戯でディケンズの携帯でディケンズの写真を撮り、メールしてきたそうだ。


ディケンズの嫉妬心をくすぐり、さらに金をまきあげる魂胆なのか。

まなみさんは私とディズニーに行きたいと言ってるらしい。

そういえば前にも電話で『1万円のシェリーメイが欲しい』と言っていた。まったくけしからん。

私はディケンズにこうまなみさんに伝えるよう言った。

「松岡がいくらでも買ってあげるよと言っていた」と。

この手の女の子によく説教をして改心させようとする同じ松岡でも松岡修造みたいなやつがいるがナンセンスだ。

北風と太陽だ。


いっぱい物を貢がせて、その虚しさに気付かせればいいんだ。
甘やかせて甘やかせて、いつの間にか裸にすればよいのだ。

それで改心しないのであれば風俗やらソープに堕ちるだけだ。

女子高生時代から狂った金銭感覚だ。どうせまともな職業につけやしない。

×××

この日に限って言えば、であるが

この日は私こそが主役だったのではなかろうか。


いつも他人の人生、生活を羨ましがって生きてきた。

他人と人生を入れ換えたかった。


だがこの日だけは、私が羨ましがられる側にまわれるのではないか。

この日だけは、入れ換わりたいと思われる側にまわれるのではないか。

けれどもよくよく考えてみれば、私たちがこんな不毛なことに時間や金を費やしている間に、幸せな家庭を築き、家族のために時間や金を費やしている人がいる。


それを考えてしまうと、毎度のことながら、さっさとこの人生に「I quit!」を叫びたくなるものだ。


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